第27話 ならない畑

文字数 793文字

 明治五年か六年か、尾道……うん、広島県の尾道。

 その、尾道でのできごとじゃ。

 とある豪農の家に強盗が入っての、無慚にも一家皆殺しの目に遭った。

 みんな死んじゃったから財産を受け継ぐ者はなかったんだが、親族だ遠縁だなんだとたくさん現れて、何人かに分けて相続したんじゃな。

 それで、大豆やってたからまず畑に大豆まこうってことになってな、まいたんだが……これが、いつまでたっても芽が出ない。おかしいっていって掘り返してみたらば、みんな腐れとる。

 もう時季を外れとろうが、少しでもならそうってんで、まき直してみた。

 じゃが、やっぱり芽が出んのんじゃ。

 畑がただで手に入ったんだし、まあいいやって、その年はあきらめることにした。

 あくる年、大豆は駄目だったから麦にしてみようって、まいてみた。

 すると芽が出てのう、十センチばかりは育ったんじゃが、それ以上には伸びん。

 土が悪いのかって掘り返したらのう、みんな根が腐れはじめておった。

 なぜか、どれも三日月の形になっとる。そういえば、去年大豆をまいたときも、こんなふうに……三日月のようになって枯れとった。

「今年はどうじゃ、あんたの畑」

 隣の人に聞いたらな、

「去年と変わらん」という返事。

「うちのはまた枯れとる。去年も駄目じゃった。どうもこうもならん……もしかして、こういう病気なんじゃろうか」

「どないなっとん」

「大豆と麦をまいたんじゃが、土ん中で腐れるんじゃ。三日月の形に」

 そしたら隣の住人の顔が、みるみるうちに蒼ざめてゆく。

「あんたんとこの畑、なにやっても無駄じゃで」

「なんでじゃ」

「あのなあ、あんたの畑って前持っとったのが、賊に殺されとろうが」

 うなずくと、

「それがなあ、三日月の晩だったんじゃ。もう、あんたんとこの畑、まともなもんは、ならんで」
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