島に待つもの(3)

文字数 1,116文字

 耀子先輩のことなので、全部演技かも知れない……。

 でも、それならそれで良い。僕はそう思って、心が弱くなってしまった彼女の肩を抱き、ジャングルの(きわ)へと彼女を誘った。
「取り敢えず、あそこに座って、僕に話をしてくれませんか? 力になれるとは思えませんけど……、少しかも知れませんが、気持ちは楽になると思いますよ」
 耀子先輩はまだ幼い少女の様に、弱々しく無言でこくりと頷いた。

 砂浜とジャングルの境、僕たちは海を見ながら並んで座った。雨は少し弱くなり、暗いことに変わりはないが、青白い稲妻は遠くの空へと移動して、時折光の根を海へと落とすだけに変わっている。
 僕は役得という思いもあったが、彼女の肩を抱き恋人同士の様に振舞った。彼女も僕の肩に頭を預けて、僕を信頼してくれている様子だった。

「で、どうしたんです? 今回は最初から少し変ですよ」
 耀子先輩も少し落ち着いた様で、いつもの冷静な彼女に戻りつつあった。
「幸四郎、ごめんね。心配かけちゃったね」
「いえ、正直嬉しい位です。僕みたいな弱虫でも、耀子先輩の力になれるのなら」
「幸四郎は弱虫じゃないわ。弱虫で臆病なのは私の方よ」
「そんなことないです。謙遜なんて、耀子先輩らしくないですよ」
「謙遜じゃないわ。今度と云う今度は、嫌と云うほど思い知らされたわ……。私は本当に憶病者だってことを……」
「またぁ」
「嘘じゃないわ……。そうね、折角だから聞いてくれる。私の泣き言を……。幸四郎なら、私も強がらずに、素直に話せそうな気がするの……」
 僕は、耀子先輩を臆病者だなんて決して思っていない。でも、僕に弱音を語ってくれるのは正直嬉しい。なんか、凄く信頼されている様な……、姫を護る騎士にでもなった様な気分だ。

「幸四郎も知っている様に、私は危険を知る力があるの。それは私の生まれる前から備わっている私自身の力。この力の熟練に関しては誰にも負けはしない。相手の強さや能力、罠の有無や奇襲の用意、たとえ相手が見えなくても、脅威の質で、それが誰であるかすらも、ある程度なら当てることが出来る。
 私はこの能力を、ずっと長い間、大したことないと思っていたの。でも、実はこれは無敵の力だった……。『敵を知り、己を知らば、百戦危うからず』って云うでしょう?
 勿論、私より強い敵もいたわ。その時、私は、何度も何度も戦術をシミュレーションして、勝つことの出来る方法……、即ち、脅威がゼロになる作戦を見つけた上で、敵に挑むことが出来たのよ……」

 成程……。
 勝ちを予知した上で戦うのであれば負けることはない。確かに、これは無敵の能力じゃないか……。

「つまり、私は勝てると分かってる戦いしか、今までは、したことが無かった……」
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登場人物紹介

要耀子


某医療系大学看護学部四回生。ミステリー愛好会に所属する謎多き女性。

橿原幸四郎


某医療系大学医学部二回生。ミステリー愛好会所属。

加藤亨


某医療系大学医学部四回生。ミステリー愛好会部長。

中田美枝


某医療系大学薬学部四回生。ミステリー愛好会副部長。

是枝啓介


某医療系大学医学部四回生。ミステリー愛好会の会員。

柳美海


某医療系大学医学部三回生。ミステリー愛好会の会員。

大友善次郎


民宿大友主人。加藤部長の知り合い。

一朗太


島の漁師、茂吉の息子。因襲に囚われない考え方の出来る賢い少年。耀子たちと共に、鳥憑きの謎を追う。

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