第8話「新たなる保健室、現る」
文字数 1,623文字
気になる情報を小耳に挟んだ。
その真相を確かめるべく、僕は部室棟へ向かった。
帰宅部の僕には縁遠い場所だ。
築年数も古く、どことなく雰囲気が薄暗い。
掴んだ情報を頼りに、僕は一階の端っこの部屋を目指す。
そして、そこに掲げられているプレートを見て――愕然とした。
「だ、第三保健室……?」
冗談かと思ったが、噂は本当だった。
ミナちゃん先生の第二保健室だけでも驚きだが、なんとこの学校、三番目の保健室までもが存在していたのである。
「――気付いたようね」
不意に背後から声がかかる。
はっとして振り返ると、ミナちゃん先生が神妙な面持ちで立っていた。
「み、ミナちゃん先生……この場所は一体……」
僕が尋ねると、ミナちゃん先生はゆっくりと首を振る。
「わたしにもわからない。いつ開設されたかも定かではないわ。
……けど、第三というナンバリングがされている以上、わたしの第二保健室のあとに開設されたのは間違いないでしょうね」
まぁそうだろう。
ミナちゃん先生の第二保健室を意識したうえでの場所であろうことは明白だ。
「つまり、わたしのフォロワーというわけよ」
ドヤァと、ミナちゃん先生の鼻がぷっくり膨らんだ。
どうやら真似されて嬉しいようだ。
僕は第三保健室の戸に手を掛ける。
しかし鍵が閉まっていた。
戸の覗き窓は曇りガラスで、中の様子は窺えない。
「そうなのよ。わたしも何度か足を運んでみてるんだけど、開いてた試しがなくて」
「うーん。プレートだけ掲げたイタズラとか?」
「でもこの辺りで、白衣を着た子供の目撃情報があったりするのよね」
「いやそれミナちゃん先生のことじゃ……」
「違くて違くて! 髪の色も長さも全然違ったって」
となると、ミナちゃん先生以外にもこの学校には子供養護教諭がいるということだろうか。
「謎ですね……」
「謎なのよ……。あとこれは未確認の情報なんだけど、ここ以外にも保健室があるらしくて」
「えっ。第四、第五と?」
「ううん。名前は違うみたい。
なんでも、古代の黒魔術的手法で病気や怪我を治してる『地下保健室』とか、人ならざるものを専門に診てる『モノノケ保健室』、企業の病理にメスを入れて組織の体質を改善する『企業保健室』なんてものもあるって噂が……」
最後のはそれ、経営コンサルタント的な何かなのでは……。
「これだけ怪しげな保健室が揃うと、『暗黒保健室トーナメント』とか始まりそうよね……!」
なんでちょっとワクワクしてるのだろうか。
勝つ自信あるんだろうか。
「いやぁ……それはさすがに都市伝説の類では……。あ、というか校長は何か知らないんですか? 保健室の乱立について」
「うん。おじいちゃんも知らないみたい。だから完全に無認可ね~」
ミナちゃん先生はやれやれと肩をすくめる。
おじいちゃん――という呼び方からも分かる通り、この学校の校長というのは、ミナちゃん先生の祖父なのだ。
ちなみに理事も兼任している。
第二保健室なんてものがあるのも、その辺りの事情が大いに関係している。
「とにかく、無認可保健室の調査は今後も引き続き進めていきましょう」
「……調査? この第三保健室もほっとくんですか? 校長に頼んで立ち退かせればいいのに」
僕が言うと、ミナちゃん先生はとんでもないとばかりに首を振った。
「そんな乱暴な真似は良くないわ! 実態も把握しないで杓子定規な対応をするのって、愛がないと思うのよね」
なるほど。
ミナちゃん先生らしい、寛容な考え方だ。
僕は感心したが、しかし、
「――それに、わたしの真似っこをするってことは、きっとわたしのファンだもの。優しくしてあげなくっちゃ。んふふ」
「…………」
ミナちゃん先生の下心が垣間見えて、感心の度合いはちょっとだけ下がった。
その真相を確かめるべく、僕は部室棟へ向かった。
帰宅部の僕には縁遠い場所だ。
築年数も古く、どことなく雰囲気が薄暗い。
掴んだ情報を頼りに、僕は一階の端っこの部屋を目指す。
そして、そこに掲げられているプレートを見て――愕然とした。
「だ、第三保健室……?」
冗談かと思ったが、噂は本当だった。
ミナちゃん先生の第二保健室だけでも驚きだが、なんとこの学校、三番目の保健室までもが存在していたのである。
「――気付いたようね」
不意に背後から声がかかる。
はっとして振り返ると、ミナちゃん先生が神妙な面持ちで立っていた。
「み、ミナちゃん先生……この場所は一体……」
僕が尋ねると、ミナちゃん先生はゆっくりと首を振る。
「わたしにもわからない。いつ開設されたかも定かではないわ。
……けど、第三というナンバリングがされている以上、わたしの第二保健室のあとに開設されたのは間違いないでしょうね」
まぁそうだろう。
ミナちゃん先生の第二保健室を意識したうえでの場所であろうことは明白だ。
「つまり、わたしのフォロワーというわけよ」
ドヤァと、ミナちゃん先生の鼻がぷっくり膨らんだ。
どうやら真似されて嬉しいようだ。
僕は第三保健室の戸に手を掛ける。
しかし鍵が閉まっていた。
戸の覗き窓は曇りガラスで、中の様子は窺えない。
「そうなのよ。わたしも何度か足を運んでみてるんだけど、開いてた試しがなくて」
「うーん。プレートだけ掲げたイタズラとか?」
「でもこの辺りで、白衣を着た子供の目撃情報があったりするのよね」
「いやそれミナちゃん先生のことじゃ……」
「違くて違くて! 髪の色も長さも全然違ったって」
となると、ミナちゃん先生以外にもこの学校には子供養護教諭がいるということだろうか。
「謎ですね……」
「謎なのよ……。あとこれは未確認の情報なんだけど、ここ以外にも保健室があるらしくて」
「えっ。第四、第五と?」
「ううん。名前は違うみたい。
なんでも、古代の黒魔術的手法で病気や怪我を治してる『地下保健室』とか、人ならざるものを専門に診てる『モノノケ保健室』、企業の病理にメスを入れて組織の体質を改善する『企業保健室』なんてものもあるって噂が……」
最後のはそれ、経営コンサルタント的な何かなのでは……。
「これだけ怪しげな保健室が揃うと、『暗黒保健室トーナメント』とか始まりそうよね……!」
なんでちょっとワクワクしてるのだろうか。
勝つ自信あるんだろうか。
「いやぁ……それはさすがに都市伝説の類では……。あ、というか校長は何か知らないんですか? 保健室の乱立について」
「うん。おじいちゃんも知らないみたい。だから完全に無認可ね~」
ミナちゃん先生はやれやれと肩をすくめる。
おじいちゃん――という呼び方からも分かる通り、この学校の校長というのは、ミナちゃん先生の祖父なのだ。
ちなみに理事も兼任している。
第二保健室なんてものがあるのも、その辺りの事情が大いに関係している。
「とにかく、無認可保健室の調査は今後も引き続き進めていきましょう」
「……調査? この第三保健室もほっとくんですか? 校長に頼んで立ち退かせればいいのに」
僕が言うと、ミナちゃん先生はとんでもないとばかりに首を振った。
「そんな乱暴な真似は良くないわ! 実態も把握しないで杓子定規な対応をするのって、愛がないと思うのよね」
なるほど。
ミナちゃん先生らしい、寛容な考え方だ。
僕は感心したが、しかし、
「――それに、わたしの真似っこをするってことは、きっとわたしのファンだもの。優しくしてあげなくっちゃ。んふふ」
「…………」
ミナちゃん先生の下心が垣間見えて、感心の度合いはちょっとだけ下がった。