第六項 閉じた輪廻

文字数 1,178文字

 墜落したヘリから、この空爆を指揮した輩が這い出してきた。僕はそいつを殺そうと、引き裂いてやろうと近づいた。
 そして、顔を上げた彼女を見て、すべてを理解した。

 「セシル……」

 そう、クロミズがリジルを連れ去ろうとした日から、セシルはいなくなっていた。彼女はクロミズに回収されていたのです。僕は彼女がいないことに気づきながら、見てみぬ振りをした。あの戦いで亡くなった程度に考え、それ以上は考えなかった。
 見捨てました…

 だが、彼女との縁は、そんなに簡単なものではなかった。彼女は僕を、カインの魂の転生体を苦しめるために追いかけてくる、僕を苦しめるためだけに存在する女性なのだ……
 なんでそんなことが言えるのかって?それは、僕の中で目覚めたセト、僕の直近の前世が気づいたから……
 悲しみにくれた女性と出会い、守ってきた彼。彼女のもたらす不幸に立ち向かっていた。そして結婚し、娘を授かった。娘を愛し、家庭を大切にする彼を、彼女は裏切り引き裂いた……
 娘を人質にする彼女に心を裂かれ、殺されたのだ……
 あの女性と同じ目を、表情をしていた。同じ魂の波長が、僕の魂に纏わり着こうとしていた……
 彼女は何度も生まれ変わり、僕の前世たちと出会い続けた。出会い、恋に落ち、そして僕を不幸にし続ける……
 大いなる始祖、カインは2つに裂かれた。異能を具象化した”争いのプラヴァシー”と、カイン自体の魂。
 神の罰で、カインは「永遠に苦しむこと」を義務付けられた。だから身体が滅びると、魂だけが残って転生するのだ。カインは転生を続ける。その転生体である僕たちには、前世があるのだ……
 神はカインの魂に苦しみを与えた。それは刹那的な苦しみではない。永遠に繰り返せるものだ。だからカインが転生するたびに、隣に彼女の居場所をつくる。生まれ、出会い、苦しむ連鎖を続けられるように……
 カインが苦しむ様を見たいのではない。「苦しめ続けること」が重要なのだ。

 今更気づいた。こいつが僕の両親を化け物にしたんだ!
 僕を監視し、僕の家族を調べて捕らえ、生物実験で化け物にした。
 そしてその2人を、両親を、僕の手で殺させた!!

 「許さない!あんたが幸せになることだけは、絶対に許さない!!」
歯を食いしばりながら叫ぶセシル。
「なんど生まれ変っても、必ずあんたを不幸にしてやる!!」
 彼女の頭上に瓦礫が降ってきた。咄嗟に僕は彼女を封印した。どうやったのか、自分でもわからなかったけど、彼女を亜空間に閉じ込めた……
 本当は、瓦礫の下敷きになって死んでくれればいいのに、何故か助けてしまった。どうやら彼女の役割は、僕を苦しめるというそれは、終わっていないらしい……

 街が燃え尽きるまで、炎の中で叫び続けた。
 本物の化け物として、ただただ叫び続けた。
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登場人物紹介

主人公の少年。

他のシリーズでは「蓮野久季(はすのひさき)(21?)」と名乗っていた。

本名は明かされないが、2章以降では”シーブック”と名づけられる。

セシル・ローラン(17)

”恋人ごっこ”に登場し、蓮の辛い過去を暴いて苦しめた女性。

本編では、蓮と出会い、惹かれ、壊れる様子が語られる。

閉じた輪廻が用意した、蓮を苦しめるための女性。

リジル(14)

アルビジョワ共和国で戦火に見舞われ、両親を失った少年。

妹のフェルトを守るために必死で生きている。蓮と出会い保護された。

水のプラヴァシーを継承し、「恋人ごっこ、王様ごっこ」では”耐え難き悲しみの志士(サリエル)”となって戦った。

フェルト(5)

リジルの妹。戦争で両親を亡くし、また栄養失調から発育が遅れている。

リジルと蓮に無邪気に甘える姿が、蓮の中に眠る前世の記憶(前世の娘)を呼び起こす。

この幼女の存在が、リジルを強くし、蓮に優しさを取り戻させる。

クレナ・ティアス(24)

アルビジョワで蓮が出会う、運命の女性。

レジスタンスの参謀として活躍する、聡明な女性。

アルビジョワ解放戦争の終盤、非業の死を遂げ、永遠に消えない蓮の瑕となる。

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