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文字数 1,264文字

 食卓にはたくさんのものが置かれていた。人数分の皿はなく、紙皿なんかも用意されている。料理についも、父さんが買ってきた惣菜を加えて、なかなかの品数が揃った。急ごしらえなのにパーティーみたいだった。

「いただきまーす」

 総勢七人の食卓は、母さんを大いに喜ばせた。父さんも女の子ばかりで嬉しそうだ。

「唯奈ちゃん、誕生日おめでとー!」

 母さんが沸かせると、口々に唯奈は祝われていく。僕も昨日渡しそびれたプレゼントを渡した。

「今日、家は大丈夫なの? 誕生日会」
「ハジメたちを探すときにもう断ってたよ。明日にするって」

 それは悪いことをしてしまった。でも、今唯奈がとても楽しそうなので許してほしい。

「はいはい、ここで重大発表がありまーす」

 お酒を飲んでいないのにテンションが高い母さんがそう言うと、みんなは注目する。

「その一! 紅ちゃんはうちで暮らすことになります!」
「えー!?」

 口々に驚いた声があがる。なぜか、当の本人からもあがっていた。

「前から言ってたでしょう?」

 以前していたのは、この話だったのだろうか。初耳だ。それにしても、なぜ紅ちゃんもこんなに驚いているんだ。

「私、返事してないけど……」
「紅ちゃんに拒否権はありません。こんな問題を起こしたんだから!」
「う……」

 叱られるように言われると、紅ちゃんは気まずそうに俯いた。母さんはにっこりと笑う。

「紅ちゃんのお父さんにもそう言っておくからね。決定」

 紅ちゃんは僕を見つめる。いいのか? といったところだろうか。

「紅ちゃんには首輪付けとかなきゃいけないからね」

 と僕が言うと、紅ちゃんはまたがっくりとうなだれた。紅ちゃんと同居する。うちには部屋が余っているから、確かにちょうどいいと思った。

「ちゃんと監視されないと駄目でしょうからね、ちょうどいいでしょ」
「てか、紅輝は一人暮らしに向かなさすぎ」
「二人に用事があるときは一石二鳥ですねー」

 みんなにもそんな軽口を言われてしまう。もう本当に拒否権はなくて、紅ちゃんは頷くしかない様子だった。決定、ということだ。

「その二は?」

 唯奈が聞いた。母さんは今度は悪戯っぽい笑顔になる。

「ハジメがねぇ……」

 なぜか出たのは僕の名前だった。母さんは言葉を溜めて、みんなの反応を待った。

「僕が、何?」

 不満に思ってそう言うと、母さんは咳払いをした。

「ハジメが……お兄ちゃんになります!」

 父さん以外のみんなが、思考が追いつかないというように固まってしまう。一番追いついていないのは、多分僕だった。

「どゆこと?」

 僕はバカみたいになって言った。母さんが自分のお腹を撫でると、反応が良かったのは千愛莉ちゃんだった。

「おめでとーございます! わあ、何ヶ月ですか!?」
「三ヶ月」

 母さんは三本の指を立てた。つまりは、僕がこの三本の真ん中になるということだ。僕らは顔を見合わせてから、揃って驚きの声をあげた。


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登場人物紹介

・三木本一(みきもとはじめ)
 幼く、女の子みたいなルックスの男子高校生。人見知りで大人しいが、三人の不良娘にだけは強気で、その真面目さで時に彼女たちを説教する。三人を敬愛しているがツンデレなところがある。

・梅木唯奈(うめきゆいな)
 ぼさっとした髪と短いスカート、眉間にしわを寄せながら歩く様はどう見ても小物な不良。それは一種の背伸び行為であり、子供っぽく見られることを嫌がっている。普通にしていると無邪気さとその童顔によってかなり可愛い。馬鹿だが人情味のある人。

・竹原紅輝(たけはらこうき)
 黒髪ショートで、中性的なほど整った顔立ちをしているが、喧嘩が強い一番の問題児。その凛とした美しさとは対照的に、過去には数々の暴力で問題を起こしている。普段は大人しく、ハジメにとってはただの優しい年上の女性。ちょっと天然ボケ。

・松坂麗(まつざかれい)
 ウェーブした髪で、上品そうな見た目をしている。背は唯奈よりも少し高いくらいだが、雰囲気から年上に見える。場所によってはクールビューティーという感じで過ごしているが、ハジメたちの前では時に子供っぽくキーキー怒る。三人の中では一番の常識人。極道の娘ということを利用しつつも負い目を感じている。

・佐久間千愛莉(さくまちえり)
 紅輝の子分を自称する元気っこ。同じく年下の兄弟の居る唯奈と気が合う。その純粋さは敵を作らず、三人の橋渡し役を買って出る。

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