第7話 A神社秘話

文字数 1,434文字

 伊勢神宮は別格としても、神社には格付けがあるそうですね。

 何でも延喜式という平安時代の法律にも載っている神社が、かなり格の高い神社とか。

 その延喜式にも記載されている、由緒ある神社のお話です。

 名前はちょっと……差し障りがあるといけませんので、かんべんしてください。近畿地方のとある神社に伝わる話です。

 仮に名前をそう、A神社としておきましょう。

 私の祖父がA神社の氏子総代を長年していたそうで、その間にあったことといいますから大正年間か昭和の初めか、とにかくその頃の話です。

 ある年、日照りつづきで一村誰もが困り果ててA神社に請雨をお願いしたそうです。

 はい、雨乞いですね。祝詞をあげてもらった。

 すると翌朝早く、火事だといって半鐘が鳴った。

 みな慌てて起きだしてきて、誰ともなく指さす方を見ると、A神社の背後の山に煙があがっている。すわ山火事かと、若い衆が三々五々駈けつけてみたところ火の煙ではなく、靄か霞か、水蒸気状のモヤモヤしたものが山いちめんを覆っていました。

 若い衆はもちろん火事じゃないぞと村中に知らせに戻ったわけですが、その間にモヤモヤしたものが山を下りてきて、雨が降りだしたそうです。

 山を下りる若い衆を追い越していったわけですが、なぜか若い衆はだれも濡れなかった。

 雨に濡れるのもかまわず、よかったよかった、これで秋は大丈夫だとみな胸を撫でおろしました。

 ところが奇妙なことに、雨が降ったのはA神社の氏子区域のみだったんです。

 ちょうど隣村との境に立つと、こっちの畑は潤っているというのに向こうはカラカラ、気の毒なくらいだったと祖父はいっておりました。

 またあるとき、台風で境内の木が数十本、倒れたということがあったそうです。

 寄り合いにて、倒れたもんはしかたない、いつまでも放置しておくわけにもいかんし、売ろうということに決まったのですが、次の日の朝、木がなくなっている……いいえ、みんな起き直って元通りになっていたというんです。

 確かに幹が折れていたはずなのに倒れた事実などまるでなかったようで、枝や葉が地面に落ちているのみだった。

 そして、これは偶然なのかどうなのか、木を売ろうと提案した人がまもなく急死したそうです。

 木といえば、A神社の境内には椿の大木があって、梢でちょうどほぼ半分に枝分かれしていました。

 この椿、常に枝分かれした一方が枯れ、一方が茂っている状態だったそうです。

 これがある年には枯れ、ある年には茂る。

 いえいえ、代わりばんこではなく、数年つづけて茂る年もあれば枯れる年もあったといいます。

 そして枝が茂った年には、この枝の方向にある地区が豊作。

 枯れた年には実りがよくない。

 すべて枯れんときには、われこの社にあらじ……そんな託宣があったようなのですが、これは祖父が生まれる前の話で確かではありません。

 はい、この椿の木は現存しています。私も数年前に見ました。

 いまはこのA神社、延喜式にも載っている古い神社だというのに、お宮はあっても神主さんは住んでおりません。

 それでも、きっと神様がいらっしゃるんでしょうね。

 すると……いえね、こんな恐ろしい神様はありませんよね。

 なんせ、雨を氏子区域だけに降らせたり、倒木を元通りにしたりするんですから……ちゃんとお祭りされていることを、祈るばかりです。
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