第二項 夢から醒めて

文字数 766文字

 「…び…まえ…るか…ざんこ…に…か」
「なんだよ、なに言ってるかわかんないよ。というか、あなたは誰ですか?」
夢の中でであった男性は、僕に何かを語りかけてきました。でも、あまりよく聞こえません。
「選びたまえ……」
「選ぶ?」
「このまま瞳を閉ざし死を受け入れるか。それとも……残酷な生に目覚めるか」
「それって、生きるか死ぬか、選べってこと?」
随分ストレートな夢だと思いました。事故にあって死にかけて、そのまま死ぬかを選べだなんて。
「なんだよ、訳分かんないよ」
でも、死ぬかと聞かれて、「はい。死にます」とは言えません。僕は彼を見つめて文句を言いました。すると
「……選択はなされた……」
沈黙の後彼は呟き、僕から遠ざかっていきます。いやいや、まだ何も選択してないし!
 離れて行く彼を、僕は追いかけました。でも、どんなに一生懸命走っても、全然前に進みません。みなさんも経験ありませんか?何かに追いかけられる夢とかで、どんなに頑張っても逃げられないやつ。それと同じタイプの夢に、僕はいるようです。
「ちょっ、待ってくれよ!」
 彼はそのまま、はるか向こうへと行ってしまいました。滑るように進んでいって、何かが幾何学模様が光って見える、空間の境目みたいなところをすり抜けていきました。僕はそれを必死で追いかけました。追いかけたけど間に合わなくて、いつの間にか、その幾何学模様たちに囲まれていました。
 それぞれが異なる色で輝いて、僕を照らしています。僕を照らしながら
『やっと会えたね』
そんな声が聞こえた気がします。何が起きたのか、この夢にどんな意味があるのかわからないまま、僕はそこから追い出されてしまいました。だんだんと身体の感覚が、痛みが僕に戻ってきて
「あ、気がついたのね」
僕は、白い天井の病室で目を覚ましました。
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登場人物紹介

主人公の少年。

他のシリーズでは「蓮野久季(はすのひさき)(21?)」と名乗っていた。

本名は明かされないが、2章以降では”シーブック”と名づけられる。

セシル・ローラン(17)

”恋人ごっこ”に登場し、蓮の辛い過去を暴いて苦しめた女性。

本編では、蓮と出会い、惹かれ、壊れる様子が語られる。

閉じた輪廻が用意した、蓮を苦しめるための女性。

リジル(14)

アルビジョワ共和国で戦火に見舞われ、両親を失った少年。

妹のフェルトを守るために必死で生きている。蓮と出会い保護された。

水のプラヴァシーを継承し、「恋人ごっこ、王様ごっこ」では”耐え難き悲しみの志士(サリエル)”となって戦った。

フェルト(5)

リジルの妹。戦争で両親を亡くし、また栄養失調から発育が遅れている。

リジルと蓮に無邪気に甘える姿が、蓮の中に眠る前世の記憶(前世の娘)を呼び起こす。

この幼女の存在が、リジルを強くし、蓮に優しさを取り戻させる。

クレナ・ティアス(24)

アルビジョワで蓮が出会う、運命の女性。

レジスタンスの参謀として活躍する、聡明な女性。

アルビジョワ解放戦争の終盤、非業の死を遂げ、永遠に消えない蓮の瑕となる。

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