プロローグ
文字数 2,898文字
予備校の授業が終わって、僕は友達と4人でゲームセンターにいました。池袋にある、ゲーム会社直営の大型ゲームセンターです。
「そろそろ帰ろうぜ」
左手の腕時計を見ながら、他の3人に声をかけました。朝から授業を受け続け、息抜きのゲームセンター。だけど、最近はゲームセンターで遊ぶために、その前に勉強を頑張っているような、変な感じです。
おっと、気づいたら午後8時を過ぎています。眠いのも仕方ないですね。
「もうこんな時間か~」
腐れ縁のクラスメート、陽二が大きなアクビをして、なんとなくお開きの雰囲気になりました。さすがに他の面々も、疲れがピークのようです。レースゲームの順位も、ガンゲームのスコアも大分低い……というか、コースアウトしたり、ゾンビに咬み殺されてました。
「あ、ねぇねぇ。これだけやって帰ろうぜ!」
出口に向かって先頭を行く、陽二が何かを見つけました。それは生年月日と質問に答えるだけで、運命やら宿命やらを占ってくれる、今流行りの占いゲームでした。
「こんなの、当たる訳ないじゃん。小遣いの無駄使いだよ」
帰りたいし、占いとかちょっと苦手な僕と
「そう言うなって。みんなの受験がどうなるか、機械に占ってもらおうぜ?当たるも八卦、外れるも八卦ってね」
と言う陽二。結局、全員で今後1年の運命を占ってみることになりました。
占い結果を見つめる受験生男子たちは、なんというか、ふざけているフリはしてるけど、その眼差しは真剣でした。だって、今一番の心配事、受験結果を思わせる占いが出るかもしれないのですから……
みんな、占い結果に一喜一憂しながら、ときには無理やり前向きに解釈したりして、志望校への合格にこじつけようとしていました。
「ほらほら。お前もやってみろって」
陽二に促され、僕は占いゲームの前に座りました。内心面倒くさいと思っていましたが、それを友達に悟られないように、表情に出さずに操作していました。生年月日を入力し
「自分を動物に例えると……”猫”かな。好きな武将?”伊達政宗”でいいや……”険しい道、まわり道、緩やかだけど先の見えない道”があって、どれを選ぶか?……僕なら”引き返す”ね」
画面に浮かぶ質問攻撃に、直感で答えていきました。
そんなこんなで20問くらいの質問を完食すると、画面に結果が映し出されました。
「お!結果出たじゃん。読んでくれよ」
「なになに?”あなたは土曜日生まれです。土曜日生まれの基本運は……”試練と栄光”です。試練を経て後に栄光を手にします。ただし”土曜日生まれの試練”は、”日曜日生まれの闇”や”金曜日生まれのピンチ”とは違い、とても厳しいものです。その厳しさゆえに、とても平凡な一生とは言えない運命です」
なんだか、ちょっと面倒くさそうな占い結果が出たようです。受験は大変なことになりそうだし、なによりこの後、みんなにいじられそうで……
「しかし、同時に試練を乗り越えられるだけの資質と能力を授かっています。持てる能力をフルに発揮し、試練を克服したそのときには、他の曜日とは比べものにならない栄光を手に入れることができます。あなたは特別な使命を背負っているのです」
”特別な使命”なんて、みんなの餌食になっちゃうよ。この後、”からかわれるためにハンバーガーショップへGO!”ってなったらどうするのさ。
「あなたが試練を乗り越えられるのか、使命を完遂できるかどうか、宿命に試されているのです。その試練とは、”家が貧しい”、”両親がいない、片親がいない、いてもひどい親”、”友人や教師に恵まれない”、”容姿や服装へのコンプレックス”、”病身や事故”、”裏切り、孤独”、”受験の失敗などさまざまな苦難”となるでしょう」
お!遂に出てきたよ。”受験の失敗”ってさ。これじゃあ、明日からの勉強、モチベーションを維持できないじゃん……
「その厳しさ辛さゆえに試練から逃げたり、誘惑に負けてしまったり、自殺を考える人もいますが、そうするとあなたは破滅に向かいます」
そりゃそうだ。自殺したしたらそれこそ、完全に終わりだよ……
僕が占い結果を読み上げている間、友達は笑いを堪えるのに必死だったようです。”受験失敗”だけでなく、ツッコミどころ満載でしたら。というか、他の面々の占い結果と違いすぎるし、何より文章がメチャクチャ長い!
「なんだよこの結果?」
さすがに僕の声色は、”不愉快だ”って感じになりました。でも、陽二たちはお構いなし。笑いながら僕を茶化すのです。
「すげーな!お前特別な使命を背負ってるんだってよ」
「試練と栄光……お前今年落ちるんじゃねーの?で、一浪していい大学いくとか?」
「でも負けるな!逃げたりしたら、破滅に向かうから」
3人が笑い転げてる。最初は馬鹿にされてるような気分だったけど、みんなが久しぶりに腹の底から笑っていたので、今だけなのかもしれないけど、不安やストレスから解放されているようだったので、僕は苦笑いしながら、ピエロであることを受け入れました。だから
「特別な使命って……冒険の旅にでも出るのか?ったく……とにかくもう帰ろうぜ。9時になっちゃうよ」
ちょっと拗ねたフリをして、駅までの帰り道でネタにされる覚悟を決めて、ゲームセンターを後にすることにしました。
池袋駅の地下、同じ路線の陽二と一緒に、環状線の改札を通過します。他の2人は、埼玉方面の電車です。
「え~っと、明日は英語と数学だっけ?予習……どうしようかな」
「ちゃんとやっとけよ。テキストさらっと見るだけでいいからさ。お前の成績、志望校ギリギリなんだし。じゃあな。明日はここに8時半な!」
反対ホームに向かう陽二が、僕に手を振っています。
「ああ……じゃあな」
僕も手を振り返し、自分が乗るホーム側の階段に向かいました。
8月17日は、こんな他愛ない会話で幕を閉じようとしていました。18歳、受験前の夏期講習。親に言われるがまま、なんとなく勉強して、なんとなく、楽しいことを探していました。退屈だったけど、これはこれで幸せだったのかもしれません。
20時53分の電車に乗ろうとして、僕は階段を駆け上がりました。でも、電車には乗れませんでした。だって、一段飛ばしで登りだしたそのときに、突然目の前が真っ赤になったのですから。轟音が鳴り響き、僕は爆風でホームまで吹き飛ばされました。ハリウッド映画みたいに、爆風で上に吹き飛ばされたのです。火の海となった地下ではなく、空の見えるホームに。でも、そこも安全とは言えませんでした。足元の爆発で土台がグラグラになり、そこにブレーキが間に合わない電車が突っ込んできて……
崩落するホームとともに、僕も火の海に飲まれていきました。熱くて、痛くて、そのうち何も感じず、何も分からなくなって……
これが、僕にとっての始まりです。何も知らない愚かな僕の前に転がる、”神話の続き”が開演し、それまでの日常が幕を閉じる瞬間なのです……
「そろそろ帰ろうぜ」
左手の腕時計を見ながら、他の3人に声をかけました。朝から授業を受け続け、息抜きのゲームセンター。だけど、最近はゲームセンターで遊ぶために、その前に勉強を頑張っているような、変な感じです。
おっと、気づいたら午後8時を過ぎています。眠いのも仕方ないですね。
「もうこんな時間か~」
腐れ縁のクラスメート、陽二が大きなアクビをして、なんとなくお開きの雰囲気になりました。さすがに他の面々も、疲れがピークのようです。レースゲームの順位も、ガンゲームのスコアも大分低い……というか、コースアウトしたり、ゾンビに咬み殺されてました。
「あ、ねぇねぇ。これだけやって帰ろうぜ!」
出口に向かって先頭を行く、陽二が何かを見つけました。それは生年月日と質問に答えるだけで、運命やら宿命やらを占ってくれる、今流行りの占いゲームでした。
「こんなの、当たる訳ないじゃん。小遣いの無駄使いだよ」
帰りたいし、占いとかちょっと苦手な僕と
「そう言うなって。みんなの受験がどうなるか、機械に占ってもらおうぜ?当たるも八卦、外れるも八卦ってね」
と言う陽二。結局、全員で今後1年の運命を占ってみることになりました。
占い結果を見つめる受験生男子たちは、なんというか、ふざけているフリはしてるけど、その眼差しは真剣でした。だって、今一番の心配事、受験結果を思わせる占いが出るかもしれないのですから……
みんな、占い結果に一喜一憂しながら、ときには無理やり前向きに解釈したりして、志望校への合格にこじつけようとしていました。
「ほらほら。お前もやってみろって」
陽二に促され、僕は占いゲームの前に座りました。内心面倒くさいと思っていましたが、それを友達に悟られないように、表情に出さずに操作していました。生年月日を入力し
「自分を動物に例えると……”猫”かな。好きな武将?”伊達政宗”でいいや……”険しい道、まわり道、緩やかだけど先の見えない道”があって、どれを選ぶか?……僕なら”引き返す”ね」
画面に浮かぶ質問攻撃に、直感で答えていきました。
そんなこんなで20問くらいの質問を完食すると、画面に結果が映し出されました。
「お!結果出たじゃん。読んでくれよ」
「なになに?”あなたは土曜日生まれです。土曜日生まれの基本運は……”試練と栄光”です。試練を経て後に栄光を手にします。ただし”土曜日生まれの試練”は、”日曜日生まれの闇”や”金曜日生まれのピンチ”とは違い、とても厳しいものです。その厳しさゆえに、とても平凡な一生とは言えない運命です」
なんだか、ちょっと面倒くさそうな占い結果が出たようです。受験は大変なことになりそうだし、なによりこの後、みんなにいじられそうで……
「しかし、同時に試練を乗り越えられるだけの資質と能力を授かっています。持てる能力をフルに発揮し、試練を克服したそのときには、他の曜日とは比べものにならない栄光を手に入れることができます。あなたは特別な使命を背負っているのです」
”特別な使命”なんて、みんなの餌食になっちゃうよ。この後、”からかわれるためにハンバーガーショップへGO!”ってなったらどうするのさ。
「あなたが試練を乗り越えられるのか、使命を完遂できるかどうか、宿命に試されているのです。その試練とは、”家が貧しい”、”両親がいない、片親がいない、いてもひどい親”、”友人や教師に恵まれない”、”容姿や服装へのコンプレックス”、”病身や事故”、”裏切り、孤独”、”受験の失敗などさまざまな苦難”となるでしょう」
お!遂に出てきたよ。”受験の失敗”ってさ。これじゃあ、明日からの勉強、モチベーションを維持できないじゃん……
「その厳しさ辛さゆえに試練から逃げたり、誘惑に負けてしまったり、自殺を考える人もいますが、そうするとあなたは破滅に向かいます」
そりゃそうだ。自殺したしたらそれこそ、完全に終わりだよ……
僕が占い結果を読み上げている間、友達は笑いを堪えるのに必死だったようです。”受験失敗”だけでなく、ツッコミどころ満載でしたら。というか、他の面々の占い結果と違いすぎるし、何より文章がメチャクチャ長い!
「なんだよこの結果?」
さすがに僕の声色は、”不愉快だ”って感じになりました。でも、陽二たちはお構いなし。笑いながら僕を茶化すのです。
「すげーな!お前特別な使命を背負ってるんだってよ」
「試練と栄光……お前今年落ちるんじゃねーの?で、一浪していい大学いくとか?」
「でも負けるな!逃げたりしたら、破滅に向かうから」
3人が笑い転げてる。最初は馬鹿にされてるような気分だったけど、みんなが久しぶりに腹の底から笑っていたので、今だけなのかもしれないけど、不安やストレスから解放されているようだったので、僕は苦笑いしながら、ピエロであることを受け入れました。だから
「特別な使命って……冒険の旅にでも出るのか?ったく……とにかくもう帰ろうぜ。9時になっちゃうよ」
ちょっと拗ねたフリをして、駅までの帰り道でネタにされる覚悟を決めて、ゲームセンターを後にすることにしました。
池袋駅の地下、同じ路線の陽二と一緒に、環状線の改札を通過します。他の2人は、埼玉方面の電車です。
「え~っと、明日は英語と数学だっけ?予習……どうしようかな」
「ちゃんとやっとけよ。テキストさらっと見るだけでいいからさ。お前の成績、志望校ギリギリなんだし。じゃあな。明日はここに8時半な!」
反対ホームに向かう陽二が、僕に手を振っています。
「ああ……じゃあな」
僕も手を振り返し、自分が乗るホーム側の階段に向かいました。
8月17日は、こんな他愛ない会話で幕を閉じようとしていました。18歳、受験前の夏期講習。親に言われるがまま、なんとなく勉強して、なんとなく、楽しいことを探していました。退屈だったけど、これはこれで幸せだったのかもしれません。
20時53分の電車に乗ろうとして、僕は階段を駆け上がりました。でも、電車には乗れませんでした。だって、一段飛ばしで登りだしたそのときに、突然目の前が真っ赤になったのですから。轟音が鳴り響き、僕は爆風でホームまで吹き飛ばされました。ハリウッド映画みたいに、爆風で上に吹き飛ばされたのです。火の海となった地下ではなく、空の見えるホームに。でも、そこも安全とは言えませんでした。足元の爆発で土台がグラグラになり、そこにブレーキが間に合わない電車が突っ込んできて……
崩落するホームとともに、僕も火の海に飲まれていきました。熱くて、痛くて、そのうち何も感じず、何も分からなくなって……
これが、僕にとっての始まりです。何も知らない愚かな僕の前に転がる、”神話の続き”が開演し、それまでの日常が幕を閉じる瞬間なのです……