6-2
文字数 2,199文字
僕は部屋着に着替えて、ベッドへと倒れこんでいた。まだ、心臓がばくばくと音をたてている。
紅ちゃんに何かあったらどうしよう。紅ちゃんは確かに強く、あんなやつらに簡単に負けることはない。
それでも、紅ちゃんはただ格闘に慣れているだけで、ただの女の子だ。もし、麗の管理のない状態で手段を選ばないのなら、男数人を相手にする紅ちゃんが圧倒的に不利だ。僕は不安で落ち着くことができなかった。
外は薄暗くなっていた。その頃にはやっと落ち着いてきていて、僕は寝転がりながらただ天井を見ていた。
不意に家の電話が鳴った。無視しようかとも思ったけれど、一度切れた後もすぐにまた鳴り始めたので、重要な電話かもしれないと思い直し、一階にある電話の子機を取りに行った。
「はい、三木本です」
「ハジメ? お前、携帯はどうした?」
電話の相手は唯奈だった。唯奈が家の電話に掛けてくることなんてほとんどない。そしてすぐに用件を切り出された。
「携帯? えっと……」
僕は子機を持ったまま二階へ移動し、ブレザーのポケットを探った。しかし、入っていると思っていたそこには、何も入っていなかった。鞄の中をひっくり返してみても見つからない。
「あれ? 無いな。確かに学校には持って行ってたと思うんだけど」
「電話しても繋がらないし、繋がったと思ったら、変な声がしてすぐに切られたし。どうしたのかと思ってさ」
変な声がしてすぐに切られた。僕は嫌な感じがして、固まってしまった。
「ハジメ?」
あいつらだ。僕はその意味を考えて、考えた後はどうしようもなく怖くなった。呼吸が荒くなってくる。
「……まずいかも」
「なんだよ? どうかしたの?」
「紅ちゃんが危ないかもしれない。何かされるかも。唯奈! 紅ちゃんに連絡して、僕は電話だけ盗られたって言って! お願いだから!」
そう言って返事を待たずに切ると、僕はすぐに外へと走り出した。どこへ向かえばいいのだろうか。とりあえず、僕は紅ちゃんのマンションへと走り出した。
「お、おめー、どうしたの?」
角を曲がったところで、出会いがしらにぶつかりかけたのは、末松くんだった。少ししか走っていないのに、呼吸が乱れて上手く話せない。話している場合でもない。
すぐに駆け出そうとしたら、末松くんが僕を引き止めた。
「ちょ、ちょっと待てって。あのさ、ひょっとしてお前、携帯探してね?」
僕は驚いて、末松くんに詰め寄るみたいに襟のところを持った。
「な、なんで知ってるの?」
「い、いや、おめー。さっき竹原さんが凄い顔して男達と歩いてたからさ、びっくりしておめーに連絡してやろうと電話したら、その男の持ってた携帯がなりやがんの」
嫌な予感は的中していた。彼らは僕の携帯電話を盗った後、僕の名を使って紅ちゃんを呼び出したのだ。
そして、今唯奈が電話してくれていても、もう遅いということだ。
「そいつらはどこに行った!?」
「やっぱ、あれおめーの電話だよな。ちょうど鳴るから――」
「いいから早く教えろ!!」
僕は末松くんの襟を持ったまま、体を前に押し出した。
「わ、わかったから! 落ち着けって!」
末松くんは走ってその場所まで連れていってくれた。
そう遠くない場所。そこは、住宅地の中にある一軒の家だった。
「……ここは、誰かの家なの?」
「ちげーよ。ほら」
末松くんが指した先には、入居者募集という看板がかかっていた。どうやら、紅ちゃんは空き家に連れ込まれたようだ。
僕は一度深呼吸をする。家の中は紅ちゃんにとって不利な場所だ。動き回ることができないし、逃げ場がない。この場所で彼らが紅ちゃんに何をしようかということが容易に想像できると、今度は僕の中に大きな怒りが立ち上ってきた。
「末松くん、悪いけどお願いがあるんだ」
「な、なんだよ? 一緒に入るとか、無理だぜ?」
末松くんは怯えた顔でそんなことを言った。もちろん、僕はそんなことを末松くんに頼むつもりはなかった。
「もし松坂麗を見かけたら、僕と紅ちゃんがこの家にいるって言ってもらえるかな? さっきの場所辺りにいたら通るかもしれないから」
頼れるのは唯奈と麗だ。でも唯奈に言うと、猪突猛進にそのまま中へ入ってきてしまうかもしれないから、利口で強い味方のいる麗のほうが望ましいと思った。
「おめー、マジで中に入るの?」
「入るよ。入らないと……入らないと紅ちゃんのことを守れないから」
僕が言うと、末松くんは大きく息を飲んだ。そして、頷いてくれた。
「わ、わかったよ。でも会えなかったらどうすんだよ?」
「警察とか……ああ、あと麗のところのヤクザに会ったら、僕の名前と麗の名前を出してくれるかな。そうしたら、話を聞いてもらえるかも知れないから」
警察よりも極道の人に頼るというのはおかしいことかもしれない。しかし、紅ちゃんを守るために、麗の周りの人を頼るのは最善だった。
「余計に難しいだろ!? わ、わかったよ! とにかく、おめーは無茶すんなよ! 竹原さんはあんなに強いんだから!」
末松くんはそう言って、来た道を戻っていった。
心配してくれている。なんだかんだで優しいんだ。そう思ったら、末松くんをとても身近に感じた。
紅ちゃんに何かあったらどうしよう。紅ちゃんは確かに強く、あんなやつらに簡単に負けることはない。
それでも、紅ちゃんはただ格闘に慣れているだけで、ただの女の子だ。もし、麗の管理のない状態で手段を選ばないのなら、男数人を相手にする紅ちゃんが圧倒的に不利だ。僕は不安で落ち着くことができなかった。
外は薄暗くなっていた。その頃にはやっと落ち着いてきていて、僕は寝転がりながらただ天井を見ていた。
不意に家の電話が鳴った。無視しようかとも思ったけれど、一度切れた後もすぐにまた鳴り始めたので、重要な電話かもしれないと思い直し、一階にある電話の子機を取りに行った。
「はい、三木本です」
「ハジメ? お前、携帯はどうした?」
電話の相手は唯奈だった。唯奈が家の電話に掛けてくることなんてほとんどない。そしてすぐに用件を切り出された。
「携帯? えっと……」
僕は子機を持ったまま二階へ移動し、ブレザーのポケットを探った。しかし、入っていると思っていたそこには、何も入っていなかった。鞄の中をひっくり返してみても見つからない。
「あれ? 無いな。確かに学校には持って行ってたと思うんだけど」
「電話しても繋がらないし、繋がったと思ったら、変な声がしてすぐに切られたし。どうしたのかと思ってさ」
変な声がしてすぐに切られた。僕は嫌な感じがして、固まってしまった。
「ハジメ?」
あいつらだ。僕はその意味を考えて、考えた後はどうしようもなく怖くなった。呼吸が荒くなってくる。
「……まずいかも」
「なんだよ? どうかしたの?」
「紅ちゃんが危ないかもしれない。何かされるかも。唯奈! 紅ちゃんに連絡して、僕は電話だけ盗られたって言って! お願いだから!」
そう言って返事を待たずに切ると、僕はすぐに外へと走り出した。どこへ向かえばいいのだろうか。とりあえず、僕は紅ちゃんのマンションへと走り出した。
「お、おめー、どうしたの?」
角を曲がったところで、出会いがしらにぶつかりかけたのは、末松くんだった。少ししか走っていないのに、呼吸が乱れて上手く話せない。話している場合でもない。
すぐに駆け出そうとしたら、末松くんが僕を引き止めた。
「ちょ、ちょっと待てって。あのさ、ひょっとしてお前、携帯探してね?」
僕は驚いて、末松くんに詰め寄るみたいに襟のところを持った。
「な、なんで知ってるの?」
「い、いや、おめー。さっき竹原さんが凄い顔して男達と歩いてたからさ、びっくりしておめーに連絡してやろうと電話したら、その男の持ってた携帯がなりやがんの」
嫌な予感は的中していた。彼らは僕の携帯電話を盗った後、僕の名を使って紅ちゃんを呼び出したのだ。
そして、今唯奈が電話してくれていても、もう遅いということだ。
「そいつらはどこに行った!?」
「やっぱ、あれおめーの電話だよな。ちょうど鳴るから――」
「いいから早く教えろ!!」
僕は末松くんの襟を持ったまま、体を前に押し出した。
「わ、わかったから! 落ち着けって!」
末松くんは走ってその場所まで連れていってくれた。
そう遠くない場所。そこは、住宅地の中にある一軒の家だった。
「……ここは、誰かの家なの?」
「ちげーよ。ほら」
末松くんが指した先には、入居者募集という看板がかかっていた。どうやら、紅ちゃんは空き家に連れ込まれたようだ。
僕は一度深呼吸をする。家の中は紅ちゃんにとって不利な場所だ。動き回ることができないし、逃げ場がない。この場所で彼らが紅ちゃんに何をしようかということが容易に想像できると、今度は僕の中に大きな怒りが立ち上ってきた。
「末松くん、悪いけどお願いがあるんだ」
「な、なんだよ? 一緒に入るとか、無理だぜ?」
末松くんは怯えた顔でそんなことを言った。もちろん、僕はそんなことを末松くんに頼むつもりはなかった。
「もし松坂麗を見かけたら、僕と紅ちゃんがこの家にいるって言ってもらえるかな? さっきの場所辺りにいたら通るかもしれないから」
頼れるのは唯奈と麗だ。でも唯奈に言うと、猪突猛進にそのまま中へ入ってきてしまうかもしれないから、利口で強い味方のいる麗のほうが望ましいと思った。
「おめー、マジで中に入るの?」
「入るよ。入らないと……入らないと紅ちゃんのことを守れないから」
僕が言うと、末松くんは大きく息を飲んだ。そして、頷いてくれた。
「わ、わかったよ。でも会えなかったらどうすんだよ?」
「警察とか……ああ、あと麗のところのヤクザに会ったら、僕の名前と麗の名前を出してくれるかな。そうしたら、話を聞いてもらえるかも知れないから」
警察よりも極道の人に頼るというのはおかしいことかもしれない。しかし、紅ちゃんを守るために、麗の周りの人を頼るのは最善だった。
「余計に難しいだろ!? わ、わかったよ! とにかく、おめーは無茶すんなよ! 竹原さんはあんなに強いんだから!」
末松くんはそう言って、来た道を戻っていった。
心配してくれている。なんだかんだで優しいんだ。そう思ったら、末松くんをとても身近に感じた。