嵐の海(1)
文字数 1,128文字
あれは一体、何だったのか? 嵐の中の幻だったのか、それとも……。
僕、橿原幸四郎は、某都内の医療系大学の学生で、入学当初に同大学に通う要耀子と云う不思議な女性と出会った。
この耀子先輩に憧れた僕は、軽薄にも、彼女と会う機会もあるだろうと、彼女の所属するミステリー愛好会なるクラブに入ったのである。
このミステリー愛好会と云うクラブは、世の中に蔓延 る怪異な事件の真相を、科学者と云う視点で解明しようと調査、研究を行っている学生グループだ。
だが、そうは言っても、別に学術的な研究までしようとしている訳ではない。だから、フィールド調査をすると言っても、目的を持った旅行みたいなもので、旅の途中、土地の人にそこの伝承などを聞き、その土地の風俗や風習に親しみながら、それを楽しむと云った程度の、お遊び的な集まりなのであった。
今回、ミステリー愛好会一行は、夏のバカンスを利用し、全員で小笠原諸島の婿入島へとフィールド調査に出ることになっている。
勿論、実際に婿入島には怪しい伝説などは無く。フィールド調査とは名ばかり。部長の加藤先輩の知り合いで、民宿を営んでいる大友善次郎さんの所に安く泊まり、夏の数日間を皆 で楽しく過ごそうと云うだけのことである。
今回のフィールド調査に参加したのは、ミステリー愛好会のメンバー全員。具体的には、部長の加藤亨、副部長の中田美枝、それと是枝啓介、柳美海、要耀子と僕、橿原幸四郎の六名だ。実はこれについて、多くのメンバーが驚きを感じている。
日頃、この手のイベントには絶対参加しない耀子先輩が、なぜか今回だけはフィールド調査に参加しているのだ。それも今回は、明らかにレクレーション旅行。彼女が参加するなんてことは、誰1人として予想していなかった……。
「耀子先輩、どうして参加したんですか?」
僕は誰も見ていないのを確認し、婿入島へ向かう連絡船の甲板で、ひとり海を眺めている彼女に近づき、誰もが不思議がっているこの事を耀子先輩に訊ねてみた。
「止めてよね。幸四郎と私は、いがみ合っていることになってるんだから……」
「誰も見てませんよ」
「何時、誰が見ているか分からないのよ。ミステリー愛好会のイベントに参加しているんだから、私に親しく声を掛けるのは、勘弁して欲しいわね……」
耀子先輩は、基本的に誰とも親しくしたりしない。彼女が親しくしているのは、僕の思い込みでなければ僕だけだ。しかし逆に、僕と彼女は酷くいがみ合っていて、お互い顔を見合わせるのも嫌がっている間柄だと周りからは思われている。
「で、どうしてなんです?」
「どうして参加したかって事? う~ん、説明が難しいわね……。色々あるけど、一言で言うと、脅威を感じなかったからかな……」
僕、橿原幸四郎は、某都内の医療系大学の学生で、入学当初に同大学に通う要耀子と云う不思議な女性と出会った。
この耀子先輩に憧れた僕は、軽薄にも、彼女と会う機会もあるだろうと、彼女の所属するミステリー愛好会なるクラブに入ったのである。
このミステリー愛好会と云うクラブは、世の中に
だが、そうは言っても、別に学術的な研究までしようとしている訳ではない。だから、フィールド調査をすると言っても、目的を持った旅行みたいなもので、旅の途中、土地の人にそこの伝承などを聞き、その土地の風俗や風習に親しみながら、それを楽しむと云った程度の、お遊び的な集まりなのであった。
今回、ミステリー愛好会一行は、夏のバカンスを利用し、全員で小笠原諸島の婿入島へとフィールド調査に出ることになっている。
勿論、実際に婿入島には怪しい伝説などは無く。フィールド調査とは名ばかり。部長の加藤先輩の知り合いで、民宿を営んでいる大友善次郎さんの所に安く泊まり、夏の数日間を
今回のフィールド調査に参加したのは、ミステリー愛好会のメンバー全員。具体的には、部長の加藤亨、副部長の中田美枝、それと是枝啓介、柳美海、要耀子と僕、橿原幸四郎の六名だ。実はこれについて、多くのメンバーが驚きを感じている。
日頃、この手のイベントには絶対参加しない耀子先輩が、なぜか今回だけはフィールド調査に参加しているのだ。それも今回は、明らかにレクレーション旅行。彼女が参加するなんてことは、誰1人として予想していなかった……。
「耀子先輩、どうして参加したんですか?」
僕は誰も見ていないのを確認し、婿入島へ向かう連絡船の甲板で、ひとり海を眺めている彼女に近づき、誰もが不思議がっているこの事を耀子先輩に訊ねてみた。
「止めてよね。幸四郎と私は、いがみ合っていることになってるんだから……」
「誰も見てませんよ」
「何時、誰が見ているか分からないのよ。ミステリー愛好会のイベントに参加しているんだから、私に親しく声を掛けるのは、勘弁して欲しいわね……」
耀子先輩は、基本的に誰とも親しくしたりしない。彼女が親しくしているのは、僕の思い込みでなければ僕だけだ。しかし逆に、僕と彼女は酷くいがみ合っていて、お互い顔を見合わせるのも嫌がっている間柄だと周りからは思われている。
「で、どうしてなんです?」
「どうして参加したかって事? う~ん、説明が難しいわね……。色々あるけど、一言で言うと、脅威を感じなかったからかな……」