身代わり(5)

文字数 1,004文字

 翌朝、耀子先輩は島民にバレない様に小屋を抜け出し、僕の心配を他所に悪魔鳥の足爪を狩りに行った。勿論、耀子先輩に限って、悪魔鳥に怪我をさせられるなどと言うことは有り得ないが、かすり傷一つで伝染する奇病を媒介する怪鳥である。万が一と云うことも無いとは言えない。
 とは言え、心配していても仕方がない。僕は自分の作業を行うことにした。

 僕と中田先輩は、ペットボトルの蓋に穴をあけ、アクリルボールを捻じ込んで簡易顕微鏡を作る。ホームセンター等で売っているアクリルボールと、普通のペットボトルを使って簡単に出来ると云うことで、最近人気になっている子供の工作だ。確かに本物の顕微鏡には遠く及ばないが、これでも無いよりは遥かにましだ。
 それはともかく、加藤部長は、病原体はこの簡易顕微鏡で確認できる大きさのものと考えている様だ。となると、彼はウィルスより遥かに大きな病原体をイメージしていることになる。
 一方、一朗太君とお民さんの報告によると、善次郎さんの症状は昨日より改善し、発熱も治まって食欲も回復したとのことであった。このまま治ってくれれば良いと僕は思っているが、感染症は決して油断がならない。

 耀子先輩が帰ってきたのは昼近くであった。彼女は悪魔鳥の足の爪を一本切り取り、ビニール袋に入れて戻ってきた。
「ご苦労さん、まさか素手で触ったりはしないよね」
「大丈夫よ。痛かったけど、使った指の皮は剥いで燃やしてきたから」
 耀子先輩の冗談に、僕と中田先輩はぎょっとするが、加藤部長はあっさりと聞き流して次の質問をする。
「で、奴らの腸には何があった?」
「何も無かったわよ」
「え? そ、そんな? そんな訳が無い! いや、仮定が誤っていたのか……」
「嘘よ。ちゃんといたわよ、悪魔鳥の腸に。それも意外なことに、まだ攻撃性を有していない若鳥に沢山ね」

 耀子先輩は何を見てきたんだ? 僕はつい、聞き耳を立ててしまう。恐らく中田先輩も同じだろう。
「ふん、そうか……。成程、大体イメージが出来てきた。細部を検証しないことには断言することは出来ないが、大まかに奴らのライフスタイル……。成長の仕方が分かってきたようだ」
 僕は思わず作業の手を止め、加藤部長の方に身を乗り出して、彼が何を言うのかを待っていた。それは中田先輩も変わりがない。
「教えて! 加藤君、君はどう云う仮説を立てているの?!」

 中田先輩の質問に、加藤部長は自説を説明し始めた。
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登場人物紹介

要耀子


某医療系大学看護学部四回生。ミステリー愛好会に所属する謎多き女性。

橿原幸四郎


某医療系大学医学部二回生。ミステリー愛好会所属。

加藤亨


某医療系大学医学部四回生。ミステリー愛好会部長。

中田美枝


某医療系大学薬学部四回生。ミステリー愛好会副部長。

是枝啓介


某医療系大学医学部四回生。ミステリー愛好会の会員。

柳美海


某医療系大学医学部三回生。ミステリー愛好会の会員。

大友善次郎


民宿大友主人。加藤部長の知り合い。

一朗太


島の漁師、茂吉の息子。因襲に囚われない考え方の出来る賢い少年。耀子たちと共に、鳥憑きの謎を追う。

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