第2話「お昼寝タイム」

文字数 1,399文字

「一号、顔色あんま良くないなぁ。大丈夫か?」

 昼休み、一緒にご飯を食べていた友達に言われた。

「うーん、この季節はどうしてもね」

 朝は割りと調子良かったのだが、昼になるにつれ身体がだるくなってきた。

(5限は体育……どのみち見学か)

 みんなが体操着に着替え始めたタイミングで、僕は第二保健室へ向かった。

☆ ☆ ☆

 第二保健室の引き戸をノックする。しかし返事がない。

(留守かな?)

 幸い、鍵は閉まっていなかったので中に入っていく。

 いつも通り人気はなく、部屋の主の姿も見当たらな――、

「――……すぴー……すぴー……――」

 いや、いた。

 川の字に並ぶ三台のベッド。そのうちの窓際の一台で、ミナちゃん先生は安らかな寝息を立てていた。

 ちなみに、手前二つのベッドには、熊と白イルカの大きなぬいぐるみがそれぞれ寝ている。

「――……すぴー……すぴー…………ふひ……」

 いい夢でも見ているのか、口角がちょっと上がっていて、そこはかとなく幸せそうだ。

(お昼ごはん食べて、眠くなっちゃったのかな……。流しにお弁当箱洗ってあるし)

 ミナちゃん先生は白衣を脱いで、お腹にタオルケットだけ掛けている。

(……こうして見ると、ほんとただの子供だなぁ)

 白衣を纏わない私服姿だと、保健室の先生要素が微塵もない。

 チュニックにショートパンツとレギンスという格好はもう、まんま小学生女児だ。
 ただ、

(……寝相はいいな……)

 お腹のところで手を組む仰向けの姿勢は、お人形のような顔立ちも相まって、童話の眠り姫みたいにも見える。

(……起こしちゃ悪いよね)

 これだけ見事なお昼寝っぷりだ。
 邪魔するのは忍びない。

(5限は第一保健室で休ませてもらうか)
 
 僕はそーっと回れ右して、忍び足で第二保健室を出ていこうとした。

 が、制服の裾をくいっと引っ張られる。

「…………」
「あ、ごめんなさい。起こしちゃいましたか」

 振り返ると、ミナちゃん先生が僕の制服の裾を握りしめていた。

「…………」
「…………」

 どうしたんだろう。

 もしかして、昼寝を邪魔されて怒っているのだろうか。
 ミナちゃん先生は俯き加減で黙っている。

「あの……」と、僕は怖ず怖ずと声をかける。

 するとミナちゃん先生は、もたーっと顔を上げ、僕を見つめる。
 焦点の合わない、とろんとした眼差しで……。
 
 そして、

「――え~!? わたしが新しい魔法少女に~!?」

 ふにゃふにゃした滑舌で、そう声を張り上げた。

「…………」

 どうやらミナちゃん先生は、寝ぼけているようだ。

 僕がいたたまれない気持ちで立ち尽くしていると、ミナちゃん先生はひとりでに回れ右。

 のたのたとベッドへ戻り、再び寝息を立て始めた。

「――……すぴー……すぴー…………ふひひ……」
「…………」

 僕はそっと第二保健室を後にし、第一保健室へ向かうのだった。

 ☆ ☆ ☆

 後日、この時のことを本人に話したら、ミナちゃん先生は顔を真っ赤にして地団駄を踏んでいた。

 曰く、

「うそよ! もう魔法少女ものは卒業したもの!」

 今はちゃんと年相応に、テレビドラマを嗜んでいるらしい。

 ……〝ちゃんと〟っていうのもよくわからないけど。
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