第四項 亀裂

文字数 764文字

 メアリさんと過ごすようになり、いろいろなことが変わりました。僕は自分が寂しかったんだと自覚するようになり、一層彼女に溺れていったのです。
 部屋に盗聴器があることは認識していました。でも、知らないふりをしながら、僕は彼女と夜を共にしていました。悪趣味なヴィルヘルムは、僕たちの営みを鑑賞して満足していました。しかし、セシルさんは違いました。
 彼女は僕たちの関係を知りません。でも、明らかに様子が変わった僕たちを不審に思っていました。僕を問い詰めることができないセシルさん。彼女はもっともいじめやすい、メアリさんにあたるようになりました。
 女性のいじめって、男性視点で見ても、気分のいいものではありません。女性からしても、他人をいじめる男性を”素敵!”とはならないでしょ?お店の店員さんとかに横柄な男性とかに、引くときがありませんか?
 僕はメアリさんに感情移入していました。だから一層、セシルさんのいじめが赦せませんでした。メアリさんを庇い、セシルさんを軽蔑する態度を出してしまいました。これにセシルさんが怒り、フラストレーションが最大になったとき、ヴィルヘルムは最後の手段に出ました。
 僕とメアリさんの営みを、録画したそれを、セシルさんに見せたのです……
 セシルさんの部屋に録画ディスクを置いておき、疑問に思った彼女が見るように仕向けたのです。怒り狂ったセシルさんは、メアリさんの部屋に押しかけました。彼女の部屋に飛び込んで、彼女を殴りつけました。立場の弱いメアリさんは抵抗することができず、大きな花瓶で頭を叩き割られるまで、セシルさんの暴力にさらされました。
 その晩から、メアリさんは僕の部屋に来なくなりました。僕は彼女が入院したことも知らされず、屋敷から姿を消した彼女のことを、ただただ待ち続けていました……
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登場人物紹介

主人公の少年。

他のシリーズでは「蓮野久季(はすのひさき)(21?)」と名乗っていた。

本名は明かされないが、2章以降では”シーブック”と名づけられる。

セシル・ローラン(17)

”恋人ごっこ”に登場し、蓮の辛い過去を暴いて苦しめた女性。

本編では、蓮と出会い、惹かれ、壊れる様子が語られる。

閉じた輪廻が用意した、蓮を苦しめるための女性。

リジル(14)

アルビジョワ共和国で戦火に見舞われ、両親を失った少年。

妹のフェルトを守るために必死で生きている。蓮と出会い保護された。

水のプラヴァシーを継承し、「恋人ごっこ、王様ごっこ」では”耐え難き悲しみの志士(サリエル)”となって戦った。

フェルト(5)

リジルの妹。戦争で両親を亡くし、また栄養失調から発育が遅れている。

リジルと蓮に無邪気に甘える姿が、蓮の中に眠る前世の記憶(前世の娘)を呼び起こす。

この幼女の存在が、リジルを強くし、蓮に優しさを取り戻させる。

クレナ・ティアス(24)

アルビジョワで蓮が出会う、運命の女性。

レジスタンスの参謀として活躍する、聡明な女性。

アルビジョワ解放戦争の終盤、非業の死を遂げ、永遠に消えない蓮の瑕となる。

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