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文字数 747文字

 紅ちゃんと縁を切った翌日、僕は風邪をひいた。

 ずぶ濡れで帰ってきた僕に、母さんは何も聞かなかった。僕はすぐにシャワーを浴びてから部屋へと戻り、倒れるように寝た。

 その時点で、僕の体調には異変があった。呼吸をすると鼻が妙に熱を帯びる。頭が痛くて寒気がする。もう体も心も、使い物にはならなくなっていた。

「今日は無理ね」

 体温計の数値を見ながら、母さんはポツリと呟いた。僕のおでこには冷却ジェルシートを貼られていた。すっかり子どもである。

「薬、貰ってきといてあげるから。ゆっくり寝てなさい」
「いいよ。自分で行くから」
「無理よ。全く、そうやって無理をしようとするところがまだまだ子どもなんだから。自分の体のこと、もっとちゃんと見つめられるようにならないとね」

 唯奈に対し、僕は「背伸びをしている子ども」なんて表現を使うけれど、僕も全然変わりはなかった。やっぱり、まだまだ子どもだ。

 僕は生まれつき体が弱く、頻繁に熱を出して寝込んでしまっていた。
 僕は本当に弱い人間だ。体も、心も。

「ハジメちゃんにはもっと強くなってもらわないと困るんだからね。これからのためにも」

 僕は母さんが言ったことが、将来へ向けての総合的なことなのか、具体的に何かを示しているのかよくわからなかった。僕は目だけで返事をする。

「じゃ、ちゃんと寝てなさいね」

 そう言って母さんは部屋を出ていった。僕は言われたとおり、大人しく目を瞑った。

 今日は少し晴れ間も見えるほど天気は回復しているようで、雨の音も聞こえない。ただ僕の頭の中は、工場の中みたいに音を出して動き続けている。

 その動きにまとまりがなくなり、何も考えられなくなっていくと、ようやく僕は眠りに落ちていった。


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登場人物紹介

・三木本一(みきもとはじめ)
 幼く、女の子みたいなルックスの男子高校生。人見知りで大人しいが、三人の不良娘にだけは強気で、その真面目さで時に彼女たちを説教する。三人を敬愛しているがツンデレなところがある。

・梅木唯奈(うめきゆいな)
 ぼさっとした髪と短いスカート、眉間にしわを寄せながら歩く様はどう見ても小物な不良。それは一種の背伸び行為であり、子供っぽく見られることを嫌がっている。普通にしていると無邪気さとその童顔によってかなり可愛い。馬鹿だが人情味のある人。

・竹原紅輝(たけはらこうき)
 黒髪ショートで、中性的なほど整った顔立ちをしているが、喧嘩が強い一番の問題児。その凛とした美しさとは対照的に、過去には数々の暴力で問題を起こしている。普段は大人しく、ハジメにとってはただの優しい年上の女性。ちょっと天然ボケ。

・松坂麗(まつざかれい)
 ウェーブした髪で、上品そうな見た目をしている。背は唯奈よりも少し高いくらいだが、雰囲気から年上に見える。場所によってはクールビューティーという感じで過ごしているが、ハジメたちの前では時に子供っぽくキーキー怒る。三人の中では一番の常識人。極道の娘ということを利用しつつも負い目を感じている。

・佐久間千愛莉(さくまちえり)
 紅輝の子分を自称する元気っこ。同じく年下の兄弟の居る唯奈と気が合う。その純粋さは敵を作らず、三人の橋渡し役を買って出る。

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