6-4
文字数 2,088文字
「な!?」
男達を尻目に、僕は紅ちゃんに抱きついていた。身を丸めていた紅ちゃんは、僕が覆いかぶさると、体のほとんどがしっかりと隠れていた。
「やっぱりやりたかったんじゃねーか」
そう言って男たちは笑う。もうそんなことはどうでもよかった。今、僕の手の中に、紅ちゃんがいる。このまま僕が動かなければ、紅ちゃんは何もされることはないのだ。これが唯一の手段だった。
「大丈夫? 紅ちゃん」
「ハジメ! 離れて……」
紅ちゃんは涙ながらにそう訴えた。僕は首を横に振る。
「ごめんね、紅ちゃん。ずっと姉さんを追いかけていたことに気づかなくて」
「な、なんで……」
紅ちゃんの声は震えている。僕は真っ直ぐ紅ちゃんを見て、笑えた。
「でももう大丈夫だから。もう紅ちゃんは何もしなくていいんだ。危ないことなんてせずに、ただ普通の女の子として過ごそう。唯奈や麗、それに千愛莉ちゃんと楽しく。僕がちゃんと守るから。今までみんながしてくれたみたいに、今度は僕が守るから」
姉さんも、唯奈や麗も、そして紅ちゃんも、色んな形で僕を守ってくれた。だから、これからは僕が守るんだ。唯一の男として、姉さんのいた場所を守るんだ。
「ほら、もうどけよ」
「うわ、結構力強いじゃん。すっぽんみてー」
男達は僕と紅ちゃんを引き離そうとする。僕は、しっかりと紅ちゃんを抱きしめていた。
触れさせない。触れさせたくない。僕は必死だった。
「っ!? うぁ!!」
突然、右手の甲に強烈な痛みを感じた。見ると、男の一人が僕の手を火であぶっていた。
「ほらほらー、焦げるぞー」
「やめてやれよ、ハハハッ!」
僕は、よりいっそう力を込めて、紅ちゃんを抱きしめた。
「おい、何してんだよ。さっさとそいつをどかせ」
「は? なんでお前はそこまで偉そうなんだよ。自分でやれよバカ」
また関谷と男の一人が口論になると、僕への攻撃は一旦ストップした。しかし、またすぐに、今度は腰のほうを蹴られる。
「いっ!?」
――痛い。こんな風に暴力を振るわれたのは初めてのことだ。僕は殴り合いのケンカを今まで一度もしたことがなかった。
「やめろ!!」
紅ちゃんにも強い振動がきたから心配したのだろう、紅ちゃんは力いっぱいに叫んだ。
「大丈夫だよ。僕は大丈夫だから」
紅ちゃん、そして自分に言い聞かせるように言った。痛いけど、こうしていれば紅ちゃんには何もされない。そう思うと、少し自分に酔うことができて、痛みも麻痺してくる。
「早くどけって言ってんだろ!!」
関谷の声が響くと、何度も僕の背中や腰へ痛みが襲う。僕は耐える。僕に攻撃してきているのは関谷だけだった。
「関谷、必死じゃん」
「どんだけやりてーんだよ」
他の男達のバカにしたような声が響く。ふいに僕は髪の毛をわしづかみにされてしまう。
「おい、なめてんじゃねーぞ。早くどけよ」
顔だけ起こされると、関谷は敵意をむき出しにして睨みつけてきた。
怖いけど、そこまでのものじゃない。この男がいかにバカで、愚かだということがわかると、僕はもう怯むことなく睨み返すことができた。
「……どかない」
「――ちっ」
しっかり目が合ったことが気に入らなかったのだろう。今度は右の頬を殴られた。口の中が切れたのか、血の味がする。それでも、ここを動くわけにはいかないと、また関谷を睨みつけた。
「やめて、もうハジメだけは傷つけないで……」
僕の手の中から紅ちゃんの声が聞こえる。大丈夫だと言い聞かせるように、その頭を撫でてやる。
関谷は強く指先に力を入れて僕の腕を握り、僕の体を紅ちゃんから引き離そうとした。蹴られたり、頭を殴られたりもする。痛み自体は麻痺しているから耐えることができる。
しかし、その分紅ちゃんを抱きしめる力も弱くなってしまいそうになる。だから僕は何かされるたびに紅ちゃんを抱きしめる力を強くする。
「え? 何だよ」
「……おい、関谷、やべーよ」
その声が聞こえると、僕を攻撃する手が完全にストップした。聞こえた声は、聞き覚えのあるものだった。
「ハジメ!?」
「おい! お前ら何してんだよ!!」
唯奈と麗だった。僕は安心しつつも、二人も危ないのではないかと、また不安が襲ってくる。しかし、それは杞憂だった。
「おいおいどういうことだ? うちのお嬢様のフィアンセと親友に何してるんだ?」
声の主は真二郎さんだった。僕は今度こそホッとすると、涙が出そうになる。
ふいに、部屋が真っ暗になった。男の一人が消したようだ。慌しい音が響くと、また部屋が明るくなった。
「逃げても無駄だ。外にもお前らのことを待ってるやつらはいっぱいいるからな」
関谷は真二郎さんを見て固まっているようだった。他の三人はもう真二郎さんの足元にいるらしい。
「もう、大丈夫みたいだね」
「……うん」
紅ちゃんは涙を浮かべている。その顔に、もう一滴の涙が落ちた。それは僕の涙だった。
男達を尻目に、僕は紅ちゃんに抱きついていた。身を丸めていた紅ちゃんは、僕が覆いかぶさると、体のほとんどがしっかりと隠れていた。
「やっぱりやりたかったんじゃねーか」
そう言って男たちは笑う。もうそんなことはどうでもよかった。今、僕の手の中に、紅ちゃんがいる。このまま僕が動かなければ、紅ちゃんは何もされることはないのだ。これが唯一の手段だった。
「大丈夫? 紅ちゃん」
「ハジメ! 離れて……」
紅ちゃんは涙ながらにそう訴えた。僕は首を横に振る。
「ごめんね、紅ちゃん。ずっと姉さんを追いかけていたことに気づかなくて」
「な、なんで……」
紅ちゃんの声は震えている。僕は真っ直ぐ紅ちゃんを見て、笑えた。
「でももう大丈夫だから。もう紅ちゃんは何もしなくていいんだ。危ないことなんてせずに、ただ普通の女の子として過ごそう。唯奈や麗、それに千愛莉ちゃんと楽しく。僕がちゃんと守るから。今までみんながしてくれたみたいに、今度は僕が守るから」
姉さんも、唯奈や麗も、そして紅ちゃんも、色んな形で僕を守ってくれた。だから、これからは僕が守るんだ。唯一の男として、姉さんのいた場所を守るんだ。
「ほら、もうどけよ」
「うわ、結構力強いじゃん。すっぽんみてー」
男達は僕と紅ちゃんを引き離そうとする。僕は、しっかりと紅ちゃんを抱きしめていた。
触れさせない。触れさせたくない。僕は必死だった。
「っ!? うぁ!!」
突然、右手の甲に強烈な痛みを感じた。見ると、男の一人が僕の手を火であぶっていた。
「ほらほらー、焦げるぞー」
「やめてやれよ、ハハハッ!」
僕は、よりいっそう力を込めて、紅ちゃんを抱きしめた。
「おい、何してんだよ。さっさとそいつをどかせ」
「は? なんでお前はそこまで偉そうなんだよ。自分でやれよバカ」
また関谷と男の一人が口論になると、僕への攻撃は一旦ストップした。しかし、またすぐに、今度は腰のほうを蹴られる。
「いっ!?」
――痛い。こんな風に暴力を振るわれたのは初めてのことだ。僕は殴り合いのケンカを今まで一度もしたことがなかった。
「やめろ!!」
紅ちゃんにも強い振動がきたから心配したのだろう、紅ちゃんは力いっぱいに叫んだ。
「大丈夫だよ。僕は大丈夫だから」
紅ちゃん、そして自分に言い聞かせるように言った。痛いけど、こうしていれば紅ちゃんには何もされない。そう思うと、少し自分に酔うことができて、痛みも麻痺してくる。
「早くどけって言ってんだろ!!」
関谷の声が響くと、何度も僕の背中や腰へ痛みが襲う。僕は耐える。僕に攻撃してきているのは関谷だけだった。
「関谷、必死じゃん」
「どんだけやりてーんだよ」
他の男達のバカにしたような声が響く。ふいに僕は髪の毛をわしづかみにされてしまう。
「おい、なめてんじゃねーぞ。早くどけよ」
顔だけ起こされると、関谷は敵意をむき出しにして睨みつけてきた。
怖いけど、そこまでのものじゃない。この男がいかにバカで、愚かだということがわかると、僕はもう怯むことなく睨み返すことができた。
「……どかない」
「――ちっ」
しっかり目が合ったことが気に入らなかったのだろう。今度は右の頬を殴られた。口の中が切れたのか、血の味がする。それでも、ここを動くわけにはいかないと、また関谷を睨みつけた。
「やめて、もうハジメだけは傷つけないで……」
僕の手の中から紅ちゃんの声が聞こえる。大丈夫だと言い聞かせるように、その頭を撫でてやる。
関谷は強く指先に力を入れて僕の腕を握り、僕の体を紅ちゃんから引き離そうとした。蹴られたり、頭を殴られたりもする。痛み自体は麻痺しているから耐えることができる。
しかし、その分紅ちゃんを抱きしめる力も弱くなってしまいそうになる。だから僕は何かされるたびに紅ちゃんを抱きしめる力を強くする。
「え? 何だよ」
「……おい、関谷、やべーよ」
その声が聞こえると、僕を攻撃する手が完全にストップした。聞こえた声は、聞き覚えのあるものだった。
「ハジメ!?」
「おい! お前ら何してんだよ!!」
唯奈と麗だった。僕は安心しつつも、二人も危ないのではないかと、また不安が襲ってくる。しかし、それは杞憂だった。
「おいおいどういうことだ? うちのお嬢様のフィアンセと親友に何してるんだ?」
声の主は真二郎さんだった。僕は今度こそホッとすると、涙が出そうになる。
ふいに、部屋が真っ暗になった。男の一人が消したようだ。慌しい音が響くと、また部屋が明るくなった。
「逃げても無駄だ。外にもお前らのことを待ってるやつらはいっぱいいるからな」
関谷は真二郎さんを見て固まっているようだった。他の三人はもう真二郎さんの足元にいるらしい。
「もう、大丈夫みたいだね」
「……うん」
紅ちゃんは涙を浮かべている。その顔に、もう一滴の涙が落ちた。それは僕の涙だった。