夏主とコウ博士
文字数 2,433文字
幾日かたったころ。
夏島から夏主とその連れがきた。
冬神殿としては夏島からきたこの二人を手厚くもてなそうと、夏主であるレイが手土産にもってきた野菜や缶詰、果物などを使って、晩餐を整えさせているところだ。
レイは長い飴色の髪を腰まで三つ編みにして、青いコートをはおっていた。相変らず長い四肢が優雅だ。
もう一人は灰色のコートをはおった、黒髪黒目の青年だった。
食事を用意している間に、あたしたちはレイのいうところの大事な話を、執務室でしているところだった。
大きな机を部屋に運び込んで、椅子を四脚おいて。
あたしと、ルーシャス、レイともう一人。
黒髪の青年は、手に丸めた大きな紙をもっていた。
「はじめまして。私はコウ・サトーといいます。今日はお時間を取ってくださり、ありがとうございます」
コウという、利発そうで、溌剌とした青年は、元気よくあたしに頭をさげた。
その言葉をひきとるように、夏主であるレイが言う。
「このコウ博士の言うことを、少しの間、聞いていてくれないかな。あまりにも大規模な話で驚くかもしれないけれど、最後まで聞いて欲しい。そして、ネイスクレファはどう思ったか、聞かせてほしい」
「……わかった」
レイの要求は、取り敢えずこのコウ博士、とやらの話を聞いてほしいらしい。
「ルーシャス白神官もよく聞いておいてほしい内容だ。これは冬島の人間達にも関係することだから」
「承知しました」
ルーシャスが返事をする。
レイの前おきがおわると、コウ博士は話し始めた。
「ごほん、では。初めに、この世界の動力源のことについてです。この世界の動力といえば、火や水なのですが、その他に大きな力が世界を覆っています。季主さま方の力です。季節を守るこの力を利用して、私は実験してみました」
「……実験? 季主の力で……?」
いぶかし気に小さな声をあげたのはルーシャスだった。
「最後まで聞くのが約束じゃ」
あたしがたしなめると、ルーシャスはあたしを見て、あたしの顔をたてるために黙った。
「えーと、続けます。夏島では、レイファルナスさまの力から温水が作り出せることが分かりました。レイファルナスさまの力を籠めた貴石、サファイアを利用しての実験です」
そう言ってコウ博士は小さな青いサファイアを懐から出して手のひらに乗せた。小指の爪ほどの大きさの宝石だ。
「この大きさでもある装置にかけると、かなりの量の湯がわかせます。もともと、季主さまがたの力が込められた貴石は、浮島全体を覆うほど大きな力ですので、小さくてもつよい力があります」
「湯を沸かしてどうするのじゃ」
「そこです、ネイスクレファさま。この湯は、熱変換装置で温風を生み出せます。つまり、レイファルナスさまの力で部屋の中を暖かい状態に保つことができるということです。
それと同時に――私の原理では、ネイスクレファさまの力は、冷水を作り出し、冷風を生み出せます。
つまり、お二方の力のこもった貴石があれば、夏島では冷気が、冬島では暖気が自在に操れるというしくみです」
「それでどうしようというのじゃ」
「冬島で暖気が操れるのなら、温室が期待できます。そこで野菜がそだてられるでしょう。同時に夏島では冷気で魚や果物が腐りにくくなります」
「原理は分かりました、コウ博士。少し質問してもいいですか?」
ルーシャスが静かに声をあげた。
「実際に貴石で暖気や冷気が出来るとして、どういう仕組みを使ってどこでどうやって使っていこうというのです」
「せっかくのお力です。町全体にいきわたらせたいと思っています」
「……」
目をキラキラさせて語るコウ博士をしりめに、ルーシャスは彼に冷たい視線をおくる。
「どうやって?」
「それは……町中に温水と冷水を流す管を配置するんです」
そこまで言うと、コウ博士は持っていた紙を机の上にざっと広げた。
「これは夏島の首都、キリブの地図です。キリブでは水は川から汲んでます。これを、川の水をくみあげ浄化し、ネイスクレファさまの貴石の力で冷水にして、各施設にひきます。それだけでも水道が整備できます。そして、各施設に設置した『熱変換装置』で冷気も生み出せるのです。この装置は定期的に掃除が必要ですが、それを考えても利益もでるし、便利になります」
指で夏島の地形をたどって、コウ博士は説明する。
「同時に冬島では、同じ原理でレイファルナスさまの力で温水ができます。それを各施設にひくという計画です。みなさんが納得してもらえるように、初めにレイファルナスさまの力がどう働くのか、この小さなサファイアで明日実験してみたいと思います」
夏主のレイが大きく息をついた。
「さて、話は終わりだけど……ネイスクレファはどう思った? ちなみに私の意見を言うと、正直困惑している。確かに便利だけど、作って支障のないものなのか。だから、何よりも先にネイスクレファに相談にきた。これは私と君の力が動力になっているものだしね。そして、リアスさまにも相談しに行くのがいいと思っている」
この世界の創造主リアス。彼ならこの壮大な計画の一番的確な答えを見つけられるのだろうか。
壮大すぎてあっけにとられる。
「……もともと、この冬島は、寒い場所に住む生きもの為の浮島じゃ」
「夏島もね。暑い場所の生物のための浮島だよ。だから私もとても考えた。なによりもそんな大きな力を人間がもってもいいものか、ということも考えた。貴石の保管場所もきちんとしないと、別の目的で使われることもあるかもしれない、ともね」
あたしは少し考えた。
この冬島に温室ができるかもしれない。
そうすれば、人々のくらしは少し豊かになるだろう。
でも、それは安全なのだろうか?
「あたしもリアスさまに相談しに行くのがいいと思う」
話を聞いただけだが、この水力機関は実現など可能なのであろうか?
動力源は、あたしとレイの、季主の力だ。
その施設は――作ってもいいものなのだろうか?
冬を維持しているこの島に。
夏島から夏主とその連れがきた。
冬神殿としては夏島からきたこの二人を手厚くもてなそうと、夏主であるレイが手土産にもってきた野菜や缶詰、果物などを使って、晩餐を整えさせているところだ。
レイは長い飴色の髪を腰まで三つ編みにして、青いコートをはおっていた。相変らず長い四肢が優雅だ。
もう一人は灰色のコートをはおった、黒髪黒目の青年だった。
食事を用意している間に、あたしたちはレイのいうところの大事な話を、執務室でしているところだった。
大きな机を部屋に運び込んで、椅子を四脚おいて。
あたしと、ルーシャス、レイともう一人。
黒髪の青年は、手に丸めた大きな紙をもっていた。
「はじめまして。私はコウ・サトーといいます。今日はお時間を取ってくださり、ありがとうございます」
コウという、利発そうで、溌剌とした青年は、元気よくあたしに頭をさげた。
その言葉をひきとるように、夏主であるレイが言う。
「このコウ博士の言うことを、少しの間、聞いていてくれないかな。あまりにも大規模な話で驚くかもしれないけれど、最後まで聞いて欲しい。そして、ネイスクレファはどう思ったか、聞かせてほしい」
「……わかった」
レイの要求は、取り敢えずこのコウ博士、とやらの話を聞いてほしいらしい。
「ルーシャス白神官もよく聞いておいてほしい内容だ。これは冬島の人間達にも関係することだから」
「承知しました」
ルーシャスが返事をする。
レイの前おきがおわると、コウ博士は話し始めた。
「ごほん、では。初めに、この世界の動力源のことについてです。この世界の動力といえば、火や水なのですが、その他に大きな力が世界を覆っています。季主さま方の力です。季節を守るこの力を利用して、私は実験してみました」
「……実験? 季主の力で……?」
いぶかし気に小さな声をあげたのはルーシャスだった。
「最後まで聞くのが約束じゃ」
あたしがたしなめると、ルーシャスはあたしを見て、あたしの顔をたてるために黙った。
「えーと、続けます。夏島では、レイファルナスさまの力から温水が作り出せることが分かりました。レイファルナスさまの力を籠めた貴石、サファイアを利用しての実験です」
そう言ってコウ博士は小さな青いサファイアを懐から出して手のひらに乗せた。小指の爪ほどの大きさの宝石だ。
「この大きさでもある装置にかけると、かなりの量の湯がわかせます。もともと、季主さまがたの力が込められた貴石は、浮島全体を覆うほど大きな力ですので、小さくてもつよい力があります」
「湯を沸かしてどうするのじゃ」
「そこです、ネイスクレファさま。この湯は、熱変換装置で温風を生み出せます。つまり、レイファルナスさまの力で部屋の中を暖かい状態に保つことができるということです。
それと同時に――私の原理では、ネイスクレファさまの力は、冷水を作り出し、冷風を生み出せます。
つまり、お二方の力のこもった貴石があれば、夏島では冷気が、冬島では暖気が自在に操れるというしくみです」
「それでどうしようというのじゃ」
「冬島で暖気が操れるのなら、温室が期待できます。そこで野菜がそだてられるでしょう。同時に夏島では冷気で魚や果物が腐りにくくなります」
「原理は分かりました、コウ博士。少し質問してもいいですか?」
ルーシャスが静かに声をあげた。
「実際に貴石で暖気や冷気が出来るとして、どういう仕組みを使ってどこでどうやって使っていこうというのです」
「せっかくのお力です。町全体にいきわたらせたいと思っています」
「……」
目をキラキラさせて語るコウ博士をしりめに、ルーシャスは彼に冷たい視線をおくる。
「どうやって?」
「それは……町中に温水と冷水を流す管を配置するんです」
そこまで言うと、コウ博士は持っていた紙を机の上にざっと広げた。
「これは夏島の首都、キリブの地図です。キリブでは水は川から汲んでます。これを、川の水をくみあげ浄化し、ネイスクレファさまの貴石の力で冷水にして、各施設にひきます。それだけでも水道が整備できます。そして、各施設に設置した『熱変換装置』で冷気も生み出せるのです。この装置は定期的に掃除が必要ですが、それを考えても利益もでるし、便利になります」
指で夏島の地形をたどって、コウ博士は説明する。
「同時に冬島では、同じ原理でレイファルナスさまの力で温水ができます。それを各施設にひくという計画です。みなさんが納得してもらえるように、初めにレイファルナスさまの力がどう働くのか、この小さなサファイアで明日実験してみたいと思います」
夏主のレイが大きく息をついた。
「さて、話は終わりだけど……ネイスクレファはどう思った? ちなみに私の意見を言うと、正直困惑している。確かに便利だけど、作って支障のないものなのか。だから、何よりも先にネイスクレファに相談にきた。これは私と君の力が動力になっているものだしね。そして、リアスさまにも相談しに行くのがいいと思っている」
この世界の創造主リアス。彼ならこの壮大な計画の一番的確な答えを見つけられるのだろうか。
壮大すぎてあっけにとられる。
「……もともと、この冬島は、寒い場所に住む生きもの為の浮島じゃ」
「夏島もね。暑い場所の生物のための浮島だよ。だから私もとても考えた。なによりもそんな大きな力を人間がもってもいいものか、ということも考えた。貴石の保管場所もきちんとしないと、別の目的で使われることもあるかもしれない、ともね」
あたしは少し考えた。
この冬島に温室ができるかもしれない。
そうすれば、人々のくらしは少し豊かになるだろう。
でも、それは安全なのだろうか?
「あたしもリアスさまに相談しに行くのがいいと思う」
話を聞いただけだが、この水力機関は実現など可能なのであろうか?
動力源は、あたしとレイの、季主の力だ。
その施設は――作ってもいいものなのだろうか?
冬を維持しているこの島に。