第一項 長期休暇
文字数 1,338文字
両親を失ってから、異能に目覚めたあの日から、僕の生活は変わりました。
戦闘と、訓練と……それまでの日本人特有の、親や社会に敷かれたレールの上でお勉強する日々ではなくなりました。安全な日本に暮らしながら、少年兵のような生活をしていました。といっても、世界は経済不況からくる政治不安で、第三次世界大戦が始まるって騒ぎ始めていましたが。
第一次世界大戦で4000万人、第二次世界大戦で6600万人が亡くなったと言われています。それじゃあ、第三次世界大戦になったら?どれだけの人間が死ぬんだろう。どれだけの人間が、戦後の貧困やPTSDで苦しむんだろう……
学生の頃と変わらないのは、それらが全て他人事のように感じられること。殺伐とした戦いの世界、鉄と火薬の臭いしかしない世界にあって、僕は全てに無関心になっていた。
無関心?いや、そうじゃないな。僕にも気になることがある。この左手に宿った烙印と、それを埋め込んだ敵のことだ。
「調子はどう?シーブック」
セシルさんが僕の部屋に入ってきました。セシル・ローラン少尉。僕を救出し、僕の監視役であるお嬢様。
シーブック……よくわからないが、組織で付けられた僕の名前。”C-Book”って、なんの意味があるのだろう?コードネームにしても、ひねりがない。恐らくこの烙印に由来する”C”というものがあって、僕はその本なのだろう。訓練や戦闘を経て、銀色の悪魔を使いこなし、情報を引き出すインターフェースである僕。それを本に見立てているのだろう。
「迷惑な話だ」
「え?何か言った?」
「いえ、なにも。それより、なにか御用ですか?少尉」
「少尉はやめてよ。ふたりだけのときは、セシルでいいわ」
そう言って彼女は、照れたように可愛らしく微笑んで見せる。何をたくらんでか知らないが、やたらと僕にべたべたしてくる。
「今日はね。いい知らせがあるの」
「いい知らせ?」
「そう。貴方に休暇を与えるって本部から」
「休暇……」
そういえば、あの日からずっと、戦い続けてた。鍛え続けていた。半年近く、休みを取ったことはない。もちろん、銃弾を食らったり、裂傷や骨折したときは、病室で休暇みたいな時間があったけど……
あの日以来、多くの戦場に行った。組織が僕をモルモットのように見ていることに、僕は気づいていた。肉体的な訓練、筋トレや持久力強化だったり、格闘技や銃器の扱いは教えてくれた。だが、車の運転やコンピュータ、外国語なんかはあまり教えてくれない。任務に必要な最低限しか、僕に情報を与えない。
『知ることは強さになる』
僕の中で語り続ける大人の声。彼の声に従い、時には心の中で相談して、僕は自分を鍛えていた。いつか本当のことを知るために、知った後に、やりたいことをやるために。
「休暇、嬉しいですね。セシルさん、どこか遊びに連れて行ってくれるんですか?」
そう言って、偽りの笑顔を見せて、僕は彼女を利用する。任務で守ってあげただけなのに、何かを勘違いして好意を寄せてくれる女性。普段はそれが、他のメンバーの目に付いてしまうけど、こういうときは利用できる。だから僕は、次なる悪意に立ち向かう決意を嘘笑顔にのせて、次の一歩を踏み出すんだ。
戦闘と、訓練と……それまでの日本人特有の、親や社会に敷かれたレールの上でお勉強する日々ではなくなりました。安全な日本に暮らしながら、少年兵のような生活をしていました。といっても、世界は経済不況からくる政治不安で、第三次世界大戦が始まるって騒ぎ始めていましたが。
第一次世界大戦で4000万人、第二次世界大戦で6600万人が亡くなったと言われています。それじゃあ、第三次世界大戦になったら?どれだけの人間が死ぬんだろう。どれだけの人間が、戦後の貧困やPTSDで苦しむんだろう……
学生の頃と変わらないのは、それらが全て他人事のように感じられること。殺伐とした戦いの世界、鉄と火薬の臭いしかしない世界にあって、僕は全てに無関心になっていた。
無関心?いや、そうじゃないな。僕にも気になることがある。この左手に宿った烙印と、それを埋め込んだ敵のことだ。
「調子はどう?シーブック」
セシルさんが僕の部屋に入ってきました。セシル・ローラン少尉。僕を救出し、僕の監視役であるお嬢様。
シーブック……よくわからないが、組織で付けられた僕の名前。”C-Book”って、なんの意味があるのだろう?コードネームにしても、ひねりがない。恐らくこの烙印に由来する”C”というものがあって、僕はその本なのだろう。訓練や戦闘を経て、銀色の悪魔を使いこなし、情報を引き出すインターフェースである僕。それを本に見立てているのだろう。
「迷惑な話だ」
「え?何か言った?」
「いえ、なにも。それより、なにか御用ですか?少尉」
「少尉はやめてよ。ふたりだけのときは、セシルでいいわ」
そう言って彼女は、照れたように可愛らしく微笑んで見せる。何をたくらんでか知らないが、やたらと僕にべたべたしてくる。
「今日はね。いい知らせがあるの」
「いい知らせ?」
「そう。貴方に休暇を与えるって本部から」
「休暇……」
そういえば、あの日からずっと、戦い続けてた。鍛え続けていた。半年近く、休みを取ったことはない。もちろん、銃弾を食らったり、裂傷や骨折したときは、病室で休暇みたいな時間があったけど……
あの日以来、多くの戦場に行った。組織が僕をモルモットのように見ていることに、僕は気づいていた。肉体的な訓練、筋トレや持久力強化だったり、格闘技や銃器の扱いは教えてくれた。だが、車の運転やコンピュータ、外国語なんかはあまり教えてくれない。任務に必要な最低限しか、僕に情報を与えない。
『知ることは強さになる』
僕の中で語り続ける大人の声。彼の声に従い、時には心の中で相談して、僕は自分を鍛えていた。いつか本当のことを知るために、知った後に、やりたいことをやるために。
「休暇、嬉しいですね。セシルさん、どこか遊びに連れて行ってくれるんですか?」
そう言って、偽りの笑顔を見せて、僕は彼女を利用する。任務で守ってあげただけなのに、何かを勘違いして好意を寄せてくれる女性。普段はそれが、他のメンバーの目に付いてしまうけど、こういうときは利用できる。だから僕は、次なる悪意に立ち向かう決意を嘘笑顔にのせて、次の一歩を踏み出すんだ。