夏島首都キリブでデート
文字数 2,178文字
少し休憩してからあたしたちは夏神殿の冷房の動力をみせてもらった。
それは夏神殿のすぐ隣に作られ、厳重に警備された場所にあった。
レイとコウ博士の顔でその警備をぬけた先には、静かに動いている機械があって。
機械の一番端で光る貴石は、去年あたしが力を籠めたダイアモンドだ。
どこがどう動いているのか、あたしには分からないけれど、ルーシャスはよくコウ博士に細かいことを聞いていた。
「だいたいの仕組みはわかりました。それと、コウ博士」
「なんでしょうか」
大きく返事をしたコウ博士にルーシャスは提案する。
「冬島からこの計画に関しての研究員を幾人か夏島へ送りたいと思います。冬島でも使われるものなら、それに詳しい者が必要になりますから」
ルーシャスもだんだんと乗り気になってきているようだった。
夏神殿の様子をみて、考えが変わったのかもしれない。
「分かりました。メノア蒼神官にも相談して、受け入れ態勢を考えます」
コウ博士も頷き、二人は握手をしあった。
その日は夏神殿で一泊し、次の日に冬島へと帰ろうと思っていた朝。
ルーシャスが私服姿であたしの部屋へ訪れた。
いつも、白くて厚い神官服に隠れていた身体の線が、半袖のシャツと薄手のズボンのみという軽装で、良く見えた。細身だが意外にしっかりとした体格をしている。運動は嫌いだと言っていたが、もしかしたら本当に鍛えたのかもしれないと思った。
「おはようございます、ネイスさま。せっかく夏島に来たんです。観光してから帰りましょう!」
「……」
まだぼうっとしているあたしに、白いつばの広い帽子をかぶせると、
「似合いますよ」
と、また歯の浮くような台詞を言ってにこりと笑う。
「ネイスさまは色が白いから、強い陽射しの下では日焼けがひどくなると思って。用意しました」
「いつのまに……」
そんな
「さあ、行きましょう。ネイスさま。しぼりたての
手を引かれて、あたしは彼にひきずられていく。
そのまま、あたしたちは夏島の首都キリブへと繰り出したのだった。
「夏島は海がきれいですねえ! 俺、こんな青い海も初めて見ましたよ。冬島の海は白いですからね」
うきうきとあたしの手を握りながら、ルーシャスは周りを見る。
とても三十過ぎの男とは思えないはしゃぎようだ。
彼は海辺の売店で、本当に果汁水を買ってきた。しかし一つだ。
海辺にしつらえてある椅子にあたしを座らせて、ストローを二本、そこにさす。
「はい、これで一緒にのみましょう」
「……」
「お嫌ですか?」
「……べつに」
そう言ってストローに口をつけると、彼も嬉しそうにもう一つのストローに口をつけた。
夏島のさわやかな果実が喉を潤す。とても美味しい。
ルーシャスもとても上機嫌で果汁水を飲んでいた。
「たのしそうじゃのう、ルーシャスよ」
「楽しいですよ。ネイスさまと一緒に休みに遊べるなんて。最高です」
「そうか」
ふっとあたしも笑顔になる。
それを見たルーシャスの顔も、笑顔になった。
金冠をと神官服を脱いだ彼は、こうしてみると、普通の男だった。
相変らず不遜な感じはするけれど、そんなに気にならない。もう慣れたのかもしれない。
「ここでは俺たち、普通の恋人同士にみえますかね」
「ごっふっ」
さらりとまたそんなことを言うから、あたしは
果汁水を飲み終えて、少し落ち着くと、今度は二人で海を眺めて。
なんだかとてもこそばゆくて、不思議な感じがした。
「ネイスさま、海では観光用の船が出ているんですよ、乗ってみませんか?」
「なぜ、初めて夏島に来たのにそんなに詳しいのじゃ」
「コウ博士に教えてもらいました。デートにいい場所はどこですかと」
「なんと……!」
仕事のついでにそんなことも聞いていたとは……!
「ね、行きましょう。船に」
「はあ、あ」
あわあわとしているうちに、彼はあたしの手を握ってまた歩き始める。
船に向かう途中のごみ箱に果汁水の器を捨てると、あたしを船つき場へといざなう。
そこには小型の帆船がとめてあって、観光客が乗れるようになっていた。
夏島には何度も来ているのに、あたしでも知らない観光場だ。
ルーシャスは切符売り場で券を二枚買うと、それをあたしに一枚くれる。
「いきましょう」
また、彼の手があたしの手を握る。切符を切ってもらって一緒に船へと乗ると、夏島にしては涼しい風が吹き抜けた。
海辺の風が、心地よい。
「いい風ですね。俺は冷房よりも、この風が好きだな。夏島にはこっちの方が似合う気がします」
「そうかもしれぬな」
それでも、冷房や暖房があれば便利なことも多く、人々が豊かになるから、あたしたちはそれを実行するのだ。
「見て下さい、ネイスさま。夕日が海に沈んでいく。冬島とは少し違う沈み方な気がします」
ルーシャスが太陽を指さしながら、感慨深げに言った。
夏島特有の、海に溶けるような夕日。
冬島では夕日は氷の海に沈んでいくし、暗くなると危険なので、見ることはほとんどない。
「そうじゃな。溶けていくようじゃ」
あたしも頷いた。
「また、二人で貴重なものを見ることができましたね」
ルーシャスは、少し強くあたしの手を握りしめながら、嬉しそうに目を細めた。