第一項 バルザタールへ
文字数 1,799文字
「ここに隠れていて」
僕は3人にそう告げて、茂みからひとり出て行きました。あの丘で朝を迎えたとき、2台のワゴンが近づいてくるのが見えました。僕が敢えて残した目印、あのパラシュートを見つけて、僕らを追って来てくれたようです。
「さて、どうやろうかな……」
追っ手が来てくれたのは狙いどおりでした。車(あし)と物資が欲しかったのだから。敢えて追っ手を待っていたのだから。
でも、ここで僕は悩んでいました。それは、凄惨な戦闘をあの子たちに見せたくなかったからです。生きるためなら、どこの誰とも知らない相手を殺すことに、躊躇はありませんでした。ただ、リジルくんとフェルトちゃんには見せたくないと、僕の心が訴えるのです。
だから僕は、3人に隠れているよう指示し、ひとり敵の前に進むのです。できるだけ音を立てず、速やかに追っ手を始末して、何事もなかったかのように振舞わないと……
2台のワゴンには、それぞれ3名の兵士が載っていました。彼らは明らかに僕を探していて、敢えて視界に姿を見せると、急いで追いかけてきました。一度、道路に姿を見せて、急いで反対側の茂みに飛び込みます。すると2台のワゴンが近くで停車し、我先にと兵士たちが飛び出してきます。アサルトライフルのM16を持っているところを見ると、国連軍のようです。彼らは連携するのではなく、手柄を争うライバルのようでした。だから協力する様子もなく、付け入る隙がありました。
響き渡る銃声と悲鳴。僕は茂みの中で、兵士たちを始末していました。一人目の首をナイフで裂き、奪った拳銃で二人目を背後から射殺しました。こうなると、残りの兵もさすがに連携するようになりました。木の後ろに隠れる僕に、彼らは銃弾の雨を降らせました。一斉にライフルで発泡し、僕は身動きができなくなるのです。
「どうする?ライフル装備が4人……分が悪いな……」
木の後ろに隠れて息を潜める僕。反撃の機会を伺っていると、それは聞こえてきました。
「放せ!フェルトを返せ!」
リジルくんの叫び声です。何事かと覗いてみると、セシルさんとフェルトちゃんが捕まっています。どうやら、セシルさんは隠れていることに我慢できず、2人を連れて出てきてしまったのです。そしてそのまま、敵兵に捕まってしまったのです。
「あんの馬鹿……」
僕は一瞬、うなだれてしまいましたが、すぐに草むらから飛び出しました。隠れていて、人質を盾にされるのも困りますが、それ以上に、兵士はリジルとフェルトを殺そうとしていたのです。彼らからすれば、任務に無関係なこどもの難民など、生かしておく理由がないのだから。
僕は飛び出すと同時に、近くにいる2人の兵士に銃弾を浴びせました。拳銃に残っている6発の弾丸を一気に撃ち尽くし、2人を殺してそのまま3人目に飛びかかりました。斜めに打ち下ろす肘打ちで額を強打し、そのまま背後に回って首をへし折りました。
そして最後のひとりに目を向けたとき、それは起きました。兵士がフェルトに向けて引き金を引いたのです。考える余裕もなく、ただただ僕はフェルトを守ろうと飛び込みました。もちろん、縦断より早く動くことは出来ません。僕はフェルトの盾にはなれなかったのです。なれなかったのですが、”銀色の悪魔”が、フェルトを守ってくれました。
僕は理解しました。銀色の悪魔は僕の一部なのだと。僕の心の、本気の叫びに応えて召喚できるのだと。悪魔はフェルトの前に現れて、兵士の放った銃弾を浴びていました。自ら銃弾を浴びて、フェルトの盾になったのです。そして大きく振りかぶり、高速の一撃を、目に見えない速さの右ストレートを放ちました。殴られた兵士の顔面は吹き飛び、その躰は崩れ落ちるように倒れていました。
ワゴンの1台を接収して、僕はバルザタールという村を目指しました。助手席にセシル、後部座席にリジルとフェルトを載せて。回収できる拳銃とライフルを手早く積み込み、地図と時計を確認して発車しました。この車が国連のものであれば、表向きはどの町、村にも入れるでしょう。ただ、レジスタンスに襲われるかもしれない。そんな不安定な状態ですが、僕は村を目指しました。後ろでレーションを頬張る兄妹を、出来るだけ安全なところに連れて行きたいから。今のどん底から脱出する機会が、少しでも得られるかもしれないから……
僕は3人にそう告げて、茂みからひとり出て行きました。あの丘で朝を迎えたとき、2台のワゴンが近づいてくるのが見えました。僕が敢えて残した目印、あのパラシュートを見つけて、僕らを追って来てくれたようです。
「さて、どうやろうかな……」
追っ手が来てくれたのは狙いどおりでした。車(あし)と物資が欲しかったのだから。敢えて追っ手を待っていたのだから。
でも、ここで僕は悩んでいました。それは、凄惨な戦闘をあの子たちに見せたくなかったからです。生きるためなら、どこの誰とも知らない相手を殺すことに、躊躇はありませんでした。ただ、リジルくんとフェルトちゃんには見せたくないと、僕の心が訴えるのです。
だから僕は、3人に隠れているよう指示し、ひとり敵の前に進むのです。できるだけ音を立てず、速やかに追っ手を始末して、何事もなかったかのように振舞わないと……
2台のワゴンには、それぞれ3名の兵士が載っていました。彼らは明らかに僕を探していて、敢えて視界に姿を見せると、急いで追いかけてきました。一度、道路に姿を見せて、急いで反対側の茂みに飛び込みます。すると2台のワゴンが近くで停車し、我先にと兵士たちが飛び出してきます。アサルトライフルのM16を持っているところを見ると、国連軍のようです。彼らは連携するのではなく、手柄を争うライバルのようでした。だから協力する様子もなく、付け入る隙がありました。
響き渡る銃声と悲鳴。僕は茂みの中で、兵士たちを始末していました。一人目の首をナイフで裂き、奪った拳銃で二人目を背後から射殺しました。こうなると、残りの兵もさすがに連携するようになりました。木の後ろに隠れる僕に、彼らは銃弾の雨を降らせました。一斉にライフルで発泡し、僕は身動きができなくなるのです。
「どうする?ライフル装備が4人……分が悪いな……」
木の後ろに隠れて息を潜める僕。反撃の機会を伺っていると、それは聞こえてきました。
「放せ!フェルトを返せ!」
リジルくんの叫び声です。何事かと覗いてみると、セシルさんとフェルトちゃんが捕まっています。どうやら、セシルさんは隠れていることに我慢できず、2人を連れて出てきてしまったのです。そしてそのまま、敵兵に捕まってしまったのです。
「あんの馬鹿……」
僕は一瞬、うなだれてしまいましたが、すぐに草むらから飛び出しました。隠れていて、人質を盾にされるのも困りますが、それ以上に、兵士はリジルとフェルトを殺そうとしていたのです。彼らからすれば、任務に無関係なこどもの難民など、生かしておく理由がないのだから。
僕は飛び出すと同時に、近くにいる2人の兵士に銃弾を浴びせました。拳銃に残っている6発の弾丸を一気に撃ち尽くし、2人を殺してそのまま3人目に飛びかかりました。斜めに打ち下ろす肘打ちで額を強打し、そのまま背後に回って首をへし折りました。
そして最後のひとりに目を向けたとき、それは起きました。兵士がフェルトに向けて引き金を引いたのです。考える余裕もなく、ただただ僕はフェルトを守ろうと飛び込みました。もちろん、縦断より早く動くことは出来ません。僕はフェルトの盾にはなれなかったのです。なれなかったのですが、”銀色の悪魔”が、フェルトを守ってくれました。
僕は理解しました。銀色の悪魔は僕の一部なのだと。僕の心の、本気の叫びに応えて召喚できるのだと。悪魔はフェルトの前に現れて、兵士の放った銃弾を浴びていました。自ら銃弾を浴びて、フェルトの盾になったのです。そして大きく振りかぶり、高速の一撃を、目に見えない速さの右ストレートを放ちました。殴られた兵士の顔面は吹き飛び、その躰は崩れ落ちるように倒れていました。
ワゴンの1台を接収して、僕はバルザタールという村を目指しました。助手席にセシル、後部座席にリジルとフェルトを載せて。回収できる拳銃とライフルを手早く積み込み、地図と時計を確認して発車しました。この車が国連のものであれば、表向きはどの町、村にも入れるでしょう。ただ、レジスタンスに襲われるかもしれない。そんな不安定な状態ですが、僕は村を目指しました。後ろでレーションを頬張る兄妹を、出来るだけ安全なところに連れて行きたいから。今のどん底から脱出する機会が、少しでも得られるかもしれないから……