2-5
文字数 1,234文字
母さんが帰ってくると、唯奈は一階へ話をしに行った。僕の両親は、唯奈はもちろんのこと、三人全員と仲が良いのだ。
「ハジメちゃん」
「……何?」
今は千愛莉ちゃんと部屋に二人きりだった。初めてのことだし、僕は少し緊張している。
「唯奈さんってかわいい人だね」
かわいい人。そう言われて僕は嬉しかった。千愛莉ちゃんが唯奈に対して正しい印象を持ってくれたと感じたからだ。
感情豊かで、バカで、人懐っこい。そんな唯奈は、年下の僕からでもかわいく見える。
見た目は近づきづらいけれど、中身はとっつきやすい。それが唯奈なのだ。
「そうかもね」
「なんで紅輝さんと仲直りできないのかなぁ? 唯奈さんなら、すぐに仲直りできそうなのに」
千愛莉ちゃんは首を横に傾けながら言った。
確かに唯奈みたいなわかりやすいタイプなら、仲直りも容易な気がする。
これは想像だけれど、唯奈は片方と仲を戻せば、もう片方がのけ者になると考えているのではないだろうか。上手く均衡をとるような器用さを、唯奈は持ち合わせていないのだ。
「なんでだろうね」
僕はそうはぐらかした。千愛莉ちゃんは、うーんと唸ってから、わかりやすいため息をついた。
「はぁ……紅輝さんね、私と一緒でも楽しくなさそうなんだ」
「そんなことないよ」
紅ちゃんは今まで僕ら以外とほとんど関わりを持たなかった。だから、千愛莉ちゃんを連れてきたとき、僕は驚いたものだ。
しかもこんな人当たりが良くて明るい女の子だったものだから、紅ちゃんも変わったんだと思って嬉しかった。
「ううん。嫌われてるわけじゃないと思うんだけど、物足りなさそうなの。寂しそうっていうか、一緒にいてもよくボーっとしてる」
寂しそう、ということに心当たりがないわけではなく、むしろ紅ちゃんには常にそういう雰囲気があった。
父親の転勤により仕送りで一人暮らしをしている紅ちゃんは、普段から一人で行動することが多かった。だから紅ちゃんが千愛莉ちゃんを初めて家に連れてきたとき、僕はとても嬉しかった。紅ちゃんが一人になる時間が減るんだ、と。
「やっぱり、ハジメちゃんが言うように、仲直りしなきゃだよね。唯奈さんといると楽しくなりそうだし、紅輝さんと唯奈さんが一緒にいるところ、私も見てみたいな」
千愛莉ちゃんは無邪気な笑みを浮かべた。不純物のない言葉は、僕の中にすっと染み入った。紅ちゃんのことを本当に思ってくれていて、心配してくれている。
「千愛莉ちゃん」
僕が呼びかけると、千愛莉ちゃんは猫のような口をしながら、僕と目を合わせた。
「千愛莉ちゃんも、三人を仲直りさせるのに協力してくれるかな?」
「うん。そのつもりだよ」
千愛莉ちゃんはさも当たり前のようにそう言ってくれた。唯奈とすぐに仲良くなった千愛莉ちゃんは、三人を仲直りさせるための心強い味方になってくれるかもしれない。僕はそう思った。
〇
「ハジメちゃん」
「……何?」
今は千愛莉ちゃんと部屋に二人きりだった。初めてのことだし、僕は少し緊張している。
「唯奈さんってかわいい人だね」
かわいい人。そう言われて僕は嬉しかった。千愛莉ちゃんが唯奈に対して正しい印象を持ってくれたと感じたからだ。
感情豊かで、バカで、人懐っこい。そんな唯奈は、年下の僕からでもかわいく見える。
見た目は近づきづらいけれど、中身はとっつきやすい。それが唯奈なのだ。
「そうかもね」
「なんで紅輝さんと仲直りできないのかなぁ? 唯奈さんなら、すぐに仲直りできそうなのに」
千愛莉ちゃんは首を横に傾けながら言った。
確かに唯奈みたいなわかりやすいタイプなら、仲直りも容易な気がする。
これは想像だけれど、唯奈は片方と仲を戻せば、もう片方がのけ者になると考えているのではないだろうか。上手く均衡をとるような器用さを、唯奈は持ち合わせていないのだ。
「なんでだろうね」
僕はそうはぐらかした。千愛莉ちゃんは、うーんと唸ってから、わかりやすいため息をついた。
「はぁ……紅輝さんね、私と一緒でも楽しくなさそうなんだ」
「そんなことないよ」
紅ちゃんは今まで僕ら以外とほとんど関わりを持たなかった。だから、千愛莉ちゃんを連れてきたとき、僕は驚いたものだ。
しかもこんな人当たりが良くて明るい女の子だったものだから、紅ちゃんも変わったんだと思って嬉しかった。
「ううん。嫌われてるわけじゃないと思うんだけど、物足りなさそうなの。寂しそうっていうか、一緒にいてもよくボーっとしてる」
寂しそう、ということに心当たりがないわけではなく、むしろ紅ちゃんには常にそういう雰囲気があった。
父親の転勤により仕送りで一人暮らしをしている紅ちゃんは、普段から一人で行動することが多かった。だから紅ちゃんが千愛莉ちゃんを初めて家に連れてきたとき、僕はとても嬉しかった。紅ちゃんが一人になる時間が減るんだ、と。
「やっぱり、ハジメちゃんが言うように、仲直りしなきゃだよね。唯奈さんといると楽しくなりそうだし、紅輝さんと唯奈さんが一緒にいるところ、私も見てみたいな」
千愛莉ちゃんは無邪気な笑みを浮かべた。不純物のない言葉は、僕の中にすっと染み入った。紅ちゃんのことを本当に思ってくれていて、心配してくれている。
「千愛莉ちゃん」
僕が呼びかけると、千愛莉ちゃんは猫のような口をしながら、僕と目を合わせた。
「千愛莉ちゃんも、三人を仲直りさせるのに協力してくれるかな?」
「うん。そのつもりだよ」
千愛莉ちゃんはさも当たり前のようにそう言ってくれた。唯奈とすぐに仲良くなった千愛莉ちゃんは、三人を仲直りさせるための心強い味方になってくれるかもしれない。僕はそう思った。
〇