第24話 珍しい花

文字数 1,219文字

 春日さんが珍しい花を持ち帰った。

春日さんが、江戸近郊の山で見つけたと言うその花。

その名を「ふうらん」と言う。

開花時期は初夏。清楚な雰囲気の濃厚な甘い香りがする白い花。

「これをまた、何故、採取なさったのですか? 」

 わたしが聞いた。

「上様にご覧頂く為です」

 春日さんが答えた。

「上様が、お気に召すこと間違いありませんよ」

 わたしが告げた。

「そなたもそう思いますか? 」

 春日さんがそう告げた時、偶然、目と目が合った。

思わず、下を向くと、春日さんが「おや? 」という表情をした。

「どうかしましたか? 」

 春日さんが聞いた。

「別に何もありません」

 わたしが答えた。

「るう。おまえに一言忠告いたす。

くれぐれも、浮ついたことを考えないように」

 帰り道。籠中で、向かい側に座っていた監視役が小声で告げた。

「心得ました」

 わたしが決まり悪そうに告げた。

菊の品評会まであと、数週間を切った頃、ある問題が生じた。

今年の冷夏の影響により、当日までに、

菊の開花が間に合わない可能性があることがわかった。

どうにかして、開花日を調整しなければならない。

「そのようなこと可能なのでしょうか? 」

 わたしたち、3人は疑心暗鬼に陥った。

せっかく、丹精込めて菊を育ててきたのに、

ここにきて、開花が間に合わないとなると、

品評会の当日。満開の菊を披露することができなくなる。

「開花を品評会当日に合わせることこそ、

我々、花壇役の腕の見せ所なんじゃ」

 川村さんが神妙な面持ちで告げた。

「何為に、我々がいると思っておる? 」

 町田さんが穏やかに告げた。

「指導はいたすが、やるのは、そなたら」

 春日さんが、わたしたちの顔を見ると告げた。

「承知しました」

 わたしたちが同時に告げた。

3人の指導役曰く、開花日を調節する方法はある。

[菊の開花を調節する方法]

開花を早めるには、蕾のつき始め時期が重要。

開花予定日の2週間前から、植木に、黒い布を被せて覆い遮光する。

逆に、早く咲きそうな時は、

遅らせる為に、日暮れから3時間、明かりをあてる。

菊を通じて、大奥内に、新たな友だちの輪ができた気がする。

拝領屋敷から帰宅後。

2人と就寝までの間の時を共に過ごすことが増えた。

話題は、大奥内の権力抗争についてや最近の流行について。

他の見習いと別行動を取っていることに引け目は感じていない。

元々、出だしが、表使の部屋子だからということもある。

他の見習いたちも、他の見習いとの間に差をつける為、

あの手この手と、いろんな工作をしているらしい。

単に、真面目で正確な仕事をしていれば良いわけではない。

上の引き立てがなければ、昇進が難しいのだ。

見習いの中には、上級女中に、

袖の下を贈っているという噂がある人もいる。

競い合いは競い合い。勝たなければ意味がない。

表面的には、仲良くしていても、

腹の底では、何を考えているのか知れない。

品評会が近づくにつれて、お互いに口を利かなくなった。

そんなおり、羽に懐妊の兆候がみえた。

















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