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文字数 2,319文字
僕は千愛莉ちゃんと外で会う約束をしていた。彼女は僕らと違う高校に通っているので、中間くらいの場所にある駅の近くのファーストフード店で待ち合わせをした。
放課後、先に待ち合わせ場所に着いたのは僕だった。そのままの寄り道だったので、僕は紺のブレザーにネクタイ、という制服姿のままだ。
都会から大きく離れているこの町は、残念なことに不良をよく見かける。
というか見るからに不良という人が多い。田舎だから不良が多いのか、田舎だから不良だと分かりやすいのか。その辺りはよくわからない。
こうやって駅近くで待ち合わせをしていると絡まれるんじゃないかと不安になるけど、麗の話だと僕は絡まれづらいタイプらしい。
「ヤンキーだってあんたみたいな男女には酷いことしないわよ」なんて笑いながら言われたのは腹が立ったけど、絡まれたことがないのは事実だった。
「お待たせー」
当たり前だけれど、千愛莉ちゃんは制服を着ていた。
僕と同じような紺のブレザーに、胸には赤いチェックのリボン、同じチェックのスカート、そして朱色のリュックという姿で、千愛莉ちゃんによく似合っていた。
同じような色のはずなのに、千愛莉ちゃんの制服のほうが今風というか、よっぽどお洒落に感じる。不思議だ。
そういえば、千愛莉ちゃんの通う高校は、制服が可愛くて有名だった。ひょっとすると、それで高校を選んだのかもしれない。
「じゃ、入ろうか」
僕は千愛莉ちゃんとあまり目を合わせないようにする。普通の女の子と二人きり、という状況にまだ慣れない。
僕らは飲み物だけを買って、中に入っていく。
千愛莉ちゃんは色々と物欲しそうな顔をしていたけれど、お腹を何度か摘んで堪えたようだ。別に千愛莉ちゃんは痩せているほうだと思うけど、そこは女の子の都合なのだろう。
僕らは禁煙になっている二階へ上ると、二人で限界というような机と席を取り、そこへと座った。
しばらく千愛莉ちゃんの高校の話を聞いていた。女子高あるあるのようなものを聞いていると、一般的な楽しい高校生活を感じられた。まあ、千愛莉ちゃんヴィジョンだからこそ色々と前向きに見られている、ということもあるかもしれない。
僕はそろそろ、と、本題に入ることにした。
「千愛莉ちゃんは、紅ちゃんとどのくらい会ってるの?」
「ほとんどお休みの日だよ。放課後はたまにしか会ってないの」
高校も違うし、そんなものだろうか。せっかくこんな善良な友達ができたんだから、もっと関わればいいのに。
「ハジメちゃんの家に行く時はいつも誘ってくれるけど」
「そういえばそうだね」
僕とタイマンは嫌ということだろうか。最近は、千愛莉ちゃんを介して会話しているような気がしないでもなかった。
「私はもっと紅輝さんに引っ付いていたいんだけどねー。最初は毎日、後を付けたりしてたけど、紅輝さんにそれはやめてくれって言われちゃったから」
「そんなこと言ってたね……」
畑の違う紅ちゃんと千愛莉ちゃんが仲良くなるには、そういう強引さが必要だったのだろう。
もっとも、当人からは「怖かった」という感想をもらったわけだけれど。
「よし。じゃあ、松竹梅仲直り大作戦についての話し合いをしよっか!」
「……そうだね」
作戦名は必要ない。それになぜそんな作戦名なのか。色々つっこみたいけれど、冗談で言っているのか分からない以上、僕は同意するしかなかった。
「私、色々考えてきたんだ。一、拳で語り合う」
「一つ目から不穏なんだけど」
さすがにここはすぐに話を遮った。ヤンキー漫画から仕入れていそうなそれは、三人には適していない。というか、紅ちゃんが一方的に勝ってしまう。
「二、ハジメちゃんが叱る」
「三人にってこと?」
「うん。この前みたいに」
「それは、ちょっと厳しいかな。やろうとしたことはあったけど、失敗だったから」
無理やり会わせる、というのは何度か試していた。しかし、そのうち紅ちゃんが家に全く来なくなってしまったので、僕はその方法を諦めた。
「唯奈さん、あんなにハジメちゃんを怖がってたのに」
「まあ、あれは多分、僕を怖がっているのとは違うから」
「そうなの?」
千愛莉ちゃんはキョトンとした顔をする。あれはある意味弱みを握っているだけ。それは心の中でだけ呟いた。
「三は?」
「えっとね、私たちがお互いの思ってることを代わりに伝える」
つまり、三人の間を伝書鳩するということだ。僕は首を捻った。
「それはちゃんと言ってくれるかが問題だね」
「うん。最悪、私たちが捏造するの」
「…………」
この人はしれっと思い切った意見を出すようだ。謎のドヤ顔を披露している。
「あの時のことは本当に悪かったと思っている。いやいや、あたしこそ悪かった、べ」
二人の伝達事項を真似ているらしい。似てない、というか、とって付けたような「べ」が気になる。印象に残った唯奈の要素はよりによってそこなのだろうか。
「麗さんってどんな人?」
麗の真似ができなかったからか、そんなおおざっぱな質問が飛んで来た。
「高飛車、高い声、オバサンっぽい」
僕もおおざっぱに答える。肝心の「極道の娘」というのはいったん置いておいた。隠すつもりはないが、それを個人の印象とするのはややこしいからだ。
「ワ、ワタシモワルカッタザマス」
「ざますはないよ」
僕が苦笑いしながら言うと、千愛莉ちゃんは楽しそうに笑って返した。紅ちゃんと二人でもこんな感じなのだろうか。だったらいいな、と思った。
放課後、先に待ち合わせ場所に着いたのは僕だった。そのままの寄り道だったので、僕は紺のブレザーにネクタイ、という制服姿のままだ。
都会から大きく離れているこの町は、残念なことに不良をよく見かける。
というか見るからに不良という人が多い。田舎だから不良が多いのか、田舎だから不良だと分かりやすいのか。その辺りはよくわからない。
こうやって駅近くで待ち合わせをしていると絡まれるんじゃないかと不安になるけど、麗の話だと僕は絡まれづらいタイプらしい。
「ヤンキーだってあんたみたいな男女には酷いことしないわよ」なんて笑いながら言われたのは腹が立ったけど、絡まれたことがないのは事実だった。
「お待たせー」
当たり前だけれど、千愛莉ちゃんは制服を着ていた。
僕と同じような紺のブレザーに、胸には赤いチェックのリボン、同じチェックのスカート、そして朱色のリュックという姿で、千愛莉ちゃんによく似合っていた。
同じような色のはずなのに、千愛莉ちゃんの制服のほうが今風というか、よっぽどお洒落に感じる。不思議だ。
そういえば、千愛莉ちゃんの通う高校は、制服が可愛くて有名だった。ひょっとすると、それで高校を選んだのかもしれない。
「じゃ、入ろうか」
僕は千愛莉ちゃんとあまり目を合わせないようにする。普通の女の子と二人きり、という状況にまだ慣れない。
僕らは飲み物だけを買って、中に入っていく。
千愛莉ちゃんは色々と物欲しそうな顔をしていたけれど、お腹を何度か摘んで堪えたようだ。別に千愛莉ちゃんは痩せているほうだと思うけど、そこは女の子の都合なのだろう。
僕らは禁煙になっている二階へ上ると、二人で限界というような机と席を取り、そこへと座った。
しばらく千愛莉ちゃんの高校の話を聞いていた。女子高あるあるのようなものを聞いていると、一般的な楽しい高校生活を感じられた。まあ、千愛莉ちゃんヴィジョンだからこそ色々と前向きに見られている、ということもあるかもしれない。
僕はそろそろ、と、本題に入ることにした。
「千愛莉ちゃんは、紅ちゃんとどのくらい会ってるの?」
「ほとんどお休みの日だよ。放課後はたまにしか会ってないの」
高校も違うし、そんなものだろうか。せっかくこんな善良な友達ができたんだから、もっと関わればいいのに。
「ハジメちゃんの家に行く時はいつも誘ってくれるけど」
「そういえばそうだね」
僕とタイマンは嫌ということだろうか。最近は、千愛莉ちゃんを介して会話しているような気がしないでもなかった。
「私はもっと紅輝さんに引っ付いていたいんだけどねー。最初は毎日、後を付けたりしてたけど、紅輝さんにそれはやめてくれって言われちゃったから」
「そんなこと言ってたね……」
畑の違う紅ちゃんと千愛莉ちゃんが仲良くなるには、そういう強引さが必要だったのだろう。
もっとも、当人からは「怖かった」という感想をもらったわけだけれど。
「よし。じゃあ、松竹梅仲直り大作戦についての話し合いをしよっか!」
「……そうだね」
作戦名は必要ない。それになぜそんな作戦名なのか。色々つっこみたいけれど、冗談で言っているのか分からない以上、僕は同意するしかなかった。
「私、色々考えてきたんだ。一、拳で語り合う」
「一つ目から不穏なんだけど」
さすがにここはすぐに話を遮った。ヤンキー漫画から仕入れていそうなそれは、三人には適していない。というか、紅ちゃんが一方的に勝ってしまう。
「二、ハジメちゃんが叱る」
「三人にってこと?」
「うん。この前みたいに」
「それは、ちょっと厳しいかな。やろうとしたことはあったけど、失敗だったから」
無理やり会わせる、というのは何度か試していた。しかし、そのうち紅ちゃんが家に全く来なくなってしまったので、僕はその方法を諦めた。
「唯奈さん、あんなにハジメちゃんを怖がってたのに」
「まあ、あれは多分、僕を怖がっているのとは違うから」
「そうなの?」
千愛莉ちゃんはキョトンとした顔をする。あれはある意味弱みを握っているだけ。それは心の中でだけ呟いた。
「三は?」
「えっとね、私たちがお互いの思ってることを代わりに伝える」
つまり、三人の間を伝書鳩するということだ。僕は首を捻った。
「それはちゃんと言ってくれるかが問題だね」
「うん。最悪、私たちが捏造するの」
「…………」
この人はしれっと思い切った意見を出すようだ。謎のドヤ顔を披露している。
「あの時のことは本当に悪かったと思っている。いやいや、あたしこそ悪かった、べ」
二人の伝達事項を真似ているらしい。似てない、というか、とって付けたような「べ」が気になる。印象に残った唯奈の要素はよりによってそこなのだろうか。
「麗さんってどんな人?」
麗の真似ができなかったからか、そんなおおざっぱな質問が飛んで来た。
「高飛車、高い声、オバサンっぽい」
僕もおおざっぱに答える。肝心の「極道の娘」というのはいったん置いておいた。隠すつもりはないが、それを個人の印象とするのはややこしいからだ。
「ワ、ワタシモワルカッタザマス」
「ざますはないよ」
僕が苦笑いしながら言うと、千愛莉ちゃんは楽しそうに笑って返した。紅ちゃんと二人でもこんな感じなのだろうか。だったらいいな、と思った。