鳥憑き(4)
文字数 1,225文字
加藤部長は少年に向かい、何時になく強い口調でこう宣言した。
「僕もそう思う。恐らくここにいる全員そう思っている。これは何か理由のあることで、祟りでも、呪いでも何でもない!」
全員まだ寝ていなかったのだろう。加藤部長の声に皆、身体を起こして話に加わってきた。当然、僕や耀子先輩もだ。
僕たちは自然に車座に座り直した。そして、ミステリー愛好会のメンバーらしく、誰が言い出さずとも、この謎に挑むべく議論を始めたのだ。
まず口切ったのが、薬学部に所属する中田先輩だった。
「加藤君の意見に私も賛成。私は何か幻覚を生む様な薬品の作用だと思う。以前、インフルエンザの治療薬タミフル(オセルタミビルの商品名)の精神神経作用で、飛び降り自殺をしたと云う事例があったわ」
「オセルタミビルか……」
「そう、そう云う種類の薬品ならば、ああ云った行動も説明できるわ」
だが、これには、部外者の筈の善次郎さんが反論する。
「誰がその薬を盛ったと言うんだね。誰かが少年のお父さんに恨みを持っていて、薬物で毒殺したとでも言うんか? 毒殺にしても、余りにまわりくどくないか?」
「おっ父は、人に恨まれたりしない!」
少年は興奮して立ち上がり、僕たち全員を見て、そう反論した。だが、彼も興奮しすぎた自分に気付いたのか、静かに腰を下ろす。
勿論、父親が無くなった当日に、父を侮辱されるような事を言われたら、誰だって憤慨する。僕たちは皆、彼の怒りを別段不当なものとは思わない。
中田先輩は、この遣り取りが無かった様に、冷静に発言を続けた。
「じゃあ、薬湯ってのは? 確かそんな薬飲ませるって言っていたわよね。その中に、偶然そういう成分が含まれている可能性だってあるんじゃない? で、その薬湯って、どんなものなの?」
「あれを飲んで、鳥憑きに掛からなかった人もいるんだ。薬湯ってのは、マクリって云う海藻を煮出したものだ。悪魔鳥に襲われたもんは、治療部屋って座敷牢に、一月半閉じ込められて毎日薬湯を飲まされる。そこで、鳥憑きにならなければ解放される」
「もしなったら?」
僕の質問に、少年は平然と残酷なことを口にした。
「海に行かせない様に縛られるけど、結局、食事が取れなくなって、そこで死ぬ。そうなったら、遺体は湯の華と一緒に埋葬される。もし湯の華を入れないと、悪魔鳥がその死骸を目当てに墓を掘り返すと言われてる……」
「お父さんは、その治療部屋と云う所へ行かなかったんだね……」
「ああ、そうさ。それに、おっ父は薬湯の臭いが嫌いだと言って、決してそれを飲もうとはしなかった……。
おっ父は、自分で悪魔鳥を倒そうとして鳥憑きになったんだが、やつら、誰も鳥憑きにならねえと、自分たちから人間に狩られに来るんだ。そうして人を鳥憑きにする。
島の人間がすることじゃない。悪魔鳥が人間を自分たちの手で鳥憑きにするんだ!」
皆、暫し言葉を失った。
悪魔鳥の奴らは、自らの命を棄てて、人間を自分たちの生贄にさせるのか……。
「僕もそう思う。恐らくここにいる全員そう思っている。これは何か理由のあることで、祟りでも、呪いでも何でもない!」
全員まだ寝ていなかったのだろう。加藤部長の声に皆、身体を起こして話に加わってきた。当然、僕や耀子先輩もだ。
僕たちは自然に車座に座り直した。そして、ミステリー愛好会のメンバーらしく、誰が言い出さずとも、この謎に挑むべく議論を始めたのだ。
まず口切ったのが、薬学部に所属する中田先輩だった。
「加藤君の意見に私も賛成。私は何か幻覚を生む様な薬品の作用だと思う。以前、インフルエンザの治療薬タミフル(オセルタミビルの商品名)の精神神経作用で、飛び降り自殺をしたと云う事例があったわ」
「オセルタミビルか……」
「そう、そう云う種類の薬品ならば、ああ云った行動も説明できるわ」
だが、これには、部外者の筈の善次郎さんが反論する。
「誰がその薬を盛ったと言うんだね。誰かが少年のお父さんに恨みを持っていて、薬物で毒殺したとでも言うんか? 毒殺にしても、余りにまわりくどくないか?」
「おっ父は、人に恨まれたりしない!」
少年は興奮して立ち上がり、僕たち全員を見て、そう反論した。だが、彼も興奮しすぎた自分に気付いたのか、静かに腰を下ろす。
勿論、父親が無くなった当日に、父を侮辱されるような事を言われたら、誰だって憤慨する。僕たちは皆、彼の怒りを別段不当なものとは思わない。
中田先輩は、この遣り取りが無かった様に、冷静に発言を続けた。
「じゃあ、薬湯ってのは? 確かそんな薬飲ませるって言っていたわよね。その中に、偶然そういう成分が含まれている可能性だってあるんじゃない? で、その薬湯って、どんなものなの?」
「あれを飲んで、鳥憑きに掛からなかった人もいるんだ。薬湯ってのは、マクリって云う海藻を煮出したものだ。悪魔鳥に襲われたもんは、治療部屋って座敷牢に、一月半閉じ込められて毎日薬湯を飲まされる。そこで、鳥憑きにならなければ解放される」
「もしなったら?」
僕の質問に、少年は平然と残酷なことを口にした。
「海に行かせない様に縛られるけど、結局、食事が取れなくなって、そこで死ぬ。そうなったら、遺体は湯の華と一緒に埋葬される。もし湯の華を入れないと、悪魔鳥がその死骸を目当てに墓を掘り返すと言われてる……」
「お父さんは、その治療部屋と云う所へ行かなかったんだね……」
「ああ、そうさ。それに、おっ父は薬湯の臭いが嫌いだと言って、決してそれを飲もうとはしなかった……。
おっ父は、自分で悪魔鳥を倒そうとして鳥憑きになったんだが、やつら、誰も鳥憑きにならねえと、自分たちから人間に狩られに来るんだ。そうして人を鳥憑きにする。
島の人間がすることじゃない。悪魔鳥が人間を自分たちの手で鳥憑きにするんだ!」
皆、暫し言葉を失った。
悪魔鳥の奴らは、自らの命を棄てて、人間を自分たちの生贄にさせるのか……。