第27話「甘やかしたがりのフェニックス」
文字数 1,856文字
「そういえばさー、この前、学校でチビとすれ違って」
「うん。ミナちゃん先生ね」
「なんかドヤ顔で『わたし日曜日、一号くんとラーメン食べに行っちゃったわ!』とか自慢されたんだけど」
「あはは」
「笑い事じゃねーよー。
ムカついたから『あたしは土曜日にラーメン食いに行ってるけどな!』って言い返してやったわ。
めっちゃ悔しそうな顔でモーモー鳴いてやがったよ。
へっへっへ」
「えぇ……そうなるとどっちも大人げないなぁ……」
「どっちも!? いやいや、あたしは大人だろ。
売られた喧嘩を大人買いしてんだから」
「そんなものを大人買いしちゃうのが子供なんだよ?」
とある休日。
僕は朱雀井さんと宛もなく、ぶらぶらと街を歩いていた。
【ひまー。遊ぼうぜ!】と朱雀井さんから呼び出されたのだ。
お互い特にやりたいこともなかったので、こうして他愛もない雑談に耽っている。
「それにしても、チビとラーメン食いに行ってやるなんて、いちいち面倒見いいよなぁ、一号は。
将来いい旦那になりそうだよ」
「あはは。でもそれはちょっと誤解かな。
僕別に、ミナちゃん先生の面倒を見てるだなんて思ったことは一度もないよ。
むしろ、いっつも面倒見てもらっちゃって、恐縮してるくらい」
「一号が面倒を見てもらってる~? あのチビに~?
あっはっは。チビを立ててやるなんて、優しいなぁ一号は」
朱雀井さんは笑うけれど、実情は本当にそうだ。
僕がこれまでに何度、ミナちゃん先生のお世話になったことか。
まぁ、朱雀井さんはそれを知らないので、取り合ってもらえないのも仕方がない。
「でも優しすぎて甘やかすのはよくないぞ一号!
甘やかしはそいつのことをダメにしちゃうからな」
「うん。そうだね。気をつけるよ」
熱弁を振るう朱雀井さんに、僕は相槌を打っておいた。
いつかそのうち、僕がミナちゃん先生にお世話されてる情けな~い場面を実際に目撃してもらって、僕らの関係を理解してもらうとしよう。
「おー、わかってくれて嬉しいぜー。
一号はほんと素直でかわいいやつだ。
――あ、そんなことより一号、大判焼き食わね!?
買ってやるよ!」
上機嫌になった朱雀井さんは、大判焼きの屋台を指差した。
「いや、自分で買うから」
「あ、そう? じゃあ抹茶はあたしが買ってやるよ。
飲むだろ?」
屋台に向かいながら、朱雀井さんが言う。
「……それも自分で買うよ」
「む。……あ、じゃあ晩飯! 食ってから帰ろうぜー。
あたしが出すから」
「朱雀井さん、僕に奢ろうとしすぎ! 前々から思ってたけど!」
いよいよ辛抱ならず、僕はツッコミを入れた。
一体どういうことなのだろうか。
朱雀井さんと休日を過ごすことも多くなったのだが、ラーメンを食べたり、本屋や映画館に行ったりするその都度、朱雀井さんは僕の分までお金を払おうとするのだ。
「え……い、嫌か?」
なぜ僕にツッコまれたのか解せない様子で、キョトンとしている朱雀井さん。
「嫌っていうか……悪いじゃん。
朱雀井さんにお金払わせるなんて。
もしかしてそれも恩返しの一貫?」
僕は、朱雀井さんの身に降り掛かったトラブルにちょっとだけ手を貸してあげたことがある。
もしかしてその礼か何かのつもりなのだろうか。
そう思ったが、朱雀井さんは即座に否定した。
「! それは違うぞ一号! あたしは金で恩返しだなんて無粋な真似はしねーよ!
これはもうあれ、純然たるマブダチとしての〝奢ってあげたい願望〟!」
「奢ってあげたい願望」
耳慣れない願望だが、朱雀井さんの中では確固としてそれがあるようで、しみじみと続ける。
「ああ。一号と一緒にいると、発見の連続だぜ。
あたし自身も驚いてるんだけどさ、マブダチってのは、お金を出してあげたくなるもんなんだな」
「…………」
うーん……まぁ、僕も今やすっかり朱雀井さんのことを〝マブのダチ〟だとは思っているので、わからなくもないような気もするが……。
「一号が欲しがってるもの、あたしが全部金出して買ってあげたい」
それはさすがに行き過ぎだろう……。
「あ、そういや一号、誕生日いつ!?
もう今からバイトして金貯めとこうと思ってんだ~。
んふふ、何でも買ってやるからな!」
「…………」
人を甘やかすなとか、どのクチが言うか。
当の朱雀井さんが、僕のことを甘やかしすぎる。
「うん。ミナちゃん先生ね」
「なんかドヤ顔で『わたし日曜日、一号くんとラーメン食べに行っちゃったわ!』とか自慢されたんだけど」
「あはは」
「笑い事じゃねーよー。
ムカついたから『あたしは土曜日にラーメン食いに行ってるけどな!』って言い返してやったわ。
めっちゃ悔しそうな顔でモーモー鳴いてやがったよ。
へっへっへ」
「えぇ……そうなるとどっちも大人げないなぁ……」
「どっちも!? いやいや、あたしは大人だろ。
売られた喧嘩を大人買いしてんだから」
「そんなものを大人買いしちゃうのが子供なんだよ?」
とある休日。
僕は朱雀井さんと宛もなく、ぶらぶらと街を歩いていた。
【ひまー。遊ぼうぜ!】と朱雀井さんから呼び出されたのだ。
お互い特にやりたいこともなかったので、こうして他愛もない雑談に耽っている。
「それにしても、チビとラーメン食いに行ってやるなんて、いちいち面倒見いいよなぁ、一号は。
将来いい旦那になりそうだよ」
「あはは。でもそれはちょっと誤解かな。
僕別に、ミナちゃん先生の面倒を見てるだなんて思ったことは一度もないよ。
むしろ、いっつも面倒見てもらっちゃって、恐縮してるくらい」
「一号が面倒を見てもらってる~? あのチビに~?
あっはっは。チビを立ててやるなんて、優しいなぁ一号は」
朱雀井さんは笑うけれど、実情は本当にそうだ。
僕がこれまでに何度、ミナちゃん先生のお世話になったことか。
まぁ、朱雀井さんはそれを知らないので、取り合ってもらえないのも仕方がない。
「でも優しすぎて甘やかすのはよくないぞ一号!
甘やかしはそいつのことをダメにしちゃうからな」
「うん。そうだね。気をつけるよ」
熱弁を振るう朱雀井さんに、僕は相槌を打っておいた。
いつかそのうち、僕がミナちゃん先生にお世話されてる情けな~い場面を実際に目撃してもらって、僕らの関係を理解してもらうとしよう。
「おー、わかってくれて嬉しいぜー。
一号はほんと素直でかわいいやつだ。
――あ、そんなことより一号、大判焼き食わね!?
買ってやるよ!」
上機嫌になった朱雀井さんは、大判焼きの屋台を指差した。
「いや、自分で買うから」
「あ、そう? じゃあ抹茶はあたしが買ってやるよ。
飲むだろ?」
屋台に向かいながら、朱雀井さんが言う。
「……それも自分で買うよ」
「む。……あ、じゃあ晩飯! 食ってから帰ろうぜー。
あたしが出すから」
「朱雀井さん、僕に奢ろうとしすぎ! 前々から思ってたけど!」
いよいよ辛抱ならず、僕はツッコミを入れた。
一体どういうことなのだろうか。
朱雀井さんと休日を過ごすことも多くなったのだが、ラーメンを食べたり、本屋や映画館に行ったりするその都度、朱雀井さんは僕の分までお金を払おうとするのだ。
「え……い、嫌か?」
なぜ僕にツッコまれたのか解せない様子で、キョトンとしている朱雀井さん。
「嫌っていうか……悪いじゃん。
朱雀井さんにお金払わせるなんて。
もしかしてそれも恩返しの一貫?」
僕は、朱雀井さんの身に降り掛かったトラブルにちょっとだけ手を貸してあげたことがある。
もしかしてその礼か何かのつもりなのだろうか。
そう思ったが、朱雀井さんは即座に否定した。
「! それは違うぞ一号! あたしは金で恩返しだなんて無粋な真似はしねーよ!
これはもうあれ、純然たるマブダチとしての〝奢ってあげたい願望〟!」
「奢ってあげたい願望」
耳慣れない願望だが、朱雀井さんの中では確固としてそれがあるようで、しみじみと続ける。
「ああ。一号と一緒にいると、発見の連続だぜ。
あたし自身も驚いてるんだけどさ、マブダチってのは、お金を出してあげたくなるもんなんだな」
「…………」
うーん……まぁ、僕も今やすっかり朱雀井さんのことを〝マブのダチ〟だとは思っているので、わからなくもないような気もするが……。
「一号が欲しがってるもの、あたしが全部金出して買ってあげたい」
それはさすがに行き過ぎだろう……。
「あ、そういや一号、誕生日いつ!?
もう今からバイトして金貯めとこうと思ってんだ~。
んふふ、何でも買ってやるからな!」
「…………」
人を甘やかすなとか、どのクチが言うか。
当の朱雀井さんが、僕のことを甘やかしすぎる。