脱出(2)

文字数 1,202文字

 一朗太君を含めた僕たち5人は、島民を追ってジャングルを走り抜ける。
 火山は今も噴火を続けているが、風向きのせいか、今のところ飛び込み石方面には、噴出物が飛んでくることは無かった。
 時折、悪魔鳥に出くわすことはあるが、耀子先輩が一瞬のうちにそいつらを斬り倒していく。耀子先輩の動きは、敵の出現を予知しているかの様で全く無駄が無い。

 そして、飛び込み石に出てみると、20人弱の島民が、数羽の悪魔鳥に追い詰められている状況に陥っていた。しかし、それは僕と加藤先輩で、悪魔鳥を崖下に全羽追い落とし事なきを得る……。

「要! 島の人を連れて急いで戻ろう。もう時間が無い!」
 加藤部長はそう叫んだが、最後尾に回った耀子先輩はそうしようとは言わなかった。
「残念ね、もう遅いみたいよ。ほら、100羽以上の丸鳥がこちらに押し寄せてくる」
「要の力で倒せないのか?」
「それは出来ると思うけど……、丸鳥がこっちに来る理由の方が問題ね」
 僕は、悪魔鳥が人間を襲う為に集まったのだとばかり思っていた……。
 だが、噴火と地震でパニックになっているのは人間だけではない。悪魔鳥も、僕たち以上にパニックになっていたのだ。そいつらが今、餌を求めて集団行動などする訳がない。

「やつら、溶岩流に追われているんだ……」

 僕は、遥か向こうにある、燃える赤い河を見とめた……。それは、ジャングルの草木を焼き尽くし、その無限の胃袋へと飲み込んで行く溶岩の流れだ。
 しかし、有難いことに、赤い流れは登りになる飛び込み石の方へは向かって来ず、海の方へと流れ降りて行く様だった。
 でも……、だから、安心できるかと云うと、勿論そうではない。

 あれだけの数の悪魔鳥が、すべて飛び込み石の方へと逃げて来る。それもパニックになって突っ込んで来るのだ。脅かしたくらいでは怯むことは無いだろう。
 それに、いくらなんでも、飛び込み石に、あんな沢山の悪魔鳥を乗せることなど出来やしない。第一、悪魔鳥を恐れる島民が、この突進に恐怖を覚えない訳も無く、そうなると、パニックで、彼らが収拾不能の状態に陥ってしまう……。

「幸四郎……。大丈夫だから、島の人たちが、飛び降りたりしない様に、ちゃんと見張っていてね」
 耀子先輩が、笑顔で僕に指示を出す。
 さりげなく島民に安心させようと、先輩は、態と余裕を見せてゆっくりと話したのだ。だが、パニックになっているのは、悪魔鳥や島民たちだけではなかった。
「要さん、どうしようって云うのよ! もう海へも逃げられないじゃない! 私たち、どうやっったって、助からないわ!」
 中田先輩が耀子先輩に食って掛かる。しかし、そんなこと気にしないかの様に、耀子先輩は涼しい顔でこう言ったのだ。

(そもそも)、悪魔鳥って言われているのが気に入らないのよね。生意気なのよ。少し大きいだけの七面鳥のくせに……。
 これから、本物の悪魔(デーモン)の恐ろしさ、タップリと思い知らせてやるわ!」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

要耀子


某医療系大学看護学部四回生。ミステリー愛好会に所属する謎多き女性。

橿原幸四郎


某医療系大学医学部二回生。ミステリー愛好会所属。

加藤亨


某医療系大学医学部四回生。ミステリー愛好会部長。

中田美枝


某医療系大学薬学部四回生。ミステリー愛好会副部長。

是枝啓介


某医療系大学医学部四回生。ミステリー愛好会の会員。

柳美海


某医療系大学医学部三回生。ミステリー愛好会の会員。

大友善次郎


民宿大友主人。加藤部長の知り合い。

一朗太


島の漁師、茂吉の息子。因襲に囚われない考え方の出来る賢い少年。耀子たちと共に、鳥憑きの謎を追う。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み