鳥憑き(5)
文字数 1,273文字
耀子先輩は、少年の意見を別の言葉で言い換える。
「そうね……。彼のお父さんは鳥憑きになったけど、薬湯を飲んでいない。だから、薬湯が原因である筈がない……。
それに、薬湯の影響だとした場合、因果関係が直接に繋がっていないわ。
丸鳥は人を襲っても、薬湯を飲んで貰わないと人間が鳥憑きにならず、餌にありつけない。もし、人間がアッサリと薬湯を飲むのを止めてしまったら、彼らのカミカゼ行為は全くの無意味になってしまう……」
次に口を開いたのは、またも医学に詳しくない筈の善次郎さんだった。
「この子の言うのが正しいのなら、あの鳥自身が、何かそう云う神経毒を持っているんじゃないか?
鳥だから牙は無いと思うが、嘴の付近に毒腺があって、それで噛まれるか、傷をつけられると、神経性の毒がまわるのに違いない。どうだ? 亨君」
「そうですね……。この子は足爪で引っ掛かれても、鳥憑きになると言いました。足爪でも鳥憑きになることを考えると、毒腺があるとしたら、恐らく別の場所でしょう。
悪魔鳥の身体の何処か、例えば退化した翼の下などに毒腺があって、嘴を使って蹴爪やら嘴の先に塗布しておいて人間を襲う。そして、鳥憑きにした人間が崖などから落ちて死んだら、その屍を餌として食べる……。
う~ん。その可能性は無いこともないとは思いますけどね……」
「でも、それを……、僕たちはどうやって証明するんです?」
僕の質問に、加藤部長は意外な答えを返してきた。
「1羽捕まえて、そいつを解剖するしかないだろうな。そうすれば確認も出来る。もしそうなら、ついでに解毒薬を創る研究用の毒腺も得られるだろう。要、明日、君が1羽捕まえて来てくれないか?」
耀子先輩は、何時になく、従順に加藤部長の指示に頷く。寧ろ、それに異を唱えたのは、耀子先輩とはあまり仲の良くない中田先輩の方だった。
「加藤君、何考えているの? 毒を持っている可能性のある危険な生物なのよ。仮に毒が無いにしても、ダチョウと同じくらい巨大な鳥よ。それが、集団で攻撃してくるのよ。女の子ひとりに狩りに行かせるなんて、正気の沙汰じゃないわ!」
「あら、心配して下さるの……?
でも大丈夫。私、ニワトリなら昔、素手で捕まえたことありますのよ。それとも、中田さんの方が、男性の中、女性ひとりになるのが不安なのかしら?」
中田先輩はそれを聞き、一瞬呆れ顔をして、「勝手にすればいいわ」と言って向うを向いてしまった。勿論、耀子先輩はそんなこと意に介さない様子ですましている。
実はこの時、耀子先輩は別のことを考えていたそうだ……。
「生物は群れを成し、鰯や水牛などがそうである様に、結果、弱い個体が犠牲となって群れを守ることはある。でも、人間や一部の蟻などを除いて、個体が率先して群れの為に命を差し出すなどと云うことは決してない。
この丸鳥は、そんな、個体より群を優先する様な、高度な社会性を持っていると云うのだろうか?」
結局、その夜はそこでお開きとなり、耀子先輩も、その疑問を解決することなく、誰からともなく、皆が眠りに就いてしまったのであった。
「そうね……。彼のお父さんは鳥憑きになったけど、薬湯を飲んでいない。だから、薬湯が原因である筈がない……。
それに、薬湯の影響だとした場合、因果関係が直接に繋がっていないわ。
丸鳥は人を襲っても、薬湯を飲んで貰わないと人間が鳥憑きにならず、餌にありつけない。もし、人間がアッサリと薬湯を飲むのを止めてしまったら、彼らのカミカゼ行為は全くの無意味になってしまう……」
次に口を開いたのは、またも医学に詳しくない筈の善次郎さんだった。
「この子の言うのが正しいのなら、あの鳥自身が、何かそう云う神経毒を持っているんじゃないか?
鳥だから牙は無いと思うが、嘴の付近に毒腺があって、それで噛まれるか、傷をつけられると、神経性の毒がまわるのに違いない。どうだ? 亨君」
「そうですね……。この子は足爪で引っ掛かれても、鳥憑きになると言いました。足爪でも鳥憑きになることを考えると、毒腺があるとしたら、恐らく別の場所でしょう。
悪魔鳥の身体の何処か、例えば退化した翼の下などに毒腺があって、嘴を使って蹴爪やら嘴の先に塗布しておいて人間を襲う。そして、鳥憑きにした人間が崖などから落ちて死んだら、その屍を餌として食べる……。
う~ん。その可能性は無いこともないとは思いますけどね……」
「でも、それを……、僕たちはどうやって証明するんです?」
僕の質問に、加藤部長は意外な答えを返してきた。
「1羽捕まえて、そいつを解剖するしかないだろうな。そうすれば確認も出来る。もしそうなら、ついでに解毒薬を創る研究用の毒腺も得られるだろう。要、明日、君が1羽捕まえて来てくれないか?」
耀子先輩は、何時になく、従順に加藤部長の指示に頷く。寧ろ、それに異を唱えたのは、耀子先輩とはあまり仲の良くない中田先輩の方だった。
「加藤君、何考えているの? 毒を持っている可能性のある危険な生物なのよ。仮に毒が無いにしても、ダチョウと同じくらい巨大な鳥よ。それが、集団で攻撃してくるのよ。女の子ひとりに狩りに行かせるなんて、正気の沙汰じゃないわ!」
「あら、心配して下さるの……?
でも大丈夫。私、ニワトリなら昔、素手で捕まえたことありますのよ。それとも、中田さんの方が、男性の中、女性ひとりになるのが不安なのかしら?」
中田先輩はそれを聞き、一瞬呆れ顔をして、「勝手にすればいいわ」と言って向うを向いてしまった。勿論、耀子先輩はそんなこと意に介さない様子ですましている。
実はこの時、耀子先輩は別のことを考えていたそうだ……。
「生物は群れを成し、鰯や水牛などがそうである様に、結果、弱い個体が犠牲となって群れを守ることはある。でも、人間や一部の蟻などを除いて、個体が率先して群れの為に命を差し出すなどと云うことは決してない。
この丸鳥は、そんな、個体より群を優先する様な、高度な社会性を持っていると云うのだろうか?」
結局、その夜はそこでお開きとなり、耀子先輩も、その疑問を解決することなく、誰からともなく、皆が眠りに就いてしまったのであった。