第35話「アリかキリギリスか」
文字数 1,731文字
とある日の放課後。
ミナちゃん先生に貸していた漫画を返しにもらいに、第二保健室へ。
すると先客がいた。
朱雀井さんと芽野先生だ。
その二人がミナちゃん先生も交え、雑談に耽っている。
以前、この面々でトランプをしていたこともあった。
顔を突き合わせる度に三つ巴の小競り合いをしてる印象だけど……なんだかんだ、徐々に仲良くなってきているのかもしれない。
いいことだ。
一体何を話してるんだろう。
「一号くんはアリさんよね」
「アリね~」
「ああ、アリンコだな」
「…………」
……え、なに? なんか僕、アリ呼ばわりされてるんだけど……。
「あのー、すみません。何の話?」
僕が怖ず怖ずと声をかけると、三人は振り返って相好を崩す。
「あー、一号くん! ちょうど今、一号くんの話をしてたところよ!」
「はい……聞こえてましたけど……」
「アリとキリギリスだったら、どっちだろうねって話なんだけど」
「……あぁ」
僕は妙にホッとして胸を撫で下ろした。
☆ ☆ ☆
「自分でもそう思いますよ」
アリとキリギリスでいったらどっちか――三人の間で交わされていたのはそんな話題。
そして三人が僕に対して下した結論に、改めて、僕自身も同意した。
宿題とかテスト勉強とか、一夜漬けでなくコツコツやるタイプの僕は、まぁアリタイプで間違いないだろう。
「で、みんなはどうなんですか?」
きっと各々の結論も出ていることだろう。
僕が尋ねると、まず朱雀井さんが、いの一番に答えた。
「あたしはヘラクレスオオカブト」
「ちょっと待って」
「どうした?」
「……それあり?」
「はっはっは! 違うぞ一号。
ヘラクレスオオカブトはカブトムシの仲間だ。
アリじゃない」
「いや、そうじゃなくて。
それはわかってて。
アリかキリギリスかの話してるのに、その答えはいいの? ってこと」
「アリかキリギリスかなんて枠に、あたしは収まらない」
「…………」
返す言葉を見つけられない僕。
「ねー? 朱雀井さん、呆れちゃうでしょー?」
芽野先生が、僕の困惑に同調して言う。
「ちなみに私はアゲハチョウ~」
「人のこと言えないじゃないですか、芽野先生……」
なにちゃっかり自分までアリとキリギリス以外の答え出してんですか……。
しかもなんか可愛いヤツ。
「いやだから、あんたはアゲハチョウなんて綺麗なもんじゃねぇから。
女郎蜘蛛だから」
朱雀井さんのツッコミに、芽野先生は「え~?」と不服げに唇を尖らせる。
が、
「……あー、でも、あながち間違ってないかもねー?」
すぐに小悪魔な笑みを浮かべたかと思うと、不意に僕の顎を、つっと指先で撫で上げた。
ぞわっとして、僕は慌てて飛び退る。
そんな僕のリアクションに、くすくす笑う芽野先生。
その姿を見て、僕は大いに朱雀井さんに同意した。
確かにこの人は女郎蜘蛛だ。
毒牙を持ってそう。
「それで、ミナちゃん先生はどうなんですか?」
僕は気を取り直して、ミナちゃん先生に尋ねる。
すると、ミナちゃん先生はほんのりほっぺたを赤く染め、もじもじし出す。
「わたしは……」
「…………」
「笑わない?」
「はい」
「モンシロチョウがいいな」
ちょっと気恥ずかしそうに、はにかみながらも、ミナちゃん先生はそう答えた。
「――……ああ、ぴったりですね」
白くて、小さくて、野花の間をひらひら飛んでる――可愛らしい――僕がモンシロチョウに抱くそんなイメージと、ミナちゃん先生のイメージは、確かにぴったりと重なった。
知らず知らず、笑みをこぼす僕……。
すると、
「!? なんか反応ちがくねーか!?」
「出たー。一号くんのミナちゃん贔屓ー。ズ~ル~い~」
二人から上がる抗議の声。
うん、そうね。
さすがに今のはちょっと、贔屓目があったかも。
反省して、僕は二人にお詫び。
そうして平謝りする僕を、ミナちゃん先生は可笑しそうに見ていた。
依然ほっぺたを、ほんのり赤く染めたまま――。
ミナちゃん先生に貸していた漫画を返しにもらいに、第二保健室へ。
すると先客がいた。
朱雀井さんと芽野先生だ。
その二人がミナちゃん先生も交え、雑談に耽っている。
以前、この面々でトランプをしていたこともあった。
顔を突き合わせる度に三つ巴の小競り合いをしてる印象だけど……なんだかんだ、徐々に仲良くなってきているのかもしれない。
いいことだ。
一体何を話してるんだろう。
「一号くんはアリさんよね」
「アリね~」
「ああ、アリンコだな」
「…………」
……え、なに? なんか僕、アリ呼ばわりされてるんだけど……。
「あのー、すみません。何の話?」
僕が怖ず怖ずと声をかけると、三人は振り返って相好を崩す。
「あー、一号くん! ちょうど今、一号くんの話をしてたところよ!」
「はい……聞こえてましたけど……」
「アリとキリギリスだったら、どっちだろうねって話なんだけど」
「……あぁ」
僕は妙にホッとして胸を撫で下ろした。
☆ ☆ ☆
「自分でもそう思いますよ」
アリとキリギリスでいったらどっちか――三人の間で交わされていたのはそんな話題。
そして三人が僕に対して下した結論に、改めて、僕自身も同意した。
宿題とかテスト勉強とか、一夜漬けでなくコツコツやるタイプの僕は、まぁアリタイプで間違いないだろう。
「で、みんなはどうなんですか?」
きっと各々の結論も出ていることだろう。
僕が尋ねると、まず朱雀井さんが、いの一番に答えた。
「あたしはヘラクレスオオカブト」
「ちょっと待って」
「どうした?」
「……それあり?」
「はっはっは! 違うぞ一号。
ヘラクレスオオカブトはカブトムシの仲間だ。
アリじゃない」
「いや、そうじゃなくて。
それはわかってて。
アリかキリギリスかの話してるのに、その答えはいいの? ってこと」
「アリかキリギリスかなんて枠に、あたしは収まらない」
「…………」
返す言葉を見つけられない僕。
「ねー? 朱雀井さん、呆れちゃうでしょー?」
芽野先生が、僕の困惑に同調して言う。
「ちなみに私はアゲハチョウ~」
「人のこと言えないじゃないですか、芽野先生……」
なにちゃっかり自分までアリとキリギリス以外の答え出してんですか……。
しかもなんか可愛いヤツ。
「いやだから、あんたはアゲハチョウなんて綺麗なもんじゃねぇから。
女郎蜘蛛だから」
朱雀井さんのツッコミに、芽野先生は「え~?」と不服げに唇を尖らせる。
が、
「……あー、でも、あながち間違ってないかもねー?」
すぐに小悪魔な笑みを浮かべたかと思うと、不意に僕の顎を、つっと指先で撫で上げた。
ぞわっとして、僕は慌てて飛び退る。
そんな僕のリアクションに、くすくす笑う芽野先生。
その姿を見て、僕は大いに朱雀井さんに同意した。
確かにこの人は女郎蜘蛛だ。
毒牙を持ってそう。
「それで、ミナちゃん先生はどうなんですか?」
僕は気を取り直して、ミナちゃん先生に尋ねる。
すると、ミナちゃん先生はほんのりほっぺたを赤く染め、もじもじし出す。
「わたしは……」
「…………」
「笑わない?」
「はい」
「モンシロチョウがいいな」
ちょっと気恥ずかしそうに、はにかみながらも、ミナちゃん先生はそう答えた。
「――……ああ、ぴったりですね」
白くて、小さくて、野花の間をひらひら飛んでる――可愛らしい――僕がモンシロチョウに抱くそんなイメージと、ミナちゃん先生のイメージは、確かにぴったりと重なった。
知らず知らず、笑みをこぼす僕……。
すると、
「!? なんか反応ちがくねーか!?」
「出たー。一号くんのミナちゃん贔屓ー。ズ~ル~い~」
二人から上がる抗議の声。
うん、そうね。
さすがに今のはちょっと、贔屓目があったかも。
反省して、僕は二人にお詫び。
そうして平謝りする僕を、ミナちゃん先生は可笑しそうに見ていた。
依然ほっぺたを、ほんのり赤く染めたまま――。