第七項 脱出

文字数 705文字

 「さて……ここからどうするか」
薄暗い後尾の機材室。僕はそこでひと呼吸起きました。胸に手を当てて鼓動を感じながら、深呼吸を繰り返しました。自分が落ち着くのを待って、改めて事態を整理するのです。
「ここまではアザリアさんの言うとおりだった。あとはパラシュートと……欲を言えば武器が欲しい」
そう言っていろいろ物色していると、奥に大きな麻袋が何個も転がっています。よく見るともぞもぞと動いていて、そのひとつを開けると、中にはセシルさんがいました。
 猿轡をされて泣いているセシルさん。ああ、そうかって思いました。彼女を人質にして、一緒に逃げろということでしょう。利用しろという、アザリアさんのメッセージです。
 「大丈夫ですか?」
わざとらしく優しく接して、僕は彼女を助けます。そんな僕に、彼女は泣きながらすがるのです。走行していると、扉がこじ開けられそうになっていました。鍵の部分を銃で壊して、あとは力尽くで扉をこじ開けようとしているようです。
「セシルさん。ここは危険だ。一緒に逃げましょう」
そう言う僕にコクリと頷き、彼女もパラシュートを身につけました。
 そして僕らは外とつながる後部扉を開き、そのまま大空にダイブしました。今いるのがどこなのか、そんなこともわからないまま、僕たちは真っ逆さまに墜ちていきました。僕を捉えようとした男たちは、機外に飛ばされないように、急いで扉を閉じていました。僕の追撃は保留せざるをえなかったようです。
 僕らの闘争に満足し、それでいて一生懸命表情に出さないよう努めるアザリアさん。彼は静かに呟くのです。
「さてさて、獣は野に放たれた。強い意志が、芽吹いてくれるかな?」
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登場人物紹介

主人公の少年。

他のシリーズでは「蓮野久季(はすのひさき)(21?)」と名乗っていた。

本名は明かされないが、2章以降では”シーブック”と名づけられる。

セシル・ローラン(17)

”恋人ごっこ”に登場し、蓮の辛い過去を暴いて苦しめた女性。

本編では、蓮と出会い、惹かれ、壊れる様子が語られる。

閉じた輪廻が用意した、蓮を苦しめるための女性。

リジル(14)

アルビジョワ共和国で戦火に見舞われ、両親を失った少年。

妹のフェルトを守るために必死で生きている。蓮と出会い保護された。

水のプラヴァシーを継承し、「恋人ごっこ、王様ごっこ」では”耐え難き悲しみの志士(サリエル)”となって戦った。

フェルト(5)

リジルの妹。戦争で両親を亡くし、また栄養失調から発育が遅れている。

リジルと蓮に無邪気に甘える姿が、蓮の中に眠る前世の記憶(前世の娘)を呼び起こす。

この幼女の存在が、リジルを強くし、蓮に優しさを取り戻させる。

クレナ・ティアス(24)

アルビジョワで蓮が出会う、運命の女性。

レジスタンスの参謀として活躍する、聡明な女性。

アルビジョワ解放戦争の終盤、非業の死を遂げ、永遠に消えない蓮の瑕となる。

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