第二項 空を奪う

文字数 1,400文字

 さてさて、お話を現在に戻します。僕は空港を舞台にして、クロミズと戦っていました。アルビジョワ共和国には、空港がひとつしかありません。首都バチスアン・ブックスの最西端に、文民両用のトレヴィダ空港があるだけです。
「航空部隊の増援を妨害したい。アルビジョワでのさばっている富裕層や軍人を逃したくない!」
そう考えた僕は、空港を爆破することにしました。滑走路と管制塔を破壊できれば、空港としても基地としても機能しなくなります。だから空港を占拠しました。レジスタンスの1個中隊を伴って、利用客を人質にとったことをマスコミにアピールして、施設全体を占拠しました。そして、管制塔とビル施設の地下を通る燃料用の配管に爆弾を仕掛け、空港全体を火の海にする準備を整えました。
 すぐに警察と国連軍に包囲されました。でもそれは計算のうち。人質となる利用客や空港職員1200人を無条件で開放してみました。もちろん、「30分以内に空港を爆破する」という、おまけ情報を吹聴してからですが……
 するとどうでしょう。我先にと逃げる市民でパニックになり、すぐに収集がつかなくなりました。警察と国連軍はそもそも連携できておらず、マスコミまでいたので、ただただ騒然としていました。
 こんな状況では、空港内に侵入してレジスタンスと戦うなんてできません。それができるとしたら、クロミズの特殊部隊くらいです。
 アサルトライフルやサブマシンガン、接近戦用のショットガンで武装した精鋭部隊です。真っ向からぶつかっても、勝ち目はありません。だから僕がとった作戦は、「撤退し続ける」というものです。
 広いロビーで始まった銃撃戦。前衛が弾切れになったら、後衛が援護しつつ、撤退を開始します。それも一気に逃げるのではなく、ジリジリと交代するのです。そう、「レジスタンスが押されている」ように見えるように、演出するのです。
 自分たちが優勢であれば、余計な策略を追加されないでしょう。装備と人数、つまり物量で勝る特殊部隊は、力押しで来てくれるはずです。僕はそれに賭けて戦いました。こちらが不利で、焦っているかのように振る舞いました。
 戦闘開始から30分位経過したとき、僕たちは管制塔に入らずに、滑走路側に逃げました。管制塔を傷つけたくない敵兵は、これ幸いと安堵したようです。一部の兵は管制室の占拠に向かいます。また、レジスタンスが空港施設には入れないよう、施設入口で防衛体制に入ります。
 ここまで誘い込んだあと、僕は爆破の指示を出しました。滑走路側も無傷ではありませんが、管制塔を含めた空港施設が、とてつもない轟音を上げて吹き飛んだのです。耳栓をしていたのに、しばらく音が聞こえませんでした。
 空港施設とともに、投入した特殊部隊が壊滅し、ナバラ少佐は先のセリフを吐いたのです。
「どういうことだ?敵は素人ではないのか?」
寄せ集め集団であるレジスタンスと、たったひとりの異能者。彼からすれば、特殊部隊を誘い込んで爆破するなんて、考えられなかったのでしょう……
 でも、僕は異能者であると同時に、クロミズに所属していた戦闘のプロでした。だから彼らが実力を発揮できないようにして、僕たちが実力以上の成果を挙げられるように、知恵を巡らせたのです。

 部隊を失い、追い詰められたナバラ少佐は、僕が目の前に現れたとき、あの注射を首に突き立てました。
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登場人物紹介

主人公の少年。

他のシリーズでは「蓮野久季(はすのひさき)(21?)」と名乗っていた。

本名は明かされないが、2章以降では”シーブック”と名づけられる。

セシル・ローラン(17)

”恋人ごっこ”に登場し、蓮の辛い過去を暴いて苦しめた女性。

本編では、蓮と出会い、惹かれ、壊れる様子が語られる。

閉じた輪廻が用意した、蓮を苦しめるための女性。

リジル(14)

アルビジョワ共和国で戦火に見舞われ、両親を失った少年。

妹のフェルトを守るために必死で生きている。蓮と出会い保護された。

水のプラヴァシーを継承し、「恋人ごっこ、王様ごっこ」では”耐え難き悲しみの志士(サリエル)”となって戦った。

フェルト(5)

リジルの妹。戦争で両親を亡くし、また栄養失調から発育が遅れている。

リジルと蓮に無邪気に甘える姿が、蓮の中に眠る前世の記憶(前世の娘)を呼び起こす。

この幼女の存在が、リジルを強くし、蓮に優しさを取り戻させる。

クレナ・ティアス(24)

アルビジョワで蓮が出会う、運命の女性。

レジスタンスの参謀として活躍する、聡明な女性。

アルビジョワ解放戦争の終盤、非業の死を遂げ、永遠に消えない蓮の瑕となる。

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