第22話「フェニックス、刺される」
文字数 1,922文字
【しくった……刺された……保健室に連れてってくんないか……?】
朱雀井さんからとんでもないラインが届いていた。
刺されたってなんだ?
ナイフか?
ドスか?
それもう僕にラインしてる場合じゃなくて110番するべきじゃないのか?
これを送ってきたのがクラスの友達とかだったら、笑って流していたことだろう。
しかし相手はあの朱雀井さんだ。
朱雀井さんなら、そんな刃傷沙汰もありえない話ではないのではなかろうか――そう思った僕は教室を飛び出して、朱雀井さんのクラスに向かった。
往来を掻き分けて廊下を走る。
すると、壁に背を預けてへたり込む、朱雀井さんを見つけた。
「朱雀井さん!」
駆け寄っていくと、苦悶の表情でいた朱雀井さんが、強がるように口角を持ち上げる。
「へっ……油断、しちまった……」
かすれたうめき声が痛々しい。
これは冗談などではなさそうだ。
「どこを刺されたの!?」
僕が尋ねると、朱雀井さんは、スカートからのぞく自身の足を指差したのだった。
「足……太腿のとこ……」
「え!?」
ぱっと見た感じ、傷は見当たらないが……。
朱雀井さんが一言呟いた。
「……かゆい……」
「…………………………え?」
よくよく見ると、白い太腿にぷっくりと、赤い腫れ物が出来ていた。
☆ ☆ ☆
「――あっはっはっは! 意外とそそっかしいんだなぁ一号は。
このあたしが刃物なんかにやられるわけないだろ?」
特別教室棟の廊下に、朱雀井さんの笑い声が響く。
「朱雀井さんからあんなの送られてきたら誰だって早とちりするよ……。
さっきのへたり込み方もさ、なに? あれ。
負傷者感すごい出してたよね」
「いやー、刺されたときって掻いちゃダメっていうじゃん?
だから掻かないようにって我慢してたんだけど、これがまた大変でさぁ。
もう立ってらんなかったわ」
悪気は微塵もなかったのだろう。だから悪びれた様子も一切ない。
「ま、相手が蚊じゃあ仕方ないよな」
「刃物のほうが仕方なかったよ」
朱雀井さん、蚊に刺されたので僕に助けを求めてきたらしい。
紛らわしいにも程がある。
僕が溜め息をついたが、その一方で、朱雀井さんはしみじみと言った。
「でもそっか……。一号、あたしのことを心配してくれたんだな……。すげー嬉しいよ。ありがとう」
「……どういたしまして」
☆ ☆ ☆
第一保健室は「あそこは敵のアジトだろ!」と朱雀井さんが拒絶したので、第二保健室へ向かった。
近いうちに、芽野先生の誤解は解いておかないとな。
「失礼します」
「あ! 一号くん! ――……と朱雀井さん……いらっしゃい」
「おい、露骨に嫌そうな顔すんなよ」
この二人の確執も解消出来ないもんかな。
「えーっとですね、朱雀井さんが蚊に刺されちゃったそうなんです」
いがみ合いが始まってしまい、朱雀井さんはここへ来た理由をすっかり忘れているようなので、代わりに僕が言う。
するとたちどころにミナちゃん先生の態度が軟化した。
「あら、かわいそうに。そこ座って」
相手が困っていたら、私情を挟まず優しくしてあげられるのがミナちゃん先生だ。
朱雀井さんをスツールに座らせて、すぐにかゆみ止めの薬を持ってきてくれた。
「どこ? あ、太腿ね。あら~、かゆそう」
「いや、自分でやるからそれ貸してくれよ」
「そう? ほんとに一人で出来る?」
「……ナメてんのか。ガキじゃあるまいし……」
もにょもにょと口にした悪態にはしかし、刺々しさがない。
ミナちゃん先生も皮肉や嫌味でなく、純粋は親切心からそう言ってるだけなので、朱雀井さんとしても怒りきれないのだろう。
裏を返せば、朱雀井さんはちゃんとミナちゃん先生の優しさを感じ取っているということ……ならばこれをきっかけに、二人の仲が改善に向かうのではと、僕は期待した。
が、
「――ちょっと? 塗りすぎよ?」
「いっぱい塗ったほうが効くだろ」
「そういうものじゃないから。適量があるの」
「うるせえなぁケチケチすんなよ」
「ケチとかじゃな――あーもう塗りすぎ!
確かにもったいないっていうのもあるけど、薬も過ぎれば毒になるんだから!」
「!? 毒っ!?
おまっ、薬と見せかけて毒を渡したのか!?
何てことしやがる!
この学校の保健室の先公は敵ばっかかよ!」
「違う!」
ほんの些細な食い違いから、結局また言い争いを始めてしまう二人……。
不仲に塗る薬とかって、どっかにないかなぁ。
朱雀井さんからとんでもないラインが届いていた。
刺されたってなんだ?
ナイフか?
ドスか?
それもう僕にラインしてる場合じゃなくて110番するべきじゃないのか?
これを送ってきたのがクラスの友達とかだったら、笑って流していたことだろう。
しかし相手はあの朱雀井さんだ。
朱雀井さんなら、そんな刃傷沙汰もありえない話ではないのではなかろうか――そう思った僕は教室を飛び出して、朱雀井さんのクラスに向かった。
往来を掻き分けて廊下を走る。
すると、壁に背を預けてへたり込む、朱雀井さんを見つけた。
「朱雀井さん!」
駆け寄っていくと、苦悶の表情でいた朱雀井さんが、強がるように口角を持ち上げる。
「へっ……油断、しちまった……」
かすれたうめき声が痛々しい。
これは冗談などではなさそうだ。
「どこを刺されたの!?」
僕が尋ねると、朱雀井さんは、スカートからのぞく自身の足を指差したのだった。
「足……太腿のとこ……」
「え!?」
ぱっと見た感じ、傷は見当たらないが……。
朱雀井さんが一言呟いた。
「……かゆい……」
「…………………………え?」
よくよく見ると、白い太腿にぷっくりと、赤い腫れ物が出来ていた。
☆ ☆ ☆
「――あっはっはっは! 意外とそそっかしいんだなぁ一号は。
このあたしが刃物なんかにやられるわけないだろ?」
特別教室棟の廊下に、朱雀井さんの笑い声が響く。
「朱雀井さんからあんなの送られてきたら誰だって早とちりするよ……。
さっきのへたり込み方もさ、なに? あれ。
負傷者感すごい出してたよね」
「いやー、刺されたときって掻いちゃダメっていうじゃん?
だから掻かないようにって我慢してたんだけど、これがまた大変でさぁ。
もう立ってらんなかったわ」
悪気は微塵もなかったのだろう。だから悪びれた様子も一切ない。
「ま、相手が蚊じゃあ仕方ないよな」
「刃物のほうが仕方なかったよ」
朱雀井さん、蚊に刺されたので僕に助けを求めてきたらしい。
紛らわしいにも程がある。
僕が溜め息をついたが、その一方で、朱雀井さんはしみじみと言った。
「でもそっか……。一号、あたしのことを心配してくれたんだな……。すげー嬉しいよ。ありがとう」
「……どういたしまして」
☆ ☆ ☆
第一保健室は「あそこは敵のアジトだろ!」と朱雀井さんが拒絶したので、第二保健室へ向かった。
近いうちに、芽野先生の誤解は解いておかないとな。
「失礼します」
「あ! 一号くん! ――……と朱雀井さん……いらっしゃい」
「おい、露骨に嫌そうな顔すんなよ」
この二人の確執も解消出来ないもんかな。
「えーっとですね、朱雀井さんが蚊に刺されちゃったそうなんです」
いがみ合いが始まってしまい、朱雀井さんはここへ来た理由をすっかり忘れているようなので、代わりに僕が言う。
するとたちどころにミナちゃん先生の態度が軟化した。
「あら、かわいそうに。そこ座って」
相手が困っていたら、私情を挟まず優しくしてあげられるのがミナちゃん先生だ。
朱雀井さんをスツールに座らせて、すぐにかゆみ止めの薬を持ってきてくれた。
「どこ? あ、太腿ね。あら~、かゆそう」
「いや、自分でやるからそれ貸してくれよ」
「そう? ほんとに一人で出来る?」
「……ナメてんのか。ガキじゃあるまいし……」
もにょもにょと口にした悪態にはしかし、刺々しさがない。
ミナちゃん先生も皮肉や嫌味でなく、純粋は親切心からそう言ってるだけなので、朱雀井さんとしても怒りきれないのだろう。
裏を返せば、朱雀井さんはちゃんとミナちゃん先生の優しさを感じ取っているということ……ならばこれをきっかけに、二人の仲が改善に向かうのではと、僕は期待した。
が、
「――ちょっと? 塗りすぎよ?」
「いっぱい塗ったほうが効くだろ」
「そういうものじゃないから。適量があるの」
「うるせえなぁケチケチすんなよ」
「ケチとかじゃな――あーもう塗りすぎ!
確かにもったいないっていうのもあるけど、薬も過ぎれば毒になるんだから!」
「!? 毒っ!?
おまっ、薬と見せかけて毒を渡したのか!?
何てことしやがる!
この学校の保健室の先公は敵ばっかかよ!」
「違う!」
ほんの些細な食い違いから、結局また言い争いを始めてしまう二人……。
不仲に塗る薬とかって、どっかにないかなぁ。