身代わり(3)

文字数 1,124文字

 その夜も、昨晩に続き、一朗太君も含め、僕たち五人は対策会議を開いている。

「残念だわ。あの鳥を解剖出来れば、絶対毒腺を見つけることが出来たのに……」
 中田先輩が悔しそうに唇を噛む。
「いや、恐らく毒腺は見つからないと思う。遠くから釜茹でを見ていたけど、特にそれらしい部位は見当たらなかった」
 加藤部長が中田先輩の説に反対する。
「それは羽毛に隠されていたからよ。島の人は悪魔鳥の羽根まで毟った訳じゃ無いもの」
「それはそうかも知れない。だが、もう一つ毒鳥説には疑問があるんだ。それは発症までの時間が異常に長い事なんだ」
「スズメバチに刺されたような、アナフィラキシーショックの様なものじゃないですか? 刺された直後ではなく、次に刺された、もしくは、その毒と同じものと人体が認識したものに触れた際に発症するとか……」
 その僕の提案も、加藤部長に由って簡単に否定される。
「だとすると、治療部屋期間が1ヶ月半と云う理由の説明が付かない。何年後かに発症することも考えられるだろう? もし過去にそういう事例があれば、島民だって、1ヶ月半には(こだわ)らないんじゃないのか?」

「じゃあ、加藤君は、どう考えているのかしら?」
 耀子先輩が尋ねる。
「何故か、鳥憑きは鳥に傷つけられた後、一定期間の後に発症している。これはまるで、潜伏期間の様だとは思わないか?」
「潜伏期間? じゃあ、加藤先輩はこれを感染症だと言うのですか?」
 僕は加藤部長の発言に驚きの声を上げた。
 だが、良く考えてみると、確かに感染症と考えるのが当り前で、これしか無い様に思えてくる。

「黄熱病やマラリヤの様な感染症? それによる精神神経作用による異常行動……。確かに考えられない事ではないわね。媒介するのが蚊ではなく、あの悪魔鳥と云うことね。だから島の人は鳥の死骸を釜茹でにする……。殺菌の目的で……」
 耀子先輩はそう言った。これには中田先輩も納得したように頷いている。
「そうね、確かに、感染症と仮定して考えてもいいかもね」

 加藤部長は話を進める。
「だが、それでも幾つか疑問点が残る。
 悪魔鳥は、その病原体を発生と同時に持っているのか? それとも孵化後に感染するのか? 孵化後だとしたら悪魔鳥の方はどうやって感染するのか? 奴らの巣で糞などから感染するのか? それとも別の感染経路があるのか? 別の経路があるのなら、何故、人間を含めた他の生物は、そこからは感染しないのか?
 それから、悪魔鳥に襲われた時は、一回襲われただけで感染するほど感染力が強いのに、何故、人間から人間への、二次感染の話が聞こえてこないのか?
 つまり、病原体は何物で、その感染サイクルはどうなっているか……だ」
 加藤部長はそう言って目を閉じた。
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登場人物紹介

要耀子


某医療系大学看護学部四回生。ミステリー愛好会に所属する謎多き女性。

橿原幸四郎


某医療系大学医学部二回生。ミステリー愛好会所属。

加藤亨


某医療系大学医学部四回生。ミステリー愛好会部長。

中田美枝


某医療系大学薬学部四回生。ミステリー愛好会副部長。

是枝啓介


某医療系大学医学部四回生。ミステリー愛好会の会員。

柳美海


某医療系大学医学部三回生。ミステリー愛好会の会員。

大友善次郎


民宿大友主人。加藤部長の知り合い。

一朗太


島の漁師、茂吉の息子。因襲に囚われない考え方の出来る賢い少年。耀子たちと共に、鳥憑きの謎を追う。

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