第32話 追尾する紐

文字数 1,255文字

 祖母ちゃんからね、こないだこんな話聞いたよ。

 ひいじいちゃんがね、うん、祖母ちゃんのお父さん。ええと……その、ひいじいちゃんが若い頃にあった話。

 朝、まだ暗いうちに目を覚まして、顔洗って服着て、神社にお参りに行ったんだって。

 ひいじいちゃんは東京に住んでて、神社は離れたところにあったんだって。それで朝早くに出かけないと、お参りできないみたい。

 玄関を出て歩いているとね、うしろでカサカサするから振り返ってみたら、紐みたいなニョロニョロしたのがあったんだって。

 蛇かもしれないって、ひいじいちゃんが思ってスピードあげてしばらく歩いて、振り返ったらまだ紐みたいなのがうしろにあったんだって。

 ゆっくり歩いても、走ってもそうやってついてくるから、すっかり気持ち悪くなったんだって。まだ暗かったし。

 もしかしたら、じぶんの着物から糸かなんかが出てるのかって調べてみたけど、なにもなかったんだ。

 あわててあっち行ったり、こっち行ったりしてみたけどやっぱりついてくるから、どうしようってなっちゃった。

 そしたら灯りが見えて、走って行ったらもうやってる店だったんだって。

 こんな朝早くからやってる店なんて、おかしいって思ったんだけど、それでもいいって逃げ込んだんだよ。

 でも店の人は別にお化けじゃなくて、ふつうのお婆ちゃんでした。

 そこは駄菓子屋で、明るくなってないのにどうしてって聞いたら、これから品物が届くからっていったんだって。

 ひいじいちゃんは走ってきて、のどがかわいてたから、お水ちょうだい、ちょっと休ませてっていったんだ。

 お婆ちゃんはいいよっていって水持ってきたから、それを飲みながら外を見たら、店の外にやっぱり紐のようなものがあって、ニョロニョロしてるんだって。

 お婆ちゃんに、あれなんだろう? って聞いたら、ああ気味が悪いって、戸を閉めちゃったんだって。

 ここにくるまで追っかけられてたっていうと、それはきっとよくないもんだから、しばらくここにいなさいって。 

 だからそこで休ませてもらうことにして、店にあったイスに座ってまたお水もらって飲んでいるうちに、明るくなってきたんだ。

 それで元気が出てきて、ひいおじいちゃんは立ちあがってお店の戸を開けました。

 すると、もう紐はありませんでした。

 じゃあ出発しようと思って、奥の方にいたお婆ちゃんに、ありがとう、もう行くよって声をかけようとしたら、突然外が騒がしくなりました。

 外に出てみると、向かいにある家の前でガヤガヤしています。人がたくさんいました。

 なになに、どうしたのって聞いてみたら、そこの家の人がさっき首をつったんだって。

 いまお医者さんを呼んでるけど、もうダメだろうって。

 するとうしろから現れたお婆ちゃんがね、おじいちゃんにこういいました。

 さっきの紐みたいなもののせいだって。

 あれにくっつかれたら、首くくって死にたくなるんだよって。
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