計画の不安
文字数 1,731文字
この夏の浮島に、冷房装置をつけるというコウの提案を、私はまだ承認できずにいた。
大規模すぎて、どこかに見落としがあって、この夏島の営みが崩れるのではと、とても不安だった。
「この計画は、冬主ネイスクレファのちからも使うことになる。彼女にも話を通してから決めるべきことだと思っている。それに加えて、私はこの世界の創造主リアスさまにも話を通すべきだと思う。だから、ここは一旦、保留ということにしておく」
もっと考える時間がほしい。
人間達の間では、もうすでに計画を実行できるだけの話し合いは、すんでいるようだけど。
「近々、この件で冬島へいこう。その前に、その冷房装置のことをもっと詳しく私に説明してほしい」
「はい! よろこんで!」
大きな声で返事をすると、頬を紅潮させた。
コウは、冷房の原理や、それに使う装置の仕組みを紙に描いた図で説明してくれた。
簡単な装置をつかっての実験をして、実際に私のちからから生み出された温風をつくってみせた。その際に使われた貴石は、コウがこの夏島の大気から特殊な方法でサファイアに集めた私のちからだ。
難しい数学や機械の話は専門外だけれど、私もこの仕組みをあらかた理解できたと思う。
夏主 のちからから、温風を、冬主のちからから冷風を作り出すこの仕組みは、空気も汚さず、廃棄物がでるわけでもなく、とてもこの浮島の環境にやさしい。
夏島での冷房は、魚市場や、野菜と果物市場へとながし、そこの鮮度をたもつ役わりもはたし、その他に各種さまざまな公共施設へとながすのだそうだ。
さっきコウが言っていた病院や学校などに。
そして、コウは説明のさいごに私に頼みごとをした。
「レイファルナスさま、私は自分でこの夏島の季主さまの力をあつめた貴石をつくって実験をしました。しかし、それでも季主さま自身が力をこめた貴石にはとうてい及びません。ですので、これから冬島へ行く際、冬主さまを説得する実験をより分かりやすくするために、この貴石 に力をこめてくださいませんか?」
コウが差し出したのは、小さな小指のつめほどの貴石だった。
「……ああ、いいよ」
私は暫く考えてから、これほど小さなものならば、支障もないだろうと、コウの持っていた小さな貴石をうけとった。
私のてのひらの上で光る青い石に、微量のちからを込めると、それを彼に返す。
コウは嬉しそうに、青くひかるその貴石をぎゅっと握りしめて胸におし抱いた。
「有難うございます、レイファルナスさま! 冬島では、冬主さまをきっと説得してみせます」
コウは目をきらきらさせて、私にあたまを下げて聖殿を退出して行った。
私はその場にのこったメノア蒼神官に目を向ける。
「人がわるいじゃないか、メノア蒼神官。こうゆう計画がすすんでいることをちっとも私に教えてくれないなんて」
少し恨み言を言うと、メノア蒼神官は目を細めて柔和に笑う。
「途中でたち消える案件の可能性が大きかったので、しっかりと決まるまでお耳に入れる必要はない、と思いました。今時点でも、案件の一つにすぎませんしね。まだまだ話し合いの段階ですから。正直に言うと、私も初めはおどろいて返事ができませんでした」
メノア蒼神官はくすりと笑う。
「すごい計画ですよね。そして、これを実行にうつすには、とても大きなちからが必要です。季主さまのちから、という意味ではなく、お金や人材の問題でも」
「でも、君はそれでもやる価値があると思ったから、私にその話をもってきたんだね」
「はい。私としては、実際にこの冷房装置ができたらこの夏島の利になることだと思いました」
「私も話をきいたかぎりでは、何も問題がないように思える」
「計画は大事ですが、やってみないと分からないことも多いです」
「そうだね。では、メノア蒼神官。いまからネイスクレファへ手紙を書くから、それをもって冬島へ使者を送ってくれないかな。コウの話の件を、冬島でも提案してみる。夏島で使う季主のちからはネイスクレファのちからだ。彼女の意見は大事だからね」
さっそく机から便箋取り出し、インクをつけてネイスクレファへと手紙をしたためる。
夏島の青色の縁かざりのついた封筒に、書いた手紙を入れると、それをメノア蒼神官へとわたした。
大規模すぎて、どこかに見落としがあって、この夏島の営みが崩れるのではと、とても不安だった。
「この計画は、冬主ネイスクレファのちからも使うことになる。彼女にも話を通してから決めるべきことだと思っている。それに加えて、私はこの世界の創造主リアスさまにも話を通すべきだと思う。だから、ここは一旦、保留ということにしておく」
もっと考える時間がほしい。
人間達の間では、もうすでに計画を実行できるだけの話し合いは、すんでいるようだけど。
「近々、この件で冬島へいこう。その前に、その冷房装置のことをもっと詳しく私に説明してほしい」
「はい! よろこんで!」
大きな声で返事をすると、頬を紅潮させた。
コウは、冷房の原理や、それに使う装置の仕組みを紙に描いた図で説明してくれた。
簡単な装置をつかっての実験をして、実際に私のちからから生み出された温風をつくってみせた。その際に使われた貴石は、コウがこの夏島の大気から特殊な方法でサファイアに集めた私のちからだ。
難しい数学や機械の話は専門外だけれど、私もこの仕組みをあらかた理解できたと思う。
夏島での冷房は、魚市場や、野菜と果物市場へとながし、そこの鮮度をたもつ役わりもはたし、その他に各種さまざまな公共施設へとながすのだそうだ。
さっきコウが言っていた病院や学校などに。
そして、コウは説明のさいごに私に頼みごとをした。
「レイファルナスさま、私は自分でこの夏島の季主さまの力をあつめた貴石をつくって実験をしました。しかし、それでも季主さま自身が力をこめた貴石にはとうてい及びません。ですので、これから冬島へ行く際、冬主さまを説得する実験をより分かりやすくするために、この
コウが差し出したのは、小さな小指のつめほどの貴石だった。
「……ああ、いいよ」
私は暫く考えてから、これほど小さなものならば、支障もないだろうと、コウの持っていた小さな貴石をうけとった。
私のてのひらの上で光る青い石に、微量のちからを込めると、それを彼に返す。
コウは嬉しそうに、青くひかるその貴石をぎゅっと握りしめて胸におし抱いた。
「有難うございます、レイファルナスさま! 冬島では、冬主さまをきっと説得してみせます」
コウは目をきらきらさせて、私にあたまを下げて聖殿を退出して行った。
私はその場にのこったメノア蒼神官に目を向ける。
「人がわるいじゃないか、メノア蒼神官。こうゆう計画がすすんでいることをちっとも私に教えてくれないなんて」
少し恨み言を言うと、メノア蒼神官は目を細めて柔和に笑う。
「途中でたち消える案件の可能性が大きかったので、しっかりと決まるまでお耳に入れる必要はない、と思いました。今時点でも、案件の一つにすぎませんしね。まだまだ話し合いの段階ですから。正直に言うと、私も初めはおどろいて返事ができませんでした」
メノア蒼神官はくすりと笑う。
「すごい計画ですよね。そして、これを実行にうつすには、とても大きなちからが必要です。季主さまのちから、という意味ではなく、お金や人材の問題でも」
「でも、君はそれでもやる価値があると思ったから、私にその話をもってきたんだね」
「はい。私としては、実際にこの冷房装置ができたらこの夏島の利になることだと思いました」
「私も話をきいたかぎりでは、何も問題がないように思える」
「計画は大事ですが、やってみないと分からないことも多いです」
「そうだね。では、メノア蒼神官。いまからネイスクレファへ手紙を書くから、それをもって冬島へ使者を送ってくれないかな。コウの話の件を、冬島でも提案してみる。夏島で使う季主のちからはネイスクレファのちからだ。彼女の意見は大事だからね」
さっそく机から便箋取り出し、インクをつけてネイスクレファへと手紙をしたためる。
夏島の青色の縁かざりのついた封筒に、書いた手紙を入れると、それをメノア蒼神官へとわたした。