第七項 アルビジョワをはなれて

文字数 610文字

 炎が消えたとき、立ち上る煙すら消えてなくなろうとしたとき、僕の背後に彼女がいた。
「始めまして。アザリア様より遣わされました、スメラギと申します」
軍服姿の聡明そうな女性が、涙を流す悪魔の後ろに立っていた。
 「アザリア?」
「貴方を逃がそうとした、少年のような風貌の男性です。覚えていらっしゃいますか?」
アルビジョワに向かうときに、飛行機をジャックした連中の親玉。彼の顔を僕は思い出していた。
「そのアザリアさんの部下が、僕になにか?」
「一緒に来てください。我々には、貴方を保護する用意があります」
 この状況で僕を保護するって?何を言っているんだこの女は?僕は彼女を敵と見なし、殺してこの場を去ろうと考えました。でも
「パ~パ~!」
フェルトの声が聞こえた気がして、動けなくなりました。
 スメラギと名乗った女性の後ろから、フェルトを抱っこしたリジルが駆けて来ます。リジルとフェルトは無事だったのです。
「パ、パ~パ~」
 僕は泣きながら2人を抱きしめました。涙が溢れ、全身の力が抜けて、ただただ焼け野原で泣いていました。
 「クレナさんのことはごめんなさい。彼女も一緒に保護したのですが、貴方を連れてくるといって飛び出してしまったの……」
僕は泣き続けました。ただただ泣き続けました。
「一緒に行きましょう……貴方には、休息が必要だと思います」
 そういってスメラギは、僕たちをアザリアのもとへ誘うのです……
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登場人物紹介

主人公の少年。

他のシリーズでは「蓮野久季(はすのひさき)(21?)」と名乗っていた。

本名は明かされないが、2章以降では”シーブック”と名づけられる。

セシル・ローラン(17)

”恋人ごっこ”に登場し、蓮の辛い過去を暴いて苦しめた女性。

本編では、蓮と出会い、惹かれ、壊れる様子が語られる。

閉じた輪廻が用意した、蓮を苦しめるための女性。

リジル(14)

アルビジョワ共和国で戦火に見舞われ、両親を失った少年。

妹のフェルトを守るために必死で生きている。蓮と出会い保護された。

水のプラヴァシーを継承し、「恋人ごっこ、王様ごっこ」では”耐え難き悲しみの志士(サリエル)”となって戦った。

フェルト(5)

リジルの妹。戦争で両親を亡くし、また栄養失調から発育が遅れている。

リジルと蓮に無邪気に甘える姿が、蓮の中に眠る前世の記憶(前世の娘)を呼び起こす。

この幼女の存在が、リジルを強くし、蓮に優しさを取り戻させる。

クレナ・ティアス(24)

アルビジョワで蓮が出会う、運命の女性。

レジスタンスの参謀として活躍する、聡明な女性。

アルビジョワ解放戦争の終盤、非業の死を遂げ、永遠に消えない蓮の瑕となる。

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