第四項 神の雷霆

文字数 1,987文字

 マラコーダを倒し、空港も壊滅させた僕は、そのまま政庁に向かいました。混乱を極めた首都中心地は、レジスタンスが占拠しようとしていました。イザークたちが、拘束した現政権の幹部たちを拘束しています。
 国連軍は中国をはじめとする勢力に阻まれて、機能しなくなっていました。クロミズが壊滅した以上、僕たちの勝利は目前にあるようです。
 そんなとき、議事堂前の国立公園を横切るとき、僕は呼び止められました。
「そうか……貴様だったのか。呪われし”争いの烙印”の継承者よ」
そう言って、笑ってはいるが内心煮えたぎっている男性がいました。僕と似た感覚を持った相手。プラヴァシーを宿した継承者です。
 「アザゼルから受け継いだ貴様の力、見せてみろ!」
言い終らないうちに、彼は天使の姿に変身しました。金色の翼、6枚羽に覆われた、輝きの大天使ラミエルに。
「我はラミエル、またの名を神の雷霆。ヒトに仇名す呪われし輩よ、汝に雷光の裁きを下さん!」
 一方的にそんな台詞を吐いて、美しい剣が頭上に振り下ろされました。

 僕は奴の斬撃は受け止めました。受け止めると同時に力負けして、体ごと吹き飛ばされてしまいました。とても生身の人間が戦う相手ではありません。
 なんとか戦う方法はないか?有効な武器はないかを考えていました。カインを召喚するとしても、それは切り札にとっておきたいのです。もしカインが通用しなかったら、その時点で敗北が決まってしまうので……だから隙を作る手段を一生懸命模索していました。
 しかし、事態はもっと深刻でした。いつの間にか、僕はラミエルの攻撃に被弾していたのです。離れたラミエルが剣を振り下ろしたそのときに、一筋の落雷が僕を直撃したのです。
 激しい衝撃に目の前がスパークして、僕はその場に崩れ落ちました。まるで眼球に白熱電球を押し付けられたようで、目の前がホワイトアウトして何も見えません。

 「この程度か?アザゼルが育てたプラヴァシー、こんなものではあるまい?」
僕を見下ろしながら、天使様がそんな無茶を言っていたようです。僕はといえば、たった一度の落雷で、五感のすべてを失ったかのようでした。即死しなかっただけでもビックリです。
「考えろ……考える……だ……」
 朦朧とする意識の中、全身が麻酔されたかのような感覚に包まれて、唯一動かせる頭をフル回転させました。
『奴は雷を使う……撃たれれば、光の速さ……1秒間で30万キロメートル……避けられない……』
 光は1秒間で地球を7.5周します。そんなスピードに対処することなんてできません。しからも開けた国立公園。避雷針になるものも見当らない。
 そんな絶望的な窮地にて、僕の頭は逆回転していました。普段じゃ考えられないような、自分でも「こいつ何言ってんだ?」的なことを考えていました。
 『雷なんてズッコイよ……なら僕は、”時間を止めて”やろうかな……』
”時間を止める”って、とんでもないですよね?でも
『全世界の時間なんて止めなくていい。ただアイツの時間を奪えれば、それでいい』
なんてことを、頭に電気が流れた僕は、本気で考えていました。
『そうだ!嘘をついたとき。バレバレの嘘をついて、”は?”って空気がなるときがあるじゃん?時間が止まったみたいになるやつ。あんな感じで、僕の周りの時間を止めちゃえばいいんだ』
『じゃあ、時間を止めて、その後どうするの?』
『そりゃあ、とんでもない攻撃をぶちかますのさ』
『誰が?周りは止まっているんだろ?僕は動けないし、指示も出来ないよ?』
『……』
そんな自問自答な僕のところに、ラミエルが迫る。ゆっくりと歩きながら、黄金の剣を振り上げる。
『そうだ……アイツが”ここに来たら”、時間を止めよう。んでもって、動き出すときのエネルギーで、吹き飛んじまえばいいんだ』
 そしてそれは発動しました。僕達は認識できないけど、1秒にも満たない刹那だけど、ラミエルが僕の前に辿り着いたとき、時間が止まったのです。止まっている様子は、ラミエルの隣にカインがいて、ラミエルの胸元に左腕をかざしているのです。
 時間が動き出したとき、半径数メートルの空間を止めていたエネルギーが、”そこ”で解放されました。カインの左手の先、ラミエルのみぞおちで、見たことがないような内部爆発が起きたのです。
「な、に?……」
何が起きたのかさえわからないラミエル。ラミエルの腹部で、拳一個分だけの空間が爆発のような状態になり、千切れた上半身が地面に落ちました。

 『地上の3分の1、木々の3分の1が炎に包まれる……そして、全ての青草を失う……』

 これが最初でした。人智を超えた天使をも倒す、“神と訣別(さいしょのうそ)”の発動です。
 そして、第一のラッパが吹き鳴らされてしまった瞬間なのです……
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登場人物紹介

主人公の少年。

他のシリーズでは「蓮野久季(はすのひさき)(21?)」と名乗っていた。

本名は明かされないが、2章以降では”シーブック”と名づけられる。

セシル・ローラン(17)

”恋人ごっこ”に登場し、蓮の辛い過去を暴いて苦しめた女性。

本編では、蓮と出会い、惹かれ、壊れる様子が語られる。

閉じた輪廻が用意した、蓮を苦しめるための女性。

リジル(14)

アルビジョワ共和国で戦火に見舞われ、両親を失った少年。

妹のフェルトを守るために必死で生きている。蓮と出会い保護された。

水のプラヴァシーを継承し、「恋人ごっこ、王様ごっこ」では”耐え難き悲しみの志士(サリエル)”となって戦った。

フェルト(5)

リジルの妹。戦争で両親を亡くし、また栄養失調から発育が遅れている。

リジルと蓮に無邪気に甘える姿が、蓮の中に眠る前世の記憶(前世の娘)を呼び起こす。

この幼女の存在が、リジルを強くし、蓮に優しさを取り戻させる。

クレナ・ティアス(24)

アルビジョワで蓮が出会う、運命の女性。

レジスタンスの参謀として活躍する、聡明な女性。

アルビジョワ解放戦争の終盤、非業の死を遂げ、永遠に消えない蓮の瑕となる。

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