エピローグ

文字数 1,033文字

 「ねぇねぇ……夢を見ている間に、にぃにぃは治るの?」
睡眠カプセルで眠りに着くとき、フェルトが不安そうに聞きました。
「そうだよ。ぐっすり寝て、夢を見て、目が覚めたら、リジルは元気になるんだ」
僕はおでこをごっつんこして、フェルトに微笑みかけました。フェルトは隣で眠るリジルを見て、その安らかな寝顔に安心して、自分もカプセルに入るのです。
「パパ。起きたらいっぱい遊ぼうね!公園にいこう。滑り台で遊びたい!」
「そうだね。起きたいっぱい遊ぼうね。1日中、毎日、ずっとずっと遊ぼうね」
 そしてフェルトも眠りに着きました。穏やかな寝顔が、どうしようもなく愛おしい……

 アルビジョワを脱出して、2ヶ月くらい経ちました。フェルトの成長は著しく、言葉を話せるようになりました。ただ、リジルの方は芳しくない状況でした。PTSDが水の烙印による浸食を加速させ、日常生活を送れないほどの心身の苦しみに苛まれたのです。フェルトにも今後、なにかしらのトラブルが起きるかもしれません。成長し始めたからこそ、辛い過去を認識してしまうかもしれません。
 だから僕は、争いの烙印の異能で、2人の苦しい記憶を消すことにしました。冷凍睡眠に入った2人の部屋を、プラヴァシーで亜空間に切り離し、その空間で記憶を浄化するのです。
 プラヴァシーでそんなことが出来るなんて、自分では気づけませんでした。でも、同じように烙印を宿すアザリアたちの研究結果を学び、それを実践したのです。とんでもない超常現象ですが、あまりにも多くの死をもたらした僕だから、大量のグラマトンを生み出せるようなのです。生み出して、物理法則の外側を描けるのです。

 これから僕は、アザリアと共に戦います。グラマトンで航空と通信を失った世界は、混乱を極めていました。僕たちはまず、欧州を統一します。そしてユーラシア大陸を転戦し、北海道で中国朝鮮連合艦隊と戦います。大変な戦いですが大丈夫。歳をとれなくなった今、僕には時間が無限にあるのだから……

 これらが終わった後、30年も戦い抜いた後、僕は彼女と出会うのです。

 特異点の少女、早苗沙希(アベルのカケラ)と……

 いつか、欧州とアジアでの戦いもお話できればと思います。でも次の物語は、”死神ごっこ”は、王様ごっこの続きです。メアリさんを失い、リリィと一緒に消えた僕は、ミカエルとの戦争に望むのです。
 それでは皆さん。また次回、お会いできるのを楽しみにしています。
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登場人物紹介

主人公の少年。

他のシリーズでは「蓮野久季(はすのひさき)(21?)」と名乗っていた。

本名は明かされないが、2章以降では”シーブック”と名づけられる。

セシル・ローラン(17)

”恋人ごっこ”に登場し、蓮の辛い過去を暴いて苦しめた女性。

本編では、蓮と出会い、惹かれ、壊れる様子が語られる。

閉じた輪廻が用意した、蓮を苦しめるための女性。

リジル(14)

アルビジョワ共和国で戦火に見舞われ、両親を失った少年。

妹のフェルトを守るために必死で生きている。蓮と出会い保護された。

水のプラヴァシーを継承し、「恋人ごっこ、王様ごっこ」では”耐え難き悲しみの志士(サリエル)”となって戦った。

フェルト(5)

リジルの妹。戦争で両親を亡くし、また栄養失調から発育が遅れている。

リジルと蓮に無邪気に甘える姿が、蓮の中に眠る前世の記憶(前世の娘)を呼び起こす。

この幼女の存在が、リジルを強くし、蓮に優しさを取り戻させる。

クレナ・ティアス(24)

アルビジョワで蓮が出会う、運命の女性。

レジスタンスの参謀として活躍する、聡明な女性。

アルビジョワ解放戦争の終盤、非業の死を遂げ、永遠に消えない蓮の瑕となる。

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