第49話 わらすでるべさ

文字数 1,393文字

 座敷童が出る、って有名な旅館が東北地方にあるわな。

 座敷童を見たら運が開けるっていうんで、予約が二年も三年も先まで埋まっているんだ、ってさ。周囲に観光スポットがたくさんあるわけじゃないし、一流ホテルのような設備もないけど繁昌してるみたいだな。

 実はさ、こんな有名なところじゃなくても座敷童が現れる旅館てのは、あるもんなんだ。仕事の関係でたまたま知り合った人が教えてくれてさ。そいつの会社が危ないときに、ちょっと助けてやったことがあったんだが、その見返りのつもり、だったんだろうね。

 じゃあ、何で倒産の危機に瀕してるときに泊ってこなかったんだ、って思うよな。そうさ、半信半疑さ。いや、むしろ全然信じちゃいなかったな。信じてたら家族旅行で泊まったさ。

 うん、出張でたまたまそっちの方に行くことになったからさ、仕事のついでに泊まったようなもんよ。

 用事済まして旅館に入ってから、一風呂浴びてさ、ちょっと一杯ってくりだしたんだが、飲み屋が全然なくてな。あることはあるんだが、ここだと思ってドアを開けようとしたら潰れてたり、見るからに汚そうなところだったりでな、なんとか最近できたらしい居酒屋を見つけた。

 港町だから刺身は美味かったけど、客はおれだけだし、おかみさんは陰気な感じがするしで、何だか気が滅入っちまってな。ほろ酔いにもならんうちに切り上げて旅館に戻った。

 それで、寝たと。座敷童なんて、出なかった。影も形もありゃしない。

 ああ、そこまではただの笑い話の種さ。

 ところがな、帰ってみたらすぐに実家から電話があってさ。

 最近連絡をとってないから電話した、とオフクロがいうんだ。

 あれこれ訊いてくるんだが、要はちゃんとやっているのか、ってことで、たいした用事じゃない。こちとら仕事中だから、生返事をしてたんだ。いつのまにか近所の人の噂話に変わっていくしな。

 そうやってしばらく、うん、うんいってたんだが、急にハッとするようなことを、いいだしたんだな。

「昨日、変な夢を見たのよ……。子供がね……」

 それがさあ、聞いてみたら……絣の着物姿の子供と遊ぶ夢だっていうんだよ。

 気持ち悪いがオフクロも子供に戻ってて、お手玉やら、おはじきやら、かくれんぼなんかをして、遊んだんだと。

 夢の中で夕方になると、その子は突然家に帰るといって走り去った。とたんに寂しくなった。それで、その背中を見送っているところで、目が覚めたんだそうだ。

 ああ、まさか、そっちに出たんじゃないだろうな、って内心、つぶやいたよ。出張で座敷童の出る旅館に泊まった、ってこともいわなかった。

 だいたい、夢に出てくるじゃないだろうって思ったしな。

 ところがよ、それからオフクロの金回りが突然よくなったんだよ。

 実家で持ってた二束三文のはずの土地が、再開発とかで高く売れたし、この前も宝くじで百万、当ててた。今じゃブランド物の服を買ったり、海外旅行したりと大忙しさ。

 最初に聞いてた話と違うだろう、って思うと、何となく悔しくてさ。

 まだいっていなよ。おれが座敷童の現われる旅館に泊まったからだ、ってな。

 その旅館? ああ、教えてもいいけど、おれが話したようなことになるんじゃないか。

 全然知られていないのも、そのへんに理由があるのかもな。
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