第44話 くまちらら、はけほか

文字数 1,100文字

 こういう怪談のパターンでさ、よくあるだろう。ひとことで最後をしめくくるってのがさ。

 その最後の言葉を大声で叫んで、他の人をおどかす。あんたもよく怖い話を聞いてるっていうんなら、すぐに思いつくよな。

「死ねばよかったのに」とか「どうして事故らなかった」とか。

 決めゼリフみたいに「お経唱えたって、無駄だよ」とか「じゃあ、いっしょに死にましょう」とか、いうこともあるわな。

 そういう話が好きなやつばっかり集まってたんなら、うまくいけば全体がひきしまるし、それなりの効果があって面白いんだろうけどな。ただ脅かすために叫ばれるのは興醒めだが。

 何か言葉のようなものを耳にしたとき、人間て勝手に「意味」をとろうとするらしいぜ。特に母国語の場合はな。逆に、自分の知らない言語は他の音と同じように聞き流しちまう。

「わからない」ってのは、怖いことなんだよ。

 意味がわからないってのは、怖いよ。

 もう八年くらい前になるかな。ホラージャンルのゲームをしていたんだ。

 サウンドノベルな。画面に出る文字を読んでいく。読んだらページをめくるみたいにボタンを押すと、次の文字が出てくる。たいていはBGMが流れていて、ときどき背後の映像が切り替わる。当時はけっこう、そんなゲームが流行っていた。

 何話か読み進めていくうちに、外が暗くなってきてな。そう腹が減ったわけでもないから、それまでゲームを続けようって思ってたんだ。

 すると突然、女の声がした。

「くまちらら、はけほか……」

 それを、何度もくりかえしはじめた。よく憶えてるって? これがなあ……耳障りなわりに、頭から離れない声だったんだよ。気持ち悪いんだが、今でも耳にこびりついてて離れない。

 夏の終わりの頃でな、窓を開けてたんだ。

 いちおう外を見まわしてみても、田舎町の夜更けで道行く人はいない。車も走っていない。

 ちょうどそのとき、テレビ画面には、人形の顔がアップで映しだされていたんだ。学校に住みついた人形が、毎年生贄を求めているって話だった。

 こいつだろうか……。

 いや、まさか、な……。

 そしたら、また外で女の声がしたんだ。

「じゃかもくたか、さんたん?」

 やっぱり、何回もくりかえしている。語尾があがっている。何か訊ねているんだろうか? 意味はわからないものの、日本語のアクセントのようだった。

 ぞっとしたね。背中に寒気が走ったよ。

 ゲームをやめちまおうって、ゲーム機本体に腕を伸ばしたらさ、

「にんぎょう」

 俺がそう聞き取った瞬間。

 ぴしゃん、と窓が閉まったんだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み