生還(4)

文字数 1,131文字

 加藤部長を薬師華佗が選んだ理由。それは「耀子先輩がいたから……」

「そうだ。彼に憑依し、耀公主を呼べれば一石二鳥。鉄壁の守りも得られ、ぎりぎりまで調査研究が出来る……」
「それで、私の危機察知能力を封じて、私がここに来るように仕向けたのね」
 確かに耀子先輩は、そう云う不思議な状況になると、寧ろ、敢えて危険に飛び込もうとする傾向がある。

「済まんかったな……。だがそれも、長くは持たなかった様だがな」
「島に来て2日目くらいまでかしら……。
 でも、すごく良い経験をさせて貰ったわ。先の見えない恐怖と不安。人間になるには、必ず越えなければいけない壁ね……。
 人間はみな、それと闘い続けている……。
 私はそんな、勇気ある人間になりたい。改めて、私はそう思えた……」

 薬師華佗と耀公主か……。
 確かに2人は強力なタッグだ。
 でも、そうなると、僕と中田先輩は、何の為にここに呼ばれたんだ?

「あの~」
「ん、なんじゃ?」
「僕は、なんで呼ばれたんですか?」
「なんだ? 橿原君は何故ここに呼ばれたのか、気付いておらんのか?」
「え? お笑い担当ですか?」
 耀子先輩は笑いを堪え、加藤部長は額に手を遣って項垂れている。いや、別に僕は笑わせようとして言った訳じゃない。理由が思いつかなかっただけなんだ……。

 彼は一息吐くと、僕にこう説明した。
「耀公主ってのはな、誰かを護る為にしか闘わんのだよ。なんせ、気紛れだからな……。
 橿原君がおらんと、彼女は『面倒だ』と云って、飛んで行ってしまうだろう?」
「それとね、私が能力を使う為には、誰かとキスする必要があったのよ。だから、今回は、どうしても幸四郎に近くにいて欲しかったの……。何時、どんな危険が来るか、分からないでしょう?」
 何だか良く分からないが、本気で僕は必要とされていたらしい。少なくとも、それだけで嬉しいし、何かの役に立てたのなら、もうそれで十分満足だ。

「副部長さんの方は、特に必要なかったんだがな、連れて来ないと、この三人だけでは不自然だからな、仕方なくと云う訳だよ」
 そうだったのか……。
「さぁ、これで、儂も満足した。確信は得られなかったが、あの寄生虫症で間違いないじゃろう……。では、元の時間に戻ろうではないか!」
「これで、あなたも成仏出来るんですか?」
「まさか! 儂には、まだまだ解かねばならぬ謎が五万とある。そう簡単に成仏など出来はせんよ……」
 本気だったのか、冗談だったのか。彼はそう言うと、ニッコリと微笑んだ。

 そして、一朗太達と同じ様に霧になって消えていく。僕たちも、そして足元の飛び込み石の船も、それを浮かべている海さえも、段々と霧になっていく……。

 僕は夢に落ちる様に、自分たちの時間へと戻って行くに違いない……。
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登場人物紹介

要耀子


某医療系大学看護学部四回生。ミステリー愛好会に所属する謎多き女性。

橿原幸四郎


某医療系大学医学部二回生。ミステリー愛好会所属。

加藤亨


某医療系大学医学部四回生。ミステリー愛好会部長。

中田美枝


某医療系大学薬学部四回生。ミステリー愛好会副部長。

是枝啓介


某医療系大学医学部四回生。ミステリー愛好会の会員。

柳美海


某医療系大学医学部三回生。ミステリー愛好会の会員。

大友善次郎


民宿大友主人。加藤部長の知り合い。

一朗太


島の漁師、茂吉の息子。因襲に囚われない考え方の出来る賢い少年。耀子たちと共に、鳥憑きの謎を追う。

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