第15話 出し抜き

文字数 1,218文字

 なんだか、朝早くから騒がしい。

「いったい、何があったのですか? 」

 わたしは気になって、ちょうど、ろうかを歩いていた女中に聞いた。

「上様が、奥へお越しになられるそうです」

 その女中が答えた。

「それはまことの話ですか? 」

 羽が話に割り込んで来た。

「ええ、まことの話です。急ぎますから失礼」

 その女中がそう言うと、足早に去った。

「ころさん。これってもしや、御庭御目見えですか? 」

 羽が、ころさんに聞いた。

「そなたも出たいか? 」

 ころさんが聞き返した。

「はい! 」
 
 羽が即答した。

(なにそれ? そんな裏技あったんだ! )

「上様の目に、止まるようにすれば良いのですよね? 」

 羽が念を押した。

「ただ、近くに入れば良いと言うわけではない。

そうなるからには、上の引き立てがいるわけよ」

 ころさんがすました顔で告げた。

「いったい、どうすれば良いですか? 」

 わたしが、ころさんに聞いた。

「それなりに、利がないと応じてはくれまい」

 ころさんが咳払いすると答えた。

突然、羽が何を思ったか、如月様の元へ直談判しに行った。

「羽。待ちなされ。いったい、何を考えておる? 」

 ころさんがあわてて止めに入ったが、時すでに遅し。

追いついた時にはすでに、直談判した後だった。

「るう。ようやく、わたしにも、機会が訪れたわ」

 うまくいったらしく、羽がしてやったりの顔で告げた。

その後、羽が、とっておきの着物を着て部屋を出て行った。

わたしは居ても立っても居られなくなり、

気がついたら、羽のあとをつけていた。

茶席で出した葛餅が気に入られたとは言え、

側室候補になったと決まったわけではない。

もし、羽がお目に止まったらと思うと気が気でない。

羽は、他の女中たちと合流した後、

上様が、お過ごしになられる部屋の反対側にある部屋へ入った。

庭をはさんで、部屋越しに互いが見える距離になっている。

「そこで何をしている? 盗み聞きでもしておるのか? 」

 わたしが柱の陰に身を潜めているところへ、

運悪く、背後から、年配の女性が近寄って来た。

「めっそうもありません。誤解です」

 わたしが振り返り様に言った。

「さようか。そう見えたのでな」

 話しかけて来たのは誰かと思いきや、高岳様だった!

(どうしょう! )

「すみません! 」

「待つが良い」

「はあ? 」

 何を思ったか、高岳様が、わたしを庭へ連れ出した。

「そこで、池の鯉にえさをやっておれ」

 高岳様が、わたしにえさが入った袋を押し付けた。

「あの? 」

 わたしが戸惑いをあらわにすると、高岳様がほくそ笑んだ。

「そなたがまことに、上様やお富様の関心を得たのであれば、

必ずや、お声をおかけくださるのではないか? 」

 高岳様が冷静に告げた。

(つまり、高岳様は、わたしが、お2人の関心を得たことを

心の中では、疑っていると言うわけ? )

「良いでしょう」

 わたしはまるで、初陣するかのような身構えで

池の前に立つと、上様がおられる部屋の障子が開くのを待った。











 
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