脱出(5)
文字数 1,134文字
耀子先輩は、左手を翳したまま、片膝ついて屈みこむと、今度は右手の拳を地面にあてがった。そして振り返り、僕に次の指示を与える。
「幸四郎、私の下の翼は薄い皮で出来ている。これを伸ばして2本のロープにし、全員の腰ひもに通して結び付けて! 勿論、幸四郎もよ。そして、幸四郎はそれを持って飛び込み石の先端にしがみついていて。いいわね、絶対に離しちゃ駄目よ! みんなも、それに頼らず、自分たちで石にしがみついていてね。少し揺れるから」
彼女の背中には三対の翼が生えていた。
中の翼は翼竜の形で飛ぶ為の物だろう。上下二対は体勢の制御やブレーキに使うに違いない。僕はその下の尾羽の役目をするであろう翼を掴んで引き伸ばした。それは、太いゴムで出来たロープのように、どんどんと伸びていく。
一朗太君と僕は1本ずつそれを持ち、左右に分かれ、加藤部長や中田先輩のベルト、それから島民の服を合わせている帯紐の間にそれを通して皆を結び付けた。そして最後に一朗太君と僕の腰にロープを繋いで、飛び込み石の先端に2本のロープを結び着ける。その上で、それが解 けない様に、僕は結び目ごと岩にしっかりとしがみついた。
それは命綱の代わりであり、手摺りの代用となるものだろう……。
その間にも、次々と悪魔鳥が飛び込み石を目掛けて体当たりしてくる。彼らも溶岩に焼かれる寸前なので必死なのだ。だが、それらは全て、耀子先輩の作った気流の壁に弾き返されている。
「幸四郎! 準備が出来たらそう言って! 直ぐに出発するから!!」
「準備OKです!」
耀子先輩の声に僕は直ぐに答えた。
耀公主とは、巫女をしていた叔母に言わせると、悪魔喰いの悪魔だと云うことだった。自身悪魔でありながら、悪魔を喰って何世紀も生き続けている魔神……。叔母はそう言っている。
人は蛇(悪魔の象徴)を喰う孔雀を、神獣と崇めている。それと同じ様に、悪魔喰いの悪魔は、ある種鬼神として恐れ、崇められているとのことだった……。
ただ、耀子先輩は、実は何千年も生き続けてきた悪魔本人ではない。彼女は、先代の耀公主から、その力を受け継いで二代目となっただけなのだそうだ。
その力は、危機を察知し、皮膚を剣や鎧とし、炎と氷、光、風を操り、重力すら自在に扱えると云う……。因みに、重力は質量に転換されるのだそうだ。
耀子先輩は、飛び込み石の重力増加を利用し、付け根の部分から岩を折って、一気に海上をサーフボードの様に滑走しようと考えていたのである。
彼女は手を握って石鎚に変え、飛び込み石の付け根に鉄槌の一撃を加えた。
その一撃で、飛び込み石には罅が入り、重力増加に耐えられなくなった石は、そこから折れ、崖の下へとゆっくり、スローモーションの様に落ちて行く……。
「幸四郎、私の下の翼は薄い皮で出来ている。これを伸ばして2本のロープにし、全員の腰ひもに通して結び付けて! 勿論、幸四郎もよ。そして、幸四郎はそれを持って飛び込み石の先端にしがみついていて。いいわね、絶対に離しちゃ駄目よ! みんなも、それに頼らず、自分たちで石にしがみついていてね。少し揺れるから」
彼女の背中には三対の翼が生えていた。
中の翼は翼竜の形で飛ぶ為の物だろう。上下二対は体勢の制御やブレーキに使うに違いない。僕はその下の尾羽の役目をするであろう翼を掴んで引き伸ばした。それは、太いゴムで出来たロープのように、どんどんと伸びていく。
一朗太君と僕は1本ずつそれを持ち、左右に分かれ、加藤部長や中田先輩のベルト、それから島民の服を合わせている帯紐の間にそれを通して皆を結び付けた。そして最後に一朗太君と僕の腰にロープを繋いで、飛び込み石の先端に2本のロープを結び着ける。その上で、それが
それは命綱の代わりであり、手摺りの代用となるものだろう……。
その間にも、次々と悪魔鳥が飛び込み石を目掛けて体当たりしてくる。彼らも溶岩に焼かれる寸前なので必死なのだ。だが、それらは全て、耀子先輩の作った気流の壁に弾き返されている。
「幸四郎! 準備が出来たらそう言って! 直ぐに出発するから!!」
「準備OKです!」
耀子先輩の声に僕は直ぐに答えた。
耀公主とは、巫女をしていた叔母に言わせると、悪魔喰いの悪魔だと云うことだった。自身悪魔でありながら、悪魔を喰って何世紀も生き続けている魔神……。叔母はそう言っている。
人は蛇(悪魔の象徴)を喰う孔雀を、神獣と崇めている。それと同じ様に、悪魔喰いの悪魔は、ある種鬼神として恐れ、崇められているとのことだった……。
ただ、耀子先輩は、実は何千年も生き続けてきた悪魔本人ではない。彼女は、先代の耀公主から、その力を受け継いで二代目となっただけなのだそうだ。
その力は、危機を察知し、皮膚を剣や鎧とし、炎と氷、光、風を操り、重力すら自在に扱えると云う……。因みに、重力は質量に転換されるのだそうだ。
耀子先輩は、飛び込み石の重力増加を利用し、付け根の部分から岩を折って、一気に海上をサーフボードの様に滑走しようと考えていたのである。
彼女は手を握って石鎚に変え、飛び込み石の付け根に鉄槌の一撃を加えた。
その一撃で、飛び込み石には罅が入り、重力増加に耐えられなくなった石は、そこから折れ、崖の下へとゆっくり、スローモーションの様に落ちて行く……。