懐かしく思い出す人
文字数 1,137文字
「ネイスクレファさま、この花はまた去年にも増して盛況に咲き誇っていますね」
あたしの右隣でセヴィリヤ白神官が感心して大樹を見上げる。
あたしもその樹を見上げて、小さな白い花がちらちらと舞うのを眺めていた。
冬島という極寒の地でも毎年時期になると無数の花を咲かせるこの大樹。
あたしはこの大樹の花を何百年と見守っていた。
初めにこの樹に気が付いたのは、相当まえのこと。数百年前で若木だった。
白神官は、バートラムという家から輩出されることが多かった。
このセヴィリヤ白神官もそうだし、あやつ、ルーシャスもそうだった。
白神官とは、この冬島の官職である神官たちのまとめ役。筆頭神官の役職名で、事実上この冬島の人間達の長だ。
あたしはセヴィリヤ白神官に顔をむける。
「ああ、そうじゃな。不思議な樹じゃ。この寒い冬の島にも、こうして綺麗に花が咲く」
ちらちら、ひらひら。白い花が散り、白く凍った地面に花びらの絨毯が敷かれる。
それは雪の上にもつもり、氷の上につもり。
「ほんとうに綺麗じゃな」
――ネイスさま。この花を見るの、好きですよね。じゃあ、こうしましょうか?
遠い昔の白神官、ルーシャスの言葉を思い出す。
あたしをネイスさまと愛称で呼んだ唯一の、変わった人間の男。
その同じ家系の血を引いたセヴィリヤ白神官は、ルーシャスのように銀髪に青緑色の目の白皙の男だ。
ふと、面影が重なる。
「おぬしはやはりバートラム家のものなのじゃのう。ルーシャスに似ておる」
「ルーシャスさまですか。とても昔の、白神官だった方ですね。私は書物でしか知りませんが、大きな業績を残した方ですね」
「ああ。冬島の暖房施設を整備した、一代目の白神官じゃ」
この冬島には、今現在、首都にかぎり暖房施設がある。
その暖房のおかげで、野菜の温室栽培や、共同浴場などが運営されていた。
冬島では首都にしか人はすんでいないし、この施設はとても人々の役にたっていた。
同じように夏島には冷房施設が、四季の巡る主島にはその両方があった。
この施設をつくったとき、数十年にわたり工事がつづき、何代かの白神官が工事に携わった。
この施設の原理を発明した人物は別の人間だが、冬島の工事の着工を手掛けたのが、ルーシャス白神官だった。
「ルーシャスさまはどういう方だったのでしょうか」
「聞きたいか? 変わった男じゃったよ」
彼のことを思い出すと自然と笑顔になり、ふふふ、と笑いがこみあげる。
あたしのことを『可憐で可愛い女の子』と言い切って、始終そう扱った。
性別も、年齢も、人とはかけ離れた、あたしのことを。
「よろしければ聞きたいです」
「ならば話そうか」
あたしは、白い花が舞う大樹の前で、セヴィリヤ白神官に長い話を語ることにした。