噴火(2)

文字数 1,103文字

 僕たちが、悪魔鳥駆除作戦の詳細を詰めていた時のことである。巨大な爆発音と共に、震度6以上はあると思われる地震が、島に襲い掛かってきた。

「しまった! こんなにも早く来るとは!」
 加藤部長はそう言って、ぐいと立ち上がり家の外に出ようとするが、揺れの為よろけ、壁に身体をぶつけ、バタリと倒れてしまう。
 中田先輩と一朗太君は、頭を両手で抱えて(うずくま)り、耀子先輩は片膝を立て、天井の向うにある筈の、見えない青空を凝視していた。

 一朗太君の家は、村のはずれに位置している。それでも他の家で起こった被害は、直ぐに僕たち全員にも知ることが出来た。
 近くの数軒で、空から降ってきた熱く燃える石によって火事が発生していたのである。
 そのことは村人の叫びでも分かったし、一朗太君の家の台所に落ちた、ソフトボール程の大きさの石からも推察することが出来た。
 その石は、火山弾と言って十分な大きさの燃え盛る溶岩の凝固物で、確かに表面は黒く変色していたが、恐らく内部には、塊りきっていない溶岩が、まだ赤く閉じ込められている筈である。そいつに触れられると、木製の屋根も壁も、蝋燭に火が灯る様に簡単に炎に包まれてしまうのだ。

 台所に落ちた火山弾も、何かに炎を放ち、その目的を果たそうとじっと獲物を狙っていた。だが、耀子先輩がさっと近づいて、右掌で、石の怒りを抑える様に撫でた為、石は何もせず沈黙を続けることにしたらしい。

「みんな、早く外に出るんだ! 島が、島が沈没する!」
 確かに、とんでもないことが起きているのは僕にだって分かる。しかし、僕には加藤部長が言う様に、島が沈没するなんて、とても信じられなかった。
 しかし、収まりきらない揺れの中、小屋から出た僕たちが見たものは、恐ろしい大自然の猛威を示す大パノラマだった。

 この島は火山島であり、大きく口を開けた火口を持つ火山を中央に擁している。その上部は火山の噴出物の影響か、植物がなく、五合目付近から鬱蒼としたジャングルが広がっている。そして、山の裾野近くに村があり、さらにジャングルを降っていくと、唯一の入り江へと出る事が出来る。他の海岸線は全て切り立った崖で、狭い岩場はあるものの、悪魔鳥以外はそこから海に出る事など思いもよらないとのことだ。
 尚、この入り江から、再びジャングルに入り、別の道を行くと、飛び込み石へと出て行くことが出来る。

 僕たちが小屋を出て見たものは、燃えさかる幾つもの家と、そこから立ちのぼる黒い煙、そして、その背景に広がって、全天を覆う様な赤黒い噴煙に、オレンジ色に輝く溶岩を見せ、時折、咳き込むように爆発し、赤い溶岩の塵を散らしている島の象徴、中央火山であった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

要耀子


某医療系大学看護学部四回生。ミステリー愛好会に所属する謎多き女性。

橿原幸四郎


某医療系大学医学部二回生。ミステリー愛好会所属。

加藤亨


某医療系大学医学部四回生。ミステリー愛好会部長。

中田美枝


某医療系大学薬学部四回生。ミステリー愛好会副部長。

是枝啓介


某医療系大学医学部四回生。ミステリー愛好会の会員。

柳美海


某医療系大学医学部三回生。ミステリー愛好会の会員。

大友善次郎


民宿大友主人。加藤部長の知り合い。

一朗太


島の漁師、茂吉の息子。因襲に囚われない考え方の出来る賢い少年。耀子たちと共に、鳥憑きの謎を追う。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み