第七項 クロミズとの激戦
文字数 2,156文字
僕がバルザタールに向かってジープを飛ばしているとき、縛り上げられたクレナとフェルトは、レジスタンス本部にいました。ここの責任者、支部長のガラタンがクロミズの仕官と会っているのです。既にリジルを引き渡し、今は僕を捉えるための算段をしているのです。ガラタンの前には、大金が詰め込まれたアタッシュケースが置かれています。
お金と、アメリカの市民権に目が眩んだ3名のレジスタンス幹部が、クロミズの仕官と亡命の手筈を話し合っています。
「いざとなれば、あの2人を盾にすればいい」
僕がフェルトを娘のように想っていること、クレナと恋仲であることが、ガラタンたちには望ましいことなのでしょう。彼らは既に勝ったつもりで、下卑た笑いをしていました。か弱い女子供を縛り上げて……
村は臨戦態勢でした。クロミズだけでなく、僕がこれまでの戦いで国連軍から接収した車両や銃器で武装した兵士たちが、僕の到着を待っているのです。
「奴だ!奴が来たぞ!」
僕はそう叫びました。正確には、そう録音したテープを再生したのです。特殊部隊が相手な時点で、高度な小細工は通用しません。最新技術を使えば使うほど、彼らに見抜かれてしまいます。彼らは常に、最新だったり高度だったりする攻撃に備えているのですから。では、ちょっと時代遅れな方法だったらどうでしょう?村の何箇所に仕掛けた、音声再生機のタイマーを、もともと設定していたら?クレナが脱出前にリモコン操作し、電源を入れておくことができたら?
レジスタンスとクロミズの混成部隊だから、これは通用しました。お互いに相手の顔や声を把握している訳ではないので、声に反応してしまうのです。僕が到着する前に、僕の捜索が始まりました。そしてすぐに、レジスタンスとクロミズの小競り合いが始まるのです。
え?ここまで準備していて、なんで敢えて、敵の陽動に引っかかったのかって?それは簡単なことです。彼らは僕が”陽動に引っかからない”ケースも想定していた。だから無理に逃げようとしても、相手の意表を突けない。意表を突かなければ、いずれ落い詰められてしまうでしょう。だから敢えて陽動に乗って、別の手段で戦うのです。
僕は直接の救出には向かいませんでした。村の広場にジープで突っ込み、両手に握ったサブマシンガンを乱射しました。踊るように、クルクルと回転しながら、周囲の敵に銃弾の雨を降らすのです。
特殊部隊であれ、レジスタンスであれ、奇襲で放たれる銃弾を完璧に避けることはできません。近くに物陰があって、そこに隠れられるような幸運の持ち主だけが、辛うじて生き残れたでしょう。マシンガンを捨てた僕は、すぐに両脇のホルスターからオートマチックの拳銃を2丁抜きます。そして走りながら、隠れている敵の近くを通るついでに、引き金を引きます。頭を撃ち抜かれた敵、脚や腹を撃たれてのたうち回る敵、彼らを尻目に僕は暴れ続けました。
奇襲がひと段落する頃、僕が拳銃のマガジンを交換するタイミングですが、さすがに反撃が始まります。リジルが収容されたであろうヘリのすぐ近くまで来て、僕は敵の射撃に足止めされます。
「撃ち続けろ!」「殺せ!殺すんだ!!」
そんな叫び声が聞こえます。バカスカバカスカと連射、レジスタンスの経済力ではできない、無駄撃ちで身動きができません。でも、クロミズはこの連射で僕を倒せるとは考えていないでしょう。必ずスナイパーが狙っているはずです。
そんな身動きができない僕に代わって
「おらおらぁ!」「いくぜ!野郎ども!!」
僕とは違う、低い声のおじさんたちが突撃してきます。僕を狙って密集した部隊の背後から、一斉に襲いかかるのです。僕に習った射撃術で、喧嘩友達のイザークが大暴れするのです。ヘリのローターが回転を始め、轟音が響く中、乾いた銃声が反響し続けます。
「さっさと小僧を救出しろ!」
イザークが叫び、僕はヘリに突撃します。ほんの一瞬、スナイパーが躊躇している隙を突いて、まさに飛び立とうとするヘリに飛びつきました。離陸する振動で振り落とされそうでした。でも必死でスキッド(着陸用の脚の部分)にしがみつき、よじ登るのです。でも、そんな僕に気づいたヘリの副操縦士が、扉を開けて僕に拳銃を向けます。ぶら下がる僕の顔に向けられる銃口。銀色の悪魔を召喚しようとしたそのとき、リジルがタックルしました。
縛られ、猿轡されたリジルが、副操縦士の背中に思いっきりぶつかりました。そのまま2人はヘリから落ちて……
「リジルーーー!!」
僕は叫んで飛び降りました。でも、落ちる速度が同じなので、リジルに追いつくことが出来ません。僕の方が重いけど、重さは落下速度に影響しません。地面に激突するときの運動量やエネルギーは重さに比例しますが、落下速度は重力加速度と時間の積なので……
そんな、ピサの斜塔での実験を思い出しながら、僕は泣きながら叫びました!
「カイン!」
咄嗟に銀色の悪魔を、”カイン”と呼んで召喚しました。その時のカインは……刺々しくて刃物のようなシルバーではなく、全ての可視光が混ざって、きれいになった白色のシルバーでした。六枚の翼を羽ばたかせ、僕とリジルを優しく大地に降ろしてくれたのです。
お金と、アメリカの市民権に目が眩んだ3名のレジスタンス幹部が、クロミズの仕官と亡命の手筈を話し合っています。
「いざとなれば、あの2人を盾にすればいい」
僕がフェルトを娘のように想っていること、クレナと恋仲であることが、ガラタンたちには望ましいことなのでしょう。彼らは既に勝ったつもりで、下卑た笑いをしていました。か弱い女子供を縛り上げて……
村は臨戦態勢でした。クロミズだけでなく、僕がこれまでの戦いで国連軍から接収した車両や銃器で武装した兵士たちが、僕の到着を待っているのです。
「奴だ!奴が来たぞ!」
僕はそう叫びました。正確には、そう録音したテープを再生したのです。特殊部隊が相手な時点で、高度な小細工は通用しません。最新技術を使えば使うほど、彼らに見抜かれてしまいます。彼らは常に、最新だったり高度だったりする攻撃に備えているのですから。では、ちょっと時代遅れな方法だったらどうでしょう?村の何箇所に仕掛けた、音声再生機のタイマーを、もともと設定していたら?クレナが脱出前にリモコン操作し、電源を入れておくことができたら?
レジスタンスとクロミズの混成部隊だから、これは通用しました。お互いに相手の顔や声を把握している訳ではないので、声に反応してしまうのです。僕が到着する前に、僕の捜索が始まりました。そしてすぐに、レジスタンスとクロミズの小競り合いが始まるのです。
え?ここまで準備していて、なんで敢えて、敵の陽動に引っかかったのかって?それは簡単なことです。彼らは僕が”陽動に引っかからない”ケースも想定していた。だから無理に逃げようとしても、相手の意表を突けない。意表を突かなければ、いずれ落い詰められてしまうでしょう。だから敢えて陽動に乗って、別の手段で戦うのです。
僕は直接の救出には向かいませんでした。村の広場にジープで突っ込み、両手に握ったサブマシンガンを乱射しました。踊るように、クルクルと回転しながら、周囲の敵に銃弾の雨を降らすのです。
特殊部隊であれ、レジスタンスであれ、奇襲で放たれる銃弾を完璧に避けることはできません。近くに物陰があって、そこに隠れられるような幸運の持ち主だけが、辛うじて生き残れたでしょう。マシンガンを捨てた僕は、すぐに両脇のホルスターからオートマチックの拳銃を2丁抜きます。そして走りながら、隠れている敵の近くを通るついでに、引き金を引きます。頭を撃ち抜かれた敵、脚や腹を撃たれてのたうち回る敵、彼らを尻目に僕は暴れ続けました。
奇襲がひと段落する頃、僕が拳銃のマガジンを交換するタイミングですが、さすがに反撃が始まります。リジルが収容されたであろうヘリのすぐ近くまで来て、僕は敵の射撃に足止めされます。
「撃ち続けろ!」「殺せ!殺すんだ!!」
そんな叫び声が聞こえます。バカスカバカスカと連射、レジスタンスの経済力ではできない、無駄撃ちで身動きができません。でも、クロミズはこの連射で僕を倒せるとは考えていないでしょう。必ずスナイパーが狙っているはずです。
そんな身動きができない僕に代わって
「おらおらぁ!」「いくぜ!野郎ども!!」
僕とは違う、低い声のおじさんたちが突撃してきます。僕を狙って密集した部隊の背後から、一斉に襲いかかるのです。僕に習った射撃術で、喧嘩友達のイザークが大暴れするのです。ヘリのローターが回転を始め、轟音が響く中、乾いた銃声が反響し続けます。
「さっさと小僧を救出しろ!」
イザークが叫び、僕はヘリに突撃します。ほんの一瞬、スナイパーが躊躇している隙を突いて、まさに飛び立とうとするヘリに飛びつきました。離陸する振動で振り落とされそうでした。でも必死でスキッド(着陸用の脚の部分)にしがみつき、よじ登るのです。でも、そんな僕に気づいたヘリの副操縦士が、扉を開けて僕に拳銃を向けます。ぶら下がる僕の顔に向けられる銃口。銀色の悪魔を召喚しようとしたそのとき、リジルがタックルしました。
縛られ、猿轡されたリジルが、副操縦士の背中に思いっきりぶつかりました。そのまま2人はヘリから落ちて……
「リジルーーー!!」
僕は叫んで飛び降りました。でも、落ちる速度が同じなので、リジルに追いつくことが出来ません。僕の方が重いけど、重さは落下速度に影響しません。地面に激突するときの運動量やエネルギーは重さに比例しますが、落下速度は重力加速度と時間の積なので……
そんな、ピサの斜塔での実験を思い出しながら、僕は泣きながら叫びました!
「カイン!」
咄嗟に銀色の悪魔を、”カイン”と呼んで召喚しました。その時のカインは……刺々しくて刃物のようなシルバーではなく、全ての可視光が混ざって、きれいになった白色のシルバーでした。六枚の翼を羽ばたかせ、僕とリジルを優しく大地に降ろしてくれたのです。