噴火(1)

文字数 898文字

 僕たち全員、加藤部長の方針に同意した。

 確かに、耀子先輩が言った通り、このドードー鳥に似た生物が生息していたことは、学術的な大発見であり、生物学的にも貴重なサンプルとなり得ることは間違いない。しかし、その為に、島の人間の健康を犠牲にすると云うことなど、決してあってはならないことなのだ。
 法定伝染病が、仮に絶滅危惧種だったとして、それを理由に、病気を野放しにして良いと云うものではないのと同じことだ。
 勿論、鳥憑き寄生虫(これが原因とした場合ではあるが)のみを駆除し、悪魔鳥を残すと云う手段は何処かにあったのかも知れない。しかし、そう出来たとしても、この寄生虫を駆除してしまえば、悪魔鳥も生きて行けない様に僕には感じられた。
 この寄生虫と悪魔鳥は、僕には、どこか、寄生と云うより、ある種の共生関係にある様に思えてならなかったのだ……。

 僕は、悪魔鳥と云う種への同情を、きっぱりと捨てることにした。

 加藤部長と耀子先輩は、その様な躊躇いを、今はもう全く感じていない様であったし、中田先輩は人間を食べる悪魔鳥を駆除することに、何の疑問も抱いてはいなかった。
 寧ろ、それを一番否定的に捉えていたのは、意外にも一朗太君ではなかったかと思う。勿論、彼には、僕の様な悪魔鳥への同情などは最初から無かった。
 彼が危惧していたのは、悪魔鳥の反撃であり、島民への彼らの怒りによる村落襲撃であった。だが、一朗太君にしても、悪魔鳥への復讐心が少なからず存在しており、最終的に、僕らへの信頼が、彼らの反撃に対する恐怖よりも大きくなり、彼も悪魔鳥根絶に賛成の意を唱えたのである。

 僕たちは、一朗太君から大体の島の地形と、悪魔鳥の生息地の状況を確認した。
 確かに、耀子先輩たちは、悪魔鳥捕獲の為に、事前に悪魔鳥の多く見つかる場所を一朗太君から教わっている。しかし、今回は殲滅戦である。鳥一羽、卵一つとして残す訳には行かないのだ。

 我々は、虱潰しに悪魔鳥の繁殖コロニーを見つけ、それを、一つ残らず焼き払わなければならない!

 ただ、そんな、僕たち全員の統一された意志とは裏腹に、悪魔鳥の駆除作戦は実行されることはなかった……。
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登場人物紹介

要耀子


某医療系大学看護学部四回生。ミステリー愛好会に所属する謎多き女性。

橿原幸四郎


某医療系大学医学部二回生。ミステリー愛好会所属。

加藤亨


某医療系大学医学部四回生。ミステリー愛好会部長。

中田美枝


某医療系大学薬学部四回生。ミステリー愛好会副部長。

是枝啓介


某医療系大学医学部四回生。ミステリー愛好会の会員。

柳美海


某医療系大学医学部三回生。ミステリー愛好会の会員。

大友善次郎


民宿大友主人。加藤部長の知り合い。

一朗太


島の漁師、茂吉の息子。因襲に囚われない考え方の出来る賢い少年。耀子たちと共に、鳥憑きの謎を追う。

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