主島の大神殿へ

文字数 1,835文字

 私たちは、話し合った結果、この件はとても大事な案件だと判断し、主島の大神殿にいる創造主へと会いに行くことになった。

 私たち季主は、この創造主の眷属だ。そういうと、創造主とはとても偉くて気難しい方のように思うけれど、実際はわりと親しみやすい方だったりする。

 極寒の冬島の季主の道から、主島の大神殿へと道が開かれる。
 季節のめぐる主島は、いま初夏だ。夏島とはまた違うすがすがしい季節だった。

 季主の道から大神殿の前庭にある林の祠にでると、黄緑色の葉が太陽の光にかがやいていた。
 大神殿でこの世界の人間の長、大神官と話をし、空気も爽やかな奥の聖殿へとみんなでおもむいた。

 創造主リアスさまは、いつも通りステンドグラスが輝く天井の高い聖堂に座っていた。

 私は、隣にいるコウを少しうかがいみる。
 やはり、手が少し震えていた。
 それはそうだろう。創造主にあってこのしくみを説明するのは、また格別に緊張するものだろうから。



 コウは私とネイスクレファに説明したように、小型の装置をつかってまた実験してみせた。
 今回の実験には、実際に私がちからを込めた小指の爪ほどのサファイアと、ネイスクレファのちからの込められた、あのダイアモンドのネックレスを使った。それも小指の爪ほどの大きさだ。

 すべての説明がおわると、リアスさまは「なるほど」と声をあげた。
 私もそれを受けてリアスさまにうかがう。

「これを街全体にいきわたらせたいというのですが、リアスさまはどう思われますか」

 正直、私では判断できない内容だった。
 だからリアスさまに聞いたのだけど。

「いいのではないか」

 リアスさまの反応はあっさりとしたものだった。
 ネイスクレファもその反応に驚いている。

 正直に言って、私はリアスさまがこの計画を止めてくれるのではないかと、淡い期待をしていた。
 コウの説明は理論上問題なく思えて、むやみに反対する要因がなかったからだ。
 しかし、この計画を実行するにはとても不安があって。
 私はこのとき、自分の意思がこの計画に対して反対だったことを悟った。
 だから、その気持ちをそのままリアスさまに伝えた。

「私は少し不安です。私たちの力をこめた貴石の管理や、人間達が冷房や暖房に慣れる環境を持つという事も」

 リアスさまは頷いてわたしをみた。

「レイファルナス、人間を信じてみてはどうじゃ。貴石の管理も空気が変わることも」
「……人間を信じる……」
「もともと人間達が提案してきた案件なのじゃろう。ならば人間達がきちんとするじゃろう。なによりこの世界で季主の力は、動力としていちばん効率がいいのは確かなことじゃ」

 人間を信じる……。わたしはいままで人間を特にうとんじていたわけではないけれど、信じていたわけでもない。
 しいていえば。短い命の人間とは、なるべく距離を取りたいと思っていたのは確かだ。
 リアスさまの話がつづく。

「ただ、この装置には厳密な管理が必要らしい。冷水や温水をつかうのじゃ。水を使う分、いくら浄化した水でも定期的な掃除は絶対に必要じゃろう。でないと、使う人間が病気になってしまうかもしれない。だから、徹底してこの仕組みを管理できる場所――公共施設や商業施設、さらに首都までにしておけばいい。
 それに、この施設を首都に作る前に、試作を作って研究せよ。不都合があればそれを直し、出来そうだと思ったら、着工すれば良い。レイファルナス、それでいいか?」

 名前を呼ばれ、私ははっとリアスさまを見る。

「……はい。人間たちを信じる努力をします」

 わたしが返事をすると、突然、大きな声が響き渡った。

「やったーー!!」

 コウの声だった。
 拳を天に突き上げて、満面の笑顔で。

「あ、すみません!」
「なんなのじゃ?」

 ネイスクレファが驚いてコウを見る。コウは頬を上気させて興奮気味にまくしたてた。

「だって、私の研究が認められたんです! それも、創造主さまに! この一大計画を始めることができるなんて……夢のようです! きっと百年後のこの世界は、とても豊かになっているでしょうね」

 私はそのコウの言葉を聞いて、目を見張った。
 人間の寿命は、七十年かそこらなのだ。
 それを、このコウは、百年後の世界のありかたを考えて、この計画を提案している。
 自分がみることのできない未来。
 自分が生きていないころの、人々の幸せ。
 それに己の生涯をかけることができる人間なんているのか、と。

 こんな人間がいることに、私はそのときとても驚いていた。




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登場人物紹介

ゼス (秋主) 


秋島の季節を守る季主。守り神のような存在。ゼスは愛称でアレイゼスという。

頑健な体つきにおおらかな性格。

ミローズ


小さなころから絵を描くのが好きで、絵描きになった女性。

多くの耳飾りや変わった髪型という奇抜なファッションをしている。


ネイスクレファ(冬主)


冬島の季主。長く生きてきたので、しゃべり方が老婆のよう。


ルーシャス白神官


冬島の筆頭神官。冬島の人間達の長。

三十代という若さで筆頭神官になった、少し変わった男。

ルファ(春主)


春島の季主。

女性体の体を持っているせいか、季主にしては女性的なものの考え方をする。

レイファルナス(夏主)


夏島の季主。人間に肩入れしやすい性格。

男性体の体をもっていて、とても美しい。

コウ・サトー (博士)


夏島出身の天才的研究者。

彼の発案から、この世界のしくみが変わる。

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