第一項 決戦の地、首都(バスチアン・ブックス)
文字数 1,813文字
「どういうことだ?敵は素人ではないのか?」
バスチアン・ブックスの守備に参加する治安維持部隊であり、クロミズ最強部隊であるEXIAを率いる男性。後に悪の爪(マレブランケ)のリーダー、マラコーダとなるナバラ・ケルコバート少佐は、僕たちとの戦いで追い詰められていました。彼はアルビジョワ共和国における、EXIAの現場監督です。もともと参謀として活躍した智謀の持ち主で、内紛が発生するまでの工作や戦闘指揮は完璧の一言に尽きる司令官でした。ただ、クロミズに指示を出す教導団(オートポル)から、彼が現れたことで事態は変わりました。戦闘の最中ですが、経緯が気になると思いますので、まずは2か月前のお話をさせてください。
「こちらは?」
ナバラ少佐は、突然現れた見知らぬ上官に戸惑っていました。というより、面白くなかったのです。アルビジョワ共和国の大統領付き参謀という立場で、政治と国連軍を裏で操っていた少佐。事実上支配者であった彼は、突然権力を失ったような感覚に襲われていたのです。しかし
「このお方は、”ヘリオポリスの守護賢者”です。オートポルから特別にお越しいただきました」
御付の仕官が口から出てきたのは、”教導団”という、クロミズにとって絶対の存在でした。
「オートポルから?それは一体……」
「私から話そう。君はここまで、本当にうまくここを管理してくれた。だからこその方針転換だ。中東の紛争地帯に建国されたアルビジョワ。外貨の獲得とインフラの整備、市民は生活水準が向上し、満たされ始めている」
「そうです。穏やかに、確実に支配は進んでいます。敵対するのではなく、文化的に、文明的に彼らを思想から取り込んでいます」
「だからこそだ。皆が幸せを感じ始めたこのタイミングが、最適なのだよ」
「最適?何をです?」
「奪うタイミングだよ。ここで内紛が発生し、以前と同じ……いや、前以上に悲惨な紛争に巻き込まれたら、市民はどうなるだろうな?」
「それは……失望し、怒りに任せた戦闘になると」
「惜しいな。怒りで戦うとしたら、現地の住民だ。それでは数が足りない」
「数ですか?」
「そうだ。我々は社会を染め上げたいのだ。このアルビジョワ共和国という範囲(エリア)を。それにはより大勢の人間の、欲に狂った暴走が必要なのだよ」
「はあ……」
「すでに先進国間に利権の楔を打っておいた。このガスパイプライン利権を巡って、各国の関係は最悪の状態に陥ることができた。アメリカと欧州は自国の取り分を主張し、蚊帳の外に出されたロシアと中国は、水面下で内紛を誘発させようとしている。そして、もともとこの利権を有していた中東諸国も、経済的打撃に耐えられず、国内情勢が不安定だ。しかし彼らは国家間の戦争を望まない。あくまで他国の領土で戦い、利権を獲得したいのだ。つまり、現地で暮らす人々を置き去りにして、各国は紛争を幇助し、戦争を始めるのだ。どうだ?これぞ”傲慢”の極みだろう?」
傲慢:七つの滞在のひとつで、”謙譲”と終をなすもの。おごりたかぶって他者を見下し、踏みにじる心の様子。
「おっしゃるとおりですね……無知と貧困でこの地を、多民族を支配し、自己の利益のために虐殺を行うこの社会は、”傲慢”に染まり上がるのでしょうね……」
「そうだ。だから君には、わざと内紛を誘発させて欲しい。国連軍が不正や略奪をしても、中国やロシアの暗躍に気づいても、見て見ぬふりをして欲しい。いや、むしろその機会を活用して、この国を舞台に世界を悪意で染めて欲しいのだ」
「……承知致しました……」
なぜ、こんなことをしなければいけないのか?他国を、多民族を順調に支配できれば問題ないのではないか?ナバラ少佐はそう考えていました。ただ、目の前にいるオートポルの幹部の前で、それを口にすることはできませんでした。一種の狂信的な異常性を感じたナバラ少佐は、そもそも会話が噛み合わないであろうこと、そして自身の保身を考えました。だから黙って、指示に従うことにしたので。そして各地で暴動やテロを誘発させ、市民の感情を操って、アルビジョワ共和国を崩壊へと導いたのです。
「戦争の継続が必要だ。市民を無知のままにして、貧困に留めることができる。それだけで、今の国際情勢を、体制を維持できる。人類の傲慢を、加速させられる……」
そんな彼と、遂に僕は戦うことになったのです。
バスチアン・ブックスの守備に参加する治安維持部隊であり、クロミズ最強部隊であるEXIAを率いる男性。後に悪の爪(マレブランケ)のリーダー、マラコーダとなるナバラ・ケルコバート少佐は、僕たちとの戦いで追い詰められていました。彼はアルビジョワ共和国における、EXIAの現場監督です。もともと参謀として活躍した智謀の持ち主で、内紛が発生するまでの工作や戦闘指揮は完璧の一言に尽きる司令官でした。ただ、クロミズに指示を出す教導団(オートポル)から、彼が現れたことで事態は変わりました。戦闘の最中ですが、経緯が気になると思いますので、まずは2か月前のお話をさせてください。
「こちらは?」
ナバラ少佐は、突然現れた見知らぬ上官に戸惑っていました。というより、面白くなかったのです。アルビジョワ共和国の大統領付き参謀という立場で、政治と国連軍を裏で操っていた少佐。事実上支配者であった彼は、突然権力を失ったような感覚に襲われていたのです。しかし
「このお方は、”ヘリオポリスの守護賢者”です。オートポルから特別にお越しいただきました」
御付の仕官が口から出てきたのは、”教導団”という、クロミズにとって絶対の存在でした。
「オートポルから?それは一体……」
「私から話そう。君はここまで、本当にうまくここを管理してくれた。だからこその方針転換だ。中東の紛争地帯に建国されたアルビジョワ。外貨の獲得とインフラの整備、市民は生活水準が向上し、満たされ始めている」
「そうです。穏やかに、確実に支配は進んでいます。敵対するのではなく、文化的に、文明的に彼らを思想から取り込んでいます」
「だからこそだ。皆が幸せを感じ始めたこのタイミングが、最適なのだよ」
「最適?何をです?」
「奪うタイミングだよ。ここで内紛が発生し、以前と同じ……いや、前以上に悲惨な紛争に巻き込まれたら、市民はどうなるだろうな?」
「それは……失望し、怒りに任せた戦闘になると」
「惜しいな。怒りで戦うとしたら、現地の住民だ。それでは数が足りない」
「数ですか?」
「そうだ。我々は社会を染め上げたいのだ。このアルビジョワ共和国という範囲(エリア)を。それにはより大勢の人間の、欲に狂った暴走が必要なのだよ」
「はあ……」
「すでに先進国間に利権の楔を打っておいた。このガスパイプライン利権を巡って、各国の関係は最悪の状態に陥ることができた。アメリカと欧州は自国の取り分を主張し、蚊帳の外に出されたロシアと中国は、水面下で内紛を誘発させようとしている。そして、もともとこの利権を有していた中東諸国も、経済的打撃に耐えられず、国内情勢が不安定だ。しかし彼らは国家間の戦争を望まない。あくまで他国の領土で戦い、利権を獲得したいのだ。つまり、現地で暮らす人々を置き去りにして、各国は紛争を幇助し、戦争を始めるのだ。どうだ?これぞ”傲慢”の極みだろう?」
傲慢:七つの滞在のひとつで、”謙譲”と終をなすもの。おごりたかぶって他者を見下し、踏みにじる心の様子。
「おっしゃるとおりですね……無知と貧困でこの地を、多民族を支配し、自己の利益のために虐殺を行うこの社会は、”傲慢”に染まり上がるのでしょうね……」
「そうだ。だから君には、わざと内紛を誘発させて欲しい。国連軍が不正や略奪をしても、中国やロシアの暗躍に気づいても、見て見ぬふりをして欲しい。いや、むしろその機会を活用して、この国を舞台に世界を悪意で染めて欲しいのだ」
「……承知致しました……」
なぜ、こんなことをしなければいけないのか?他国を、多民族を順調に支配できれば問題ないのではないか?ナバラ少佐はそう考えていました。ただ、目の前にいるオートポルの幹部の前で、それを口にすることはできませんでした。一種の狂信的な異常性を感じたナバラ少佐は、そもそも会話が噛み合わないであろうこと、そして自身の保身を考えました。だから黙って、指示に従うことにしたので。そして各地で暴動やテロを誘発させ、市民の感情を操って、アルビジョワ共和国を崩壊へと導いたのです。
「戦争の継続が必要だ。市民を無知のままにして、貧困に留めることができる。それだけで、今の国際情勢を、体制を維持できる。人類の傲慢を、加速させられる……」
そんな彼と、遂に僕は戦うことになったのです。