嵐の海(5)

文字数 975文字

 雨と風が突然強くなり、僕たちは嵐に巻き込まれた。当然、トローリングは中止だ。

 荒れ狂う海の中を、善次郎さんは必死で船を操り、僕たち4人は心細い気持ちを膝に抱え操舵室の隅に集まっていた。
「それにしても、こんな嵐、天気予報では何も言ってはおらんかったぞ!」
「最近は、爆弾低気圧とか云う、想定外の低気圧が突然発生したりしますからね。異常気象としか言いようがないですね……」
 善次郎さんの愚痴に、加藤部長が宥める様にそう応えた……。

 まさに、その時だった。ドカンと云う大きな爆発音と眩しい青白い光が船内を走る。僕の目の前は、全てホワイトアウトして何もかもが無くなってしまった。

 僕は気を失った……。

 その時は、自分が死んだのか、気を失ったかの判断など出来る訳がない。僕が気を失っていたと理解したのは、加藤先輩に揺り起こされたからだ。
「おい、橿原! 大丈夫か?」
「ぶ、部長、僕は……? 耀子先輩は、彼女は無事ですか?」
 僕は気が付くと、辺りを直ぐに見回した。
 耀子先輩も、中田先輩も、善次郎さんも倒れたままで、まだ起き上がってはいない。

 僕は耀子先輩の前に跪き、彼女を抱き起して、少し彼女の身体を揺らす。耀子先輩はそれだけで、「ううっ」と一言言って、意識を取り戻した。
 その間に、加藤部長は善次郎さんと中田先輩を助け起こしている。

 中田先輩が意識を取り戻したので、加藤部長は船の操作盤をチェックしている善次郎さんに、船の状況を確認した。
「善次郎さん、船は大丈夫ですか?」
「駄目だ。良く分からんが、操作できない様だ! 無線もいかれているらしい!!」
 加藤先輩はそれを聞いて窓から外を覗いた。僕の位置からでも、まだ雨風が強く、海が大時化であることが分かる。

「どうすんの! 私たち、このまま嵐の中、勝手に流されていくしかないの?」
 中田美枝先輩が、少々ヒステリックに騒ぎ出した。しかし、誰もが分かっている。その答えが「YES」だと云うことを。

「要耀子……。君の力で、港に船を戻すことは出来るか?」
 加藤先輩の質問に、一息考えてから耀子先輩は答えた。
「どうかしら……。でも、港の方向が分からないわね……」
「そうか……。だったら、まだ君の力は残しておいてくれ……」

 僕たちは、大時化の太平洋に、操作できない船で漂流すると云う、最悪の事態に巻き込まれてしまったのである。
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登場人物紹介

要耀子


某医療系大学看護学部四回生。ミステリー愛好会に所属する謎多き女性。

橿原幸四郎


某医療系大学医学部二回生。ミステリー愛好会所属。

加藤亨


某医療系大学医学部四回生。ミステリー愛好会部長。

中田美枝


某医療系大学薬学部四回生。ミステリー愛好会副部長。

是枝啓介


某医療系大学医学部四回生。ミステリー愛好会の会員。

柳美海


某医療系大学医学部三回生。ミステリー愛好会の会員。

大友善次郎


民宿大友主人。加藤部長の知り合い。

一朗太


島の漁師、茂吉の息子。因襲に囚われない考え方の出来る賢い少年。耀子たちと共に、鳥憑きの謎を追う。

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