第12話「ファーストコンタクト」
文字数 1,470文字
『一緒に昼飯食おーぜー』
昼休み(正確にはその前の授業中に)、朱雀井さんから送られてきたラインだ。
……ちなみに釘バットのスタンプも一緒に送られてきた。
昼食と釘バットの関連性については後日改めて問い質すとして、僕は断りの返事を入れる。
『ごめん! ちょっと具合悪くて食欲もないから、保健室行く』
低気圧の影響か、朝からどうも体がだるいのだ。
送るなり、既読はすぐついた。
かと思うと、何やら廊下から「ドドドドドド……」という足音が近づいてくる。
そして教室の扉が勢いよく開き、一人の女子が猛然と駆け込んできた。
朱雀井さんだ。
「大丈夫か一号!」
僕が具合悪いなんて言ったものだから、心配して駆けつけてくれたようだ。
「肩、貸そうか?」
「大げさだよ。一人で行けるから平気」
「だめだ! 平気じゃないやつに限ってそう言うんだ!」
「そんなご無体な……」
朱雀井さんは聞く耳持たず、着ていたブレザーをばさっと威勢よく脱ぎ、僕の肩にかけてくれる。
とても親切で、男前ですらあるのだが……正直、寒気とかはないので、その効果は薄い。
むしろ暑苦しい。
「あたしも付き添う。――おいテメェらなにボサッと突っ立ってんだ! 道を開けろ! 一号のお通りだぁ!」
「……うん、朱雀井さん、みんな怖がってるからやめて?」
クラスメイトに吠える朱雀井さんをたしなめつつ、僕は保健室へ向かった。
無論、第二のほうの保健室へ――。
☆ ☆ ☆
「――着いたぞ一号ぉー!」
ノックもせずに、朱雀井さんは勢いよく第二保健室の戸を開け放った。
「…………」
そりゃあこんな荒っぽく入室されたら、誰だって驚く。
中ではミナちゃん先生が、唇からパスタをぴょろーんと垂らしたまま、一体何事かと固まっていた。
手元にはお弁当箱と箸……昼食の真っ最中だったようだ。
「へー、ほんとに第二保健室なんてあんだ……。普通の保健室と何も変わんないな」
朱雀井さんは室内を見渡して独り言つ。
朱雀井さんは第二保健室の存在を知らなかった。
ここまで来たのも僕の案内に従ってのことだ。
なので必然、この部屋の主が誰であるかも知らないわけで……、
「――お? なんだ、あのチビっ子。白衣なんか着て……お医者さんごっこか?」
朱雀井さんはミナちゃん先生に目を留めるやいなや、不躾にもそう言い放った。
「…………ちゅるん」
ミナちゃん先生はパスタを吸い上げて、口を拭く。
そしてゆらりと立ち上がり、朱雀井さんに眉根を寄せた。
「先生に向かってその口の利き方はないんじゃないかしら。
それと入室の際にノックをすることは最低限の礼儀で、常識だわ。
これだから最近の高校生は」
珍しく声音に棘がある。
チビっ子だのお医者さんごっこだの言われて、カチンと来たらしい。
「あぁ? 何言ってんだこのチビ……ガキの内から常識なんてもんに囚われてんじゃねえ!」
そしてカチンと来返す朱雀井さん……怒るポイントが微妙にズレてるのが何とも……。
「ちょっと一号くん!? 何よその子!」
「おい一号! このチビはなんだよ!」
どうやらこの二人、相性がよろしくないらしい。
僕は深くため息をついた。
「……とりあえず、ちょっと横にならせてもらっていいです? 具合悪いんです、僕」
「「…………」」
僕が言うと、二人は口こそ噤んだが、交差する視線は火花を散らしたままだった。
昼休み(正確にはその前の授業中に)、朱雀井さんから送られてきたラインだ。
……ちなみに釘バットのスタンプも一緒に送られてきた。
昼食と釘バットの関連性については後日改めて問い質すとして、僕は断りの返事を入れる。
『ごめん! ちょっと具合悪くて食欲もないから、保健室行く』
低気圧の影響か、朝からどうも体がだるいのだ。
送るなり、既読はすぐついた。
かと思うと、何やら廊下から「ドドドドドド……」という足音が近づいてくる。
そして教室の扉が勢いよく開き、一人の女子が猛然と駆け込んできた。
朱雀井さんだ。
「大丈夫か一号!」
僕が具合悪いなんて言ったものだから、心配して駆けつけてくれたようだ。
「肩、貸そうか?」
「大げさだよ。一人で行けるから平気」
「だめだ! 平気じゃないやつに限ってそう言うんだ!」
「そんなご無体な……」
朱雀井さんは聞く耳持たず、着ていたブレザーをばさっと威勢よく脱ぎ、僕の肩にかけてくれる。
とても親切で、男前ですらあるのだが……正直、寒気とかはないので、その効果は薄い。
むしろ暑苦しい。
「あたしも付き添う。――おいテメェらなにボサッと突っ立ってんだ! 道を開けろ! 一号のお通りだぁ!」
「……うん、朱雀井さん、みんな怖がってるからやめて?」
クラスメイトに吠える朱雀井さんをたしなめつつ、僕は保健室へ向かった。
無論、第二のほうの保健室へ――。
☆ ☆ ☆
「――着いたぞ一号ぉー!」
ノックもせずに、朱雀井さんは勢いよく第二保健室の戸を開け放った。
「…………」
そりゃあこんな荒っぽく入室されたら、誰だって驚く。
中ではミナちゃん先生が、唇からパスタをぴょろーんと垂らしたまま、一体何事かと固まっていた。
手元にはお弁当箱と箸……昼食の真っ最中だったようだ。
「へー、ほんとに第二保健室なんてあんだ……。普通の保健室と何も変わんないな」
朱雀井さんは室内を見渡して独り言つ。
朱雀井さんは第二保健室の存在を知らなかった。
ここまで来たのも僕の案内に従ってのことだ。
なので必然、この部屋の主が誰であるかも知らないわけで……、
「――お? なんだ、あのチビっ子。白衣なんか着て……お医者さんごっこか?」
朱雀井さんはミナちゃん先生に目を留めるやいなや、不躾にもそう言い放った。
「…………ちゅるん」
ミナちゃん先生はパスタを吸い上げて、口を拭く。
そしてゆらりと立ち上がり、朱雀井さんに眉根を寄せた。
「先生に向かってその口の利き方はないんじゃないかしら。
それと入室の際にノックをすることは最低限の礼儀で、常識だわ。
これだから最近の高校生は」
珍しく声音に棘がある。
チビっ子だのお医者さんごっこだの言われて、カチンと来たらしい。
「あぁ? 何言ってんだこのチビ……ガキの内から常識なんてもんに囚われてんじゃねえ!」
そしてカチンと来返す朱雀井さん……怒るポイントが微妙にズレてるのが何とも……。
「ちょっと一号くん!? 何よその子!」
「おい一号! このチビはなんだよ!」
どうやらこの二人、相性がよろしくないらしい。
僕は深くため息をついた。
「……とりあえず、ちょっと横にならせてもらっていいです? 具合悪いんです、僕」
「「…………」」
僕が言うと、二人は口こそ噤んだが、交差する視線は火花を散らしたままだった。