7-2
文字数 1,509文字
朝、窓から外を見ると二人の女が立っていた。むすっとした顔で二人並んでいるのを見ると、僕もそろそろ外へ出ようと、玄関のほうへ向かう。僕はもう着替えが終わっているのに、待たれている本人は一向に出てこない。
「おはよう」
「……おはよう。紅輝は?」
唯奈がむすっとした顔のまま言った。きっと、眠いのだろう。
「あいつ、なんでこっちが来てあげてるのに、こんなに遅いのよ」
麗が明らかにイライラしながら言った。眠いからだろう。多分。
「いや、麗は車でここまで来てるんだから、そんなに被害はないだろ。あたしなんて、無駄に遠回りしてんだぞ」
彼女達は罰ゲーム中だった。しばらく三人で登校する。それは僕が決めたことだ。
二年以上も微妙な関係だった三人は、その空白の時間を取り戻す必要がある。姉さんと出会ってから姉さんが亡くなるまでの期間よりも長いその時間を、急速に戻すために三人は常に一緒にいるのだ。
でも、三人にとってそれが難しいものだとは思えない。だって、一緒にいるとすぐに昔みたいな空気になるから。
「お待たせ」
別に待たせていないかのような、のんびりした調子で紅ちゃんは出てくる。二人はキッと睨みつけた。
「おせーよ!」
「おっそい!」
そんな三人の姿を、僕は携帯電話のカメラ機能で撮影した。
「何をしてるんだ?」
「千愛莉ちゃんに報告。三人揃って仲良く登校してるって」
三人は呆れた目で僕を見てくると、ほぼ同時にため息をついた。文字通り息ピッタリだ。
「これってさ、紅輝は普通に登校してるだけじゃない?」
「あたしらは遠回りまでしてんのにさ。あたしらだけの罰ゲームじゃん」
麗と唯奈が不満そうに言う。まあ、確かにその通りだった。
「でも、うちに来ないと僕が撮れないから」
僕は携帯電話を小さく振ってみせる。証拠撮影の義務のある僕が楽であることが重要なのだ。
「やっぱり、ハジメは紅輝に甘い気がする」
「紅輝さ、同居するんだから、あんたももう少し女らしくしないと駄目よ。あんたは、平気で下着姿で歩いたりしそうだし」
「は? す、するわけないだろう」
そのことはきっちり、昨日母さんに叱られていた。僕は思いだして顔を背ける。
「……唯奈のほうが下着を見せてるし」
「は? あたしがいつそんなことをしたんだよ?」
「ほぼ毎回じゃない。無防備パンチラバカ」
「嘘っ!?」
唯奈は助けを求めるように僕を見る。恐らく僕が一番の被害者。もちろん僕は顔を合わせられない。
「……私くらいね、ちゃんとしてるのは」
「まあ、麗の見てもハジメは興奮しねーだろ」
「麗って教育ママみたいだし」
「は? どういう意味よ?」
「オバサンっぽい……とか」
「なんですって!?」
「こらこら、ケンカはやめようね」
そんなことを言いつつ、僕は微笑ましい気持ちになっていた。みんな子どもだ。
「……もういいわ。さっさと行きましょう」
「そうだな……って、ハジメは来ないのか?」
「いや、僕はその中で一緒に行く根性はないよ」
学校内で存在感の薄い僕が、そんなことで注目を浴びたくない。というか、単純に恥ずかしい。この歳で姉と一緒に登校なんてできるはずないのだ。
「じゃあ行くべ」
「べって言わない!」
「はい!」
唯奈が逃げるように歩いていくと、紅ちゃんと麗もついていく。僕はそれを離れた後から見ていた。
戻ってきたこともあれば、戻らないものもある。それでも今の僕は、新しいものに希望を持てるようになっていた。
夏の陽気が僕らを包む。もうすぐみんなと過ごす夏休みだ。
「おはよう」
「……おはよう。紅輝は?」
唯奈がむすっとした顔のまま言った。きっと、眠いのだろう。
「あいつ、なんでこっちが来てあげてるのに、こんなに遅いのよ」
麗が明らかにイライラしながら言った。眠いからだろう。多分。
「いや、麗は車でここまで来てるんだから、そんなに被害はないだろ。あたしなんて、無駄に遠回りしてんだぞ」
彼女達は罰ゲーム中だった。しばらく三人で登校する。それは僕が決めたことだ。
二年以上も微妙な関係だった三人は、その空白の時間を取り戻す必要がある。姉さんと出会ってから姉さんが亡くなるまでの期間よりも長いその時間を、急速に戻すために三人は常に一緒にいるのだ。
でも、三人にとってそれが難しいものだとは思えない。だって、一緒にいるとすぐに昔みたいな空気になるから。
「お待たせ」
別に待たせていないかのような、のんびりした調子で紅ちゃんは出てくる。二人はキッと睨みつけた。
「おせーよ!」
「おっそい!」
そんな三人の姿を、僕は携帯電話のカメラ機能で撮影した。
「何をしてるんだ?」
「千愛莉ちゃんに報告。三人揃って仲良く登校してるって」
三人は呆れた目で僕を見てくると、ほぼ同時にため息をついた。文字通り息ピッタリだ。
「これってさ、紅輝は普通に登校してるだけじゃない?」
「あたしらは遠回りまでしてんのにさ。あたしらだけの罰ゲームじゃん」
麗と唯奈が不満そうに言う。まあ、確かにその通りだった。
「でも、うちに来ないと僕が撮れないから」
僕は携帯電話を小さく振ってみせる。証拠撮影の義務のある僕が楽であることが重要なのだ。
「やっぱり、ハジメは紅輝に甘い気がする」
「紅輝さ、同居するんだから、あんたももう少し女らしくしないと駄目よ。あんたは、平気で下着姿で歩いたりしそうだし」
「は? す、するわけないだろう」
そのことはきっちり、昨日母さんに叱られていた。僕は思いだして顔を背ける。
「……唯奈のほうが下着を見せてるし」
「は? あたしがいつそんなことをしたんだよ?」
「ほぼ毎回じゃない。無防備パンチラバカ」
「嘘っ!?」
唯奈は助けを求めるように僕を見る。恐らく僕が一番の被害者。もちろん僕は顔を合わせられない。
「……私くらいね、ちゃんとしてるのは」
「まあ、麗の見てもハジメは興奮しねーだろ」
「麗って教育ママみたいだし」
「は? どういう意味よ?」
「オバサンっぽい……とか」
「なんですって!?」
「こらこら、ケンカはやめようね」
そんなことを言いつつ、僕は微笑ましい気持ちになっていた。みんな子どもだ。
「……もういいわ。さっさと行きましょう」
「そうだな……って、ハジメは来ないのか?」
「いや、僕はその中で一緒に行く根性はないよ」
学校内で存在感の薄い僕が、そんなことで注目を浴びたくない。というか、単純に恥ずかしい。この歳で姉と一緒に登校なんてできるはずないのだ。
「じゃあ行くべ」
「べって言わない!」
「はい!」
唯奈が逃げるように歩いていくと、紅ちゃんと麗もついていく。僕はそれを離れた後から見ていた。
戻ってきたこともあれば、戻らないものもある。それでも今の僕は、新しいものに希望を持てるようになっていた。
夏の陽気が僕らを包む。もうすぐみんなと過ごす夏休みだ。